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特集「CIOの履歴書」 ゴールから逆算したキャリア形成のプラン チューリッヒ保険 木場武政氏

特集「CIOの履歴書」では、CIOとして活躍されている方々の「CIOに至るまでのキャリア」、「CIOの後のキャリア」について迫りCIOのキャリアについて考察するとともに、読者の皆様に「CIOの魅力」をお伝えします。第一弾となる今回は、チューリッヒ保険会社でCIO、ITサービス本部 本部長を務め、一般社団法人CIOシェアリング協議会理事でもある木場武政氏にお話を伺いました。

         

「プランしてCIOになる人と、プランせずともCIOになっていく人がいる。自分はCIOを目指しプランを立て、目標に向かって努力することでCIOになることができた」と話す木場さんは、どのようなお考えでこれまでのキャリアを歩まれてきて、どのような経緯でCIOに至ったのか、また、CIOというポジションの魅力、今後の展望についてお伺いしました。

現職について

── 現在のお仕事について教えてください。

木場氏 現在は、自動車保険、傷害保険、医療保険などをダイレクト販売しているチューリッヒ保険会社でIT全般の責任者を担当しています。

私が入社する2014年までチューリッヒ保険のITは主に現状を維持することを目的とした言わばメンテナンスモードでした。

しかし入社直後から積極的な投資を行うモードとなり、様々なプロジェクトを立ち上げて、成功まで導く役割を担ってきました。 現在も戦略プロジェクトがいくつか動いています。組織全体のマインドも変わってきたと思います。

── 入社と同時に会社と組織のモードが変わったということですね。 既存メンバーにとってのインパクトも大きかったと思いますが、メンバーの入れ替わりや定着状況はいかがでしたか?

木場氏 確かに、着任し会社のステージが投資モードになったばかりの頃、メンテナンスモードに居心地が良いと感じていたメンバーが何名か離れてしまいましたが、ここ2,3年はだいぶ落ち着いています。 トランスフォーメーションマインドが定着したと同時に、人も定着してきました。

── 以前からCIOとしてのポジションはあったのでしょうか?

木場氏 CIOのポジションは以前からありました。 ただし前任のCIOはCIO専任ではなくCOOと兼務していて、情シス領域については安定運用とコスト削減にフォーカスしていたと思います。 その方の前にCIO専任の方もいたようですが、当時IT部門は別会社だったため別会社の責任者も兼任し、依頼されたことを対応する形だったのではないかと思います。

CIOに至るまでのキャリアについて

── SAPでの開発、CRM日本法人の設立、競合であったPeoplesoftからの引き抜き、外資ITベンダーでの提案活動などのキャリアを積まれてきていますが、木場さんがCIOになろうとお考えになったのはいつごろですか? 漠然と考えたタイミングと、明確に目指したタイミングがあれば、それぞれお願いします。

木場氏 社会人になってCIOを夢見るようになり、実際にCIOになるまでにいくつかのターニングポイントがありましたが、明確に意識したのはCRMベンチャーの立ち上げに関わっていたときのことでした。 CRMベンチャーで営業を担当しお客様先を回る中で、時には理不尽な扱いを受けることもあり、いつか逆の立場になりたいという思いが湧きました。

実は大学卒業後、社会人になるにあたりサラリーマンには絶対なりたくないと思っていたのですが、このころには自分はやっぱりサラリーマンしか無理かな、と。 ただ、どうせサラリーマンをやるならばトップ層でやりたいと考えるようになり、自分が経験を積んできたITの領域のトップとして思い浮かんだのがCIOでした。 そのため、20代半ばには自身のキャリアゴールはCIOだと意識していました。

── 設定したキャリアゴールがぶれることはありませんでしたか?

木場氏 ぶれることはほとんどありませんでしたが、CIOになりたいと意識したばかりのころはCIOになるためのプロセスが明確に見えていませんでした。 ユーザ企業でCIOになるには、業務のことをよく知っている必要があると漠然と思っていたため、いずれユーザ企業で勤めたいと考えていました。

── AIGへ転職された際は、ユーザ企業での経験を得ることを目的とされていたのでしょうか?

木場氏 はい。AIGからお声がけいただいた際、ちょうどどの業界でCIOを目指そうか考えていたところでした。

私が金融業界のCIOを目指そうと考えた理由は2つあります。1つ目は、Peoplesoft時代金融担当のプリセールスのマネージャーを担っていたため、その際に得た知識や経験を生かすことができること、2つ目は会社の中でCIOの地位が高い企業でCIOを目指そうと考えたことです。

金融業は商品に実体がなく数字でしかないため、商品に実体がある他業種に比べてITの重要性が高く、CIOとしてよりビジネスに近い立場でプレーができると考えました。そうした考えからAIGへの入社を決めました。

── IBMへの転職はどのようなお考えでしたか?

木場氏 リーマンショックでAIGがガタガタになり、AIGで業務経験を積み重ねてCIOを目指すというビジョンが見えなくなる中、MBA取得等を通じて経営知識の習得に努めました。 改めてCIOへのキャリアの組み立てを検討していたところ、IBMから保険業界にフォーカスしたコンサルティングセールス・デリバリーを担うポジションでのオファーを受け、保険業界におけるCIOへの道につながると考え転職を決めました。 実際にそれが、今のCIO就任へつながっています。

CIOに就任してからの取り組みについて

── CIOとしての職責を果たす上で、ベンダー側での経験は有効だと思われますか?

木場氏 ベンダー側での経験があった方が有利だと思います。 ベンダーにはベンダーの利益の生み出し方があります。それはユーザ企業側の求める実現方法、進め方、スピード感と必ずしも合致しません。

ユーザ企業側にいるとき、ベンダーの利益の生み出し方の論理を理解できているかどうかで交渉力が変わると考えています。 ベンダー側での経験があった方が、様々なタイプのベンダーとうまくお付き合いできると思います。

── ベンダーで働いているCIOを目指す人が意識すべき取り組み姿勢やマインドについて、お考えを教えてください。

木場氏 ITは目的ではなく手段であることを意識することです。

ITを導入することで達成したい「ビジネスを伸ばしたい」、「売上をあげたい」、「コストを削減したい」などの本来の目的を正しく理解できるかどうかだと思います。 ベンダー側で働いていても、お客様が製品を買ったことによって何が嬉しいのか、必ず意識して提案することが必要だと思います。

── CIOにとって不可欠な業務に対する理解や事業マインドはどのように習得されてきましたか?

木場氏 業務知識を得るためには、プロジェクトに入ることです。 プロジェクトの報告を受けるだけでなく、場合によってはビジネスアナリストのような役割を自ら行うことで業務の詳細までよく理解できると思います。

事業マインドに対する意識については、所属している会社のIT予算の考え方も影響があると思います。 獲得した予算は再度の稟議なく使っていい会社と、経営陣の執行承認が必要な会社があると思います。 後者でなければもらったものは使い切らねばという考え方になってしまいがち。事業マインドはなかなか身につかないかもしれません。

── 冒頭にお話しいただいた、組織のモード/マインドの変革の他に、CIOになられてから注力された取り組みがあれば教えてください。

木場氏 チューリッヒ保険会社に入社をする前、日本IBMに所属していた当時、チューリッヒ保険会社の炎上プロジェクトに入り、立て直しプランを練っていたところでした。 その過程でCIOとしてのオファーをいただいた形です。

様々な経緯がありそのプロジェクト自体はなくなりましたが、ビジネスの課題がなくなったわけではありません。 自分で中止すべきと提言したプロジェクトを自分で再度立ち上げなおして完遂することがチューリッヒ保険会社からオファーをいただいた理由だと考えていました。 ゼロからプロジェクトを立て、1年半くらいかけてGo Liveとなりました。

このプロジェクトは今までチューリッヒ保険会社が投資した中で一番大きなプロジェクトで、大成功を収めることができました。 もっとも、この間はそのプロジェクトにかなり注力していたので、CIOとしての仕事は半分ぐらいしかできていなかったな、と思います。

── CIOに就任し、CIOならではの面白さ、難しさなど感じていることがあれば教えてください。

木場氏 面白いところは、テクノロジーで会社を成長させることができることです。 ビジネスを伸ばしていく一部を担えること、ビジネスを俯瞰してみることができるところが楽しいと感じています。

難しいところは、当然ですが一人では何もできないのでチームとしてプレーしないといけないところです。 正しいスキルを持った正しい人が正しく動かなければ物事が動かないため、マネジメントをうまく行い、関係者に同じ方向を向いて取り組んでもらうことが必要です。

── 組織作り、後進指導についてもお伺いしたいと思います。 木場さんに今回のインタビューをお願いした際、あらかじめ社内向けに配信されていたご自身のキャリアに関するブログコンテンツを共有いただきました。 ご自身のキャリアについて社内で配信されるに至った経緯を教えていただけますか?

