About us データのじかんとは?
SFは好きですか?
未来の世界はどうなっていると思いますか?
劉慈欣著『三体』が世界で2900万部以上を売上げ、日本国内では、月面着陸計画のように途方もない目標を掲げる「ムーンショット型研究開発制度」が始動。SF小説『スノウ・クラッシュ』に由来する仮想空間イメージ「メタバース」がNFTブームを背景にトレンドワードとなるなど、SFあるいはSF的発想を必要とする未来予測に近年、注目が集まっています。
そんな中で目を引くワードが“SF思考”。2021年7月に出版された『SF思考――ビジネスと自分の未来を考えるスキル』(ダイヤモンド社)の書評を通して、「SF思考とは?」「その使い方とは?」といった気になるポイントをご紹介します!
「SF思考」は“SF的発想で行う新しい未来予測の手法”です。
科学文化作家、応用文学者で筑波大学の研究員である宮本道人氏主導のもと、2020年の三菱総合研究所50周年記念研究を通して形作られました。
そのキモは、以下の3点にあると筆者は考えます。
1.SF的自由さで予想外の未来を想像する
2.SF的詳細さで未来の価値観、ガジェット、課題、課題の解決方法などを形にする
3.SF的面白さで未来のイメージを共有する
企業が数年後、数十年後も存続し価値を生み出し続けるためには、ビジョンの創造とその礎となる未来予測が欠かせません。しかし、予測不可能なVUCA時代、手元にあるデータや常識から地続きな未来を想像する従来の未来予測手法は通用しなくなってきています。
そこで宮本氏らが提案するのが「SF思考」です。例えば、「寄り道サイエンティスト」のように、「ちょっとおかしな『未来の言葉』(※)」を考えるのもSF思考のユニークな手法のひとつです。ひとまず、「今あるどんな職業が元になっているのか」「今何の役に立つのか」「実現可能か」などの発想はいりません。今は「ない」未来を想像(創造)するには、今までに「ない」ところから生まれるアイディアが必要なのではないでしょうか。
そこから、そのような概念が存在する未来社会ではどのような人が存在し、どのような課題があり、どんな制度やガジェットが活用されているのかを考えましょう。従来の未来予測では、現状の課題や可能性を起点に考えた結果、ポジティブな面が強調されかえって現実離れしてしまう……といったケースも散見されました。SF思考は、SF作品というアウトプットをイメージすることでその未来に生きる人(主人公など)のリアルな悩みや現状について突き詰めることを促します。
SF思考の最も重要なポイントが、ポジティブであれネガティブであれ、予測を立てているとき、聞いているときに”ワクワクする”ということです。どんな未来予測であれ他者を巻き込めなければ机上の空論と化してしまうでしょう。予測の実践者だけでなく、最初は受け身な観測者も興味を持ちやすいのは、ほかにない利点だと考えられます。
※藤本 敦也 (著), 宮本 道人 (著), 関根 秀真 (著) 『SF思考――ビジネスと自分の未来を考えるスキル Kindle版』ダイヤモンド社、2021、99ページ
『SF思考――ビジネスと自分の未来を考えるスキル』において、SF思考をビジネスに活用するポイントのひとつとして紹介されているのが「SF作家・SF編集者・SF読者」の3つの視点を活用するということです。
ここまでの内容を読んで「SF作家としての視点しか想定していなかった……」という方は多いのではないでしょうか?
SF編集者の役割は作家の世界を別の視点から広げ、また批判的に検証することで読者の感情に接続できる物語にすることです。ビジネスにおけるSF思考に置き換えると、SF作家として生み出した未来ビジョンを微に入り細を穿って検証し、世に出せる形にまでブラッシュアップするのがSF編集者のSF思考における役割のひとつといえるでしょう。
さて、より生かし方を想像しがたいのが「SF読者」の役割です。SF読者は主人公に感情移入したり、「自分が実際にその世界に飛び込んだら……?」と想像したりして、作品を楽しみます。そして、ときにその想像力を現実の企画や発明に生かします。ビジネスにおけるSF思考においてもそれは同じ。完成した未来ビジョンに飛び込み、疑似体験することで新たな視点で「再創造」を果たします。同好の士でチーム(ファンクラブ)をつくったり、インスピレーションを形にしたりするのも読者の自由です。
このようにさまざまな視点を必要とする「SF思考」は複数人でのワークショップを通して実践するのがベターです。『SF思考――ビジネスと自分の未来を考えるスキル』第4章「SF思考がはばたく『未来ストーリーづくり』」では、そのメソッドが5つのステップ(「発散フェーズ」と「収束フェーズ」に大別される)で具体的に紹介されています。
“イノベーションの父”と呼ばれるオーストラリアの経済学者シュンペーターは、一見無関係なものを結びつける「新結合」を、イノベーションの本質として提唱しました。「寄り道」×「サイエンティスト」のような造語を生み出すSF思考の起点は、「新結合」を無理やり発生させるメソッドといえます。
「未来」の厄介なところは、今はまだ「ない」ということです。1920年に『日本及日本人』という雑誌に掲載された「百年後の日本」のイメージでは、日本の人口は2億6千万人になる、国の支出の半分が教育費になる、漢字は廃止され英語が公用語になるといった予測が大真面目に掲載されていたそうです。
100年後というはるか先でなくても、誰が1990年代にスマートフォンのここまでの発展・普及を予測したり、先回りして新型コロナウイルスの世界的流行を予測したりすることができたでしょうか。
もちろん、人類はデータという武器を手にし、高い精度で予測できることもあります。とはいえ、数十年、数百年先のビジョンを示すならば、より確実なのは未来を「想像」することではなく、「創造」することによってもたらされるでしょう。だからこそ、人々の想像上でイノベーションを実現するSF思考を、ユニークなだけでなく“使える”手法として取り入れることをおすすめします。
『SF思考――ビジネスと自分の未来を考えるスキル』中には、5編のプロのSