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経済産業省による「未来人材ビジョン」 2050年の産業分類別労働需要は3割増から5割減という大きなインパクトで変化

経済産業省は、2022年5月30日に、2030年、2050年の産業構造の転換を見据え、雇用・人材育成から教育システムに至る政策課題について一体的に議論し、未来を支える人材を育成・確保するための大きな方向性と、今後取り組むべき具体策を示した「未来人材ビジョン」を公表しました。

         

デジタル化の加速度的な進展や、脱炭素化の世界的な潮流は、これまでの産業構造だけでなく、職種・産業における労働需要にも変革をもたらそうとしています。

このレポートでは、2030年、2050年の産業構造の転換を見据えて雇用・人材育成から教育システムに至る政策課題について一体的に議論する経済産業省の「未来人材会議」が2022年5月30日に公表した「未来人材ビジョン」について紹介します。


■問題意識

・あらゆる場所でデジタル技術が活用されており、それと連動して、脱炭素は一気に世界的潮流となった。

・それに伴い労働市場における労働力・雇用・人材育成などの問題に向き合う必要がある。

〇自動化で両極化が進む世界の労働市場

・「日本の労働人口の49%が将来自動化される」との予測がある。

・米国では自動化により「労働市場の両極化」が起きたことがすでに確認されている。

・日本においても、「労働市場の両極化」の兆候が表れ始めている。

「化石燃料関連産業の雇用は大きく減少する」との予測はあるものの、このような将来の不確実性を背景に、リスキルや、AI・ロボットとの共生の在り方に対する関心が高まっている。

〇日本が抱える労働者問題

・日本の生産年齢人口は、2050年には現在の2/3に減少

・2030年には、外国人労働者が日本の至る所で不足するとの予測

・日本は、高度外国人から選ばれない国になっている。

より少ない人口で社会を維持し、 外国人から「選ばれる国」になる意味でも、 社会システム全体の見直しが迫られている。

〇企業ができることは何か。

・これからの時代に必要となる具体的な能力やスキルを示す。

・今働いている方、これから働き手になる学生、教育機関等、 多くの方々に伝える。

雇用・人材育成と教育システムは、別々に議論されがちであるが、 企業が主体となって、これらを一体的に議論することに、意義があり、それぞれが変わっていくべき方向性が明確になる。

■労働需要の推計

未来人材会議では、2030年、2050年における日本の労働需要を推計

〇次の社会を形づくる若い世代に求められる能力やスキル

自動車、電機、産業機械、エネルギー、小売、物流、建設、金融 といった各業種で、 グローバル競争を戦う大企業の社長や役員が実感している 「これから求められる人材像」は以下。

・常識や前提にとらわれず、ゼロからイチを生み出す能力

・夢中を手放さず一つのことを掘り下げていく姿勢

・グローバルな社会課題を解決する意欲

・多様性を受容し他者と協働する能力

これからの時代に必要となる能力やスキルは、 基礎能力や高度な専門知識だけなく、上記のような、根源的な意識・行動面に至る能力や姿勢が求められる。

現場を支える方々を含めて、 あらゆる人が時代の変化を察知し、 能力やスキルを絶えず更新し続けなければ、 今後加速する産業構造の転換に適応できない。

〇先行研究における「意識・行動面を含めた仕事に必要な能力等」

先行研究における「意識・行動面を含めた仕事に必要な能力等」は、 56項目から成る人の能力等の全体が整理される。

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〇56の能力等に対する需要

デジタル化や脱炭素化を受けた能力等の需要変化を仮定し、 2030年及び2050年に各能力等がどの程度求められるかを試算し、その上で、職種別・産業別の従事者数を推計したところ、“現在は「注意深さ・ミスがないこと」、「責任感・まじめさ」が重視されるが、 将来は「問題発見力」、「的確な予測」、「革新性」が一層求められる。”という結論が得られた。

〇2050年における労働需要の変化

デジタル化と脱炭素化が進展し、高い成長率を実現した、2050年において、特徴のはっきりした労働需要の変化を確認

職種 事務従事者 42% 減少
販売従事者 26% 減少
情報処理・通信技術者 20% 増加
開発・製造技術者 11% 増加
産業 卸売・小売業 27% 減少
製造業 1% 減少