木場氏 もともと社内SNSで自身の部署のメンバー向けにトレンドコンテンツなどについての情報発信をしていて、毎週のネタ探しに疲れてまとめて書けるネタを探したことがきっかけです。

1on1で何人かのメンバーから「どうやってCIOになったのか」、「どうやったらCIOになれるのか」など自分の背景に関する質問をもらうことがあり、キャリアについて話す機会がありました。 そこで過去に読んでいた日経新聞の「私の履歴書」が面白かったことを思い出し、自分の生い立ちを書こうと考え、約25週に渡って自らの半生について配信しました。

このメッセージは、特に自分の配下にいる「部下を持つ人」に読んでもらいたいと思っていました。 自分自身も「この人のもとで働いていてよかった、この人のために頑張りたい」と思ってもらえる人になりたいと思っていますし、部下を持つ人にはそうあってほしいと思っています。そういったメッセージを伝えられたらと考えていました。

今後のキャリアについて

── 今後のキャリアについて、考えられていることを教えてください。

木場氏 2つ考えていることがあります。

1つ目はCEOです。IT、業界、ビジネスの知識をもって会社全体を統制する役割であるCEOを目指したいと考えています。 もともとサラリーマンには絶対になりたくないと思っていた自分が、CIOへの目標を達成できた今、登れるところまで登り詰めてみようと思います。

チューリッヒ保険会社の現CEOも同じように、ITのヘッドという経歴を積んだ経験があります。 私に欠けているのはビジネスの経験です。この先ビジネスのヘッドとして売上責任にコミットする経験をした上で、CEOになるというイメージをしています。

2つ目は、独立です。これまで培ってきた経験で複数の会社に対して、テクノロジーを使ってビジネスを伸ばしていくことに貢献できればと考えています。 これは、CEOを経験した後のキャリアの選択肢として考えています。

CIOシェアリングについて

── CIOシェアリングというモデルに対する期待などあれば教えてください。

木場氏 この先当たり前になっていく考え方だと感じています。 働く人口が限られていく日本の状況を考えると、持ち得ているスキルを有効活用することが必要です。 1人が1つの場所でのみ価値を発揮することは日本経済にとってもったいないことだと思います。

── 木場さん自身も複業をされているとのことですが、木場さんのキャリア設計にとって複業はどのような位置づけでしょうか。

木場氏 自分の幅を広げる目的です。 違う業界や違う働き方や環境を見ることが、独立することを見据えたときに有効と考えています。

CIOを目指す方へのメッセージ

木場氏 CIOを担う上での重要なスタンスとして、よきインフルエンサーでなければならないと考えています。

チームメンバーに対するインフルエンサーとしては、チームを動かす力、インフルエンスしてプロジェクトなどをドライブする力が必要です。

経営に対するインフルエンサーとしては、経営のチャンスやリスクをIT視点で経営者に対して問いかけていく必要があります。

忘れてはいけないのがお客様に対するインフルエンサーです。 営業経由、サービス経由での間接的な発信になりますが、テクノロジーで生み出す新しいサービスをお客様にインフルエンスしていく、という意識が重要と考えています。

CIOという役割は、やはり1人では何もできないので、周りの人を巻き込む力、ドライブしてデリバリーする力が求められます。 若いうちからそのような力が身に着けられる経験をどんどん積んでいってもらいたいと考えています。

お話を伺ったCIO:木場武政氏のプロフィール

木場 武政(きば・たけまさ)氏
チューリッヒ保険会社 CIO ITサービス本部 本部長

大学卒業後SAPジャパンに入社。オニックスソフトウェアにて日本法人立上げを経て、Peoplesoftへ入社。その後AIGに入社し、郵政準備会社出向、青山学院でMBAを取得。2013年より日本IBMでアソシエイトパートナーを務め、2014年より現職。

 
 

聞き手:坂本俊輔
CIOシェアリング協議会 副代表理事、GPTech 代表取締役社長、元政府CIO補佐官

大手SIerでの業務従事ののち、ITコンサルティングファームの役員を経て、2010年にCIOアウトソーシングを提供する株式会社グローバル・パートナーズ・テクノロジーを設立。以降、一貫してユーザ企業のIT体制強化の活動に従事している。2017年からは政府CIO補佐官を兼業で務めた他、IT政策担当大臣補佐官や株式会社カーチスホールディングスのCIOなども務めた。

 
 

本記事は「一般社団法人CIOシェアリング協議会」に掲載された「CIOの履歴書」のコンテンツを許可を得て掲載しています。(インタビュー実施日 2021年5月7日)

 

 

 

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