「問題発見力」や「的確な予測」等が求められるエンジニアのような職種の需要が増える一方、事務・販売従事者といった職種に対する需要は減り、現在、事務・販売従事者を多く雇用する産業の労働需要は大きく減ることとなる。

・AIやロボットで代替しやすい職種では雇用が減少する。

・代替しづらい職種や、新たな技術開発を担う職種では雇用が増加する。

・職種構成の内訳が、各産業の雇用の増減に大きく影響する。

〇人材育成は時間軸を分けて考えるべき

デジタル化・脱炭素化という大きな構造変化は、人の能力等のうち、 「問題発見力」、「的確な予測」、「革新性」をより強く求めるようになり、 その結果、2050年には、 現在の産業を構成する職種のバランスが大きく変わるとともに、 産業分類別にみた労働需要も3割増から5割減という大きなインパクトで変化する可能性がある。

こうした変化に対処するため、産業界と教育機関が一体となって、 今後必要とされる能力等を備えた人材を育成することが求められており、その際、時間軸を分けて考えることが重要

・2030年目線:今の社会システムを出発点として変化を加える。

・2050年目線:全く異なる社会システムを前提に、 バックキャストして、今からできることに着手する。

■雇用・人材育成

かつて日本型雇用システムは、 大量生産モデルの製造業を中心に競争力の源泉と言われた。 日本型雇用システムは、右肩上がりの経済成長の下で、 長期雇用を前提に長期的な視点に立って人材育成を行い、組織の一体感の醸成や、企業特殊的な能力の蓄積に寄与した。

また、長期雇用を前提として定着した新卒一括採用により、一時的な例外期を除けば多くの学生が卒業後に就職できる傾向があり、若年失業率は低い水準に収まるなど、社会の安定につながっていた。

しかし、我が国の経済成長が鈍化し、日本企業特有の賃金・人事制度の前提とされていた「成長の継続」が見込めなくなった結果、 1990年代からは、日本型雇用システムの限界が指摘されてきた。

〇90年代以降、日本型雇用システムの変革が模索されてきたが、 働き手と、組織は、この30年でどうなったか。

・日本企業の従業員エンゲージメントは、世界全体でみて最低水準

・「現在の勤務先で働き続けたい」と考える人は少ない。

・半数近くのITエンジニアが「技術やスキルの陳腐化に不安」を抱えている。

・企業は人に投資せず、個人も学ばない。

・日本の人材の競争力は下がっている。

・日本の国際競争力は、この30年で1位から31位に落ちた。

〇企業にはいま、雇用・人材育成システムの聖域なき見直しが求められている。

・終身雇用や年功型賃金に代表される「日本型雇用システム」と社外との接続領域である「採用戦略」をどうするか。

・日本企業が感じる人材マネジメントの一番の課題は、「人事戦略が経営戦略に紐付いていない」こと。

・投資家が、中長期的な投資・財務戦略において最も重視すべきと考えているものは「人材投資」であるにも関わらず、企業側の認識とギャップがある。

・人的資本経営により、働き手と組織の関係は、「閉鎖的」関係から「選び、選ばれる」関係へと変化していくべき。

・人的資本経営は、スタートアップの方が既に実践に移せているため、スタートアップから学ぶべき

・日本型雇用システムの起源は、公務員の人事制度にあるのだから、 公務員の人事制度も変わっていくべきであり、 むしろ先に変わっていくべき

人的資本経営という変革を通じて、日本社会で働く個人の能力が十二分に発揮されるようになれば、 日本社会がより一層、キャリアや人生設計の複線化が当たり前で、 多様な人材がそれぞれの持ち場で活躍でき、失敗してもまたやり直せる社会へと、転換していく。

〇社外との接続領域である採用シーンでは、 新卒一括採用が中心的な役割を担ってきた。

・日本の学生は、「大学生後期」に進路を決める者の割合が高い。

・大企業の採用手法は、新卒一括採用だけでなく、中途採用、通年採用、 職種別採用、ジョブ型採用など、多様化や複線化が進みつつある。

・自社が求めるスキルや能力を明確化し、 それに見合った処遇を行う企業が増加している。

・最初は無限定正社員で働き、キャリアを積んだ後、 ジョブ型雇用に転換していくという考え方も出てきている。

これからの採用シーンでは、新卒一括採用が相対化され、「何を深く学び、体得してきたのか」が問われる、多様で複線化された採用の「入口」になるはずで、それには、学生の就業観を早期に培うインターンシップが重要

〇外国人は、日本で長く働き続けてくれない。 地域社会は、人手不足を克服しなければならない。

・3割の外国人材が、日本企業に入社した後、1年以内の離職を経験。

・地域の有力企業であっても、専任の人事・採用担当者がいない企業が4割。

2050年目線では、仮想空間上のアバターや遠隔操作するロボット、 人の身体的能力や知覚能力を拡張する技術が普及する中、 付加価値の源泉や労働形態のあり方が根本から変わると推測される。

それは、身体や脳、空間や時間の制約がなくなっていく過程でもあり、その過程では、「働くこと」の意味や「組織」の意味付け自体が問い直され、働き方を規律する法体系やセーフティネットの在り方も 根本から見直される可能性がある。

こうした未来への備えとしては、 働き手の自律性を高める方向性がやはり望ましい。

■教育

新たな未来を牽引する人材が求められる。 それは、好きなことにのめり込んで豊かな発想や専門性を身に付け、 多様な他者と協働しながら、新たな価値やビジョンを創造し、 社会課題や生活課題に「新しい解」を生み出せる人材である。

〇「育てられる」のではなく、 ある一定の環境の中で「自ら育つ」という視点が重要

・OECD加盟国中、日本の15歳の数学的・科学的リテラシーはトップレベル。 日本の子どもは、未来を切り拓く素晴らしい可能性を秘めている。

・「数学や理科を使う職業につきたい」と思う子どもは少なく、 高い数学的・科学的リテラシーが十分に活かされていない。

・日本は、探究的な(正解のない)理科学習が少なく、 子どもたちが「科学の楽しさを感じる」機会に乏しい。

〇学校教育が「目指してきた理想」と「今の現実」の差をどのように埋めるのか。

・日本の18歳の「社会への当事者意識」は低い。

・答えのない「本物」の社会課題と、教科書レベルの知識を行き来しながら、 教員や研究者の伴走で本格的な研究を進める中学・高校も生まれている。

・デジタルを活かすことで、場所、時間、年齢を問わず、誰であっても世界に広がる「本物」の社会課題に向き合い、探究学習を始められる環境が必要。

・AI教材を活用することで、知識の習得や反復的な演習を効率化し、 探究学習の時間を十分に捻出する先進的な取組も出てきた。

一律・一斉で画一的な知識を詰め込めば対処できる時代は終わり、今は「目指す社会に向けて何を実現すべきか」という到達地点を考える時代を迎え、子どもたちが繰り返し挑戦したくなる機会を増やすべき。

教員に探究や研究を指導する役割が期待されてこなかった中、学校だけに多くの役割を求めるのは現実的ではなく、学校の外で多様な才能を開花させる「サードプレイス」を広げるべき。

〇デジタル時代では、「知識」の習得 と、「探究(”知恵”)力」の鍛錬 に分けて捉え直すべき

学び手は、「知識」の習得と、「探究力」の鍛錬、という2つのレイヤーの間を らせん状に循環しながら、自らの能力・スキルを高めることができる。

「知識」を習得するレイヤーでは、 デジタルを基盤に、企業や大学等の教育プログラムを 共通の知として整備することで、 誰もが年齢や居住地を問わずにアクセスし、 個別最適な学びを実現。

「探究力」を鍛錬するレイヤーでは、 社会課題や生活課題の当事者として、 課題の構造を見極めながら、自分に足りない知恵を集め、 異なる他者との対話を通じて、協働的な学びが行われるべき。

その際、世の中の社会課題を機敏に感知するスタートアップの知見を教育にも取り入れる必要がある。

〇イノベーションの創出や事業の変革が企業の生き残りのために不可欠となる時代が訪れている。

・高等教育の頂点たる日本の大学院教育を受けた博士人材の社会的評価が埋没している可能性がある。

・博士人材自身が早期に社会に出て企業実務に貢献することや、 社会人が年齢に囚われず博士課程に入り直すことを促す中で、 大学と実業の双方で多様なキャリアパスを実現すべき

・高度な専門性と全体を俯瞰する能力をもとに 新しい価値を創造する人材として、 博士人材を積極的に活用しようとする動きが出てきている。

・既に社会に出た働き手のスキル転換やキャリアアップにも役立つよう、 必要な時に入り直し、学び直せることも重要

〇変革の責任を、教育機関だけに押し付けてはいけない。

・学校の教員の負担は、国際的にも高い水準にある。

・企業は教育に主体的に参画し、 現場と二人三脚で「あるべき姿」へと変革していくべき

・企業が大学経営に参画したり、高専を新たに設立したりする動きも出てきている。

〇今すぐ取り組み実現できるものと、 10年がかりでしか実現しないものがある。

2040年のあるべき教育システムを実現するためには、 2030年代の教育が変わる必要があり、その枠組みを変えるには 2020年代前半に大きな変化を起こす必要がある。

一人ひとりの認知特性・興味関心・家庭環境の多様性を前提に、 時間・空間・教材・コーチの組み合わせの自由度を高めるため、 教育システム改革に今から着手することが必要になる。

■結語

デジタル化や脱炭素化といったメガトレンドは、必要とされる能力やスキルを変え、 職種や産業の労働需要を大きく増減させる可能性がある。

未来を支える人材を育成・確保するには、雇用・労働から教育まで、社会システム全体の見直しが必要

「旧来の日本型雇用システムからの転換」とは、人的資本経営を推進することで、働き手と組織の関係を、 閉鎖的な関係から、「選び、選ばれる」関係へと、変化させていくこと。

「好きなことに夢中になれる教育への転換」とは、一律・一斉で画一的な知識を詰め込むという考えを改め、 具体的なアクションを起こすこと。

一人ひとりの認知特性・興味関心・家庭環境の多様性を前提に、 時間・空間・教材・コーチの組み合わせの自由度を高める方向に転換し、子どもたちが好きなことに繰り返し挑戦したくなる機会を増やすべき。

〇「旧来の日本型雇用システムからの転換」の具体策

・人的資本経営に取り組む企業を一同に集め、 互いを高め合いながら、変化を加速させる「場」を創設する。

・インターンシップの適正化を図る一方で、学生の就業観を早期に培い、 目的意識を持った学業の修得、有為な若者の能力発揮にも資するよう、 インターンシップを積極的に活用する仕組みに変える。

・新卒一括採用だけでなく通年採用も並列される社会へ変革するべき。

・“ジョブ型雇用”の導入を検討する企業に向けたガイドラインを作成するべき。

・退職所得課税をはじめとする税制・社会保障制度については、多様な働き方やキャリアを踏まえた中立的な制度へ見直すべき。

・兼業・副業は、社内兼業も含めて、政府としてより一層推進すべき。

・働き手の学びへの意欲とキャリア自律意識を高めるための取組として、 「学び直し成果を活用したキャリアアップ」を促進する仕組み を創設するべき。

・スタートアップと大企業の間の人材の行き来を、 政府としても支援すべき。

・地域における人材の活躍に向けて、 地域の産学官による人材育成・確保のための機能を強化すべき。

・未来に向けた労働時間制度のあり方について検討すべき

〇「好きなことに夢中になれる教育への転換」の具体策

・教育課程編成の一層の弾力化

・多様な人材・社会人が学校教育に参画できる仕組みの整備

・時間・空間・教材・コーチの組み合わせの自由度を高める 教育システムの改革

・高校においては、全日制や通信制を問わず、必要に応じて 対面とデジタルを組み合わせることができるように転換すべき。

・公教育の外で才能育成・異能発掘を行おうとする 民間プログラムの全国ネットワークを創設すべき。

・「知識」の獲得に関する企業の研修教材や大学講義資料等は、 デジタルプラットフォーム上で解放を進め、 誰でもアクセスできる形で体系化していくべき。

・教員の方々のリソースを、「探究力」の鍛錬に集中させる。

・大学・高専等における企業による共同講座の設置

・自社の人材育成に資するためのコース・学科等の設置の促進


本件に関するお問い合わせ先

ウイングアーク1st株式会社
〒106-0032 東京都港区六本木三丁目2番1号 六本木グランドタワー
TEL:03-5962-7300  FAX:03-5962-7301 E-mail:tsales@wingarc.com


データ提供:From ウイングアーク1st株式会社 2022/06/29 プレスリリース

 
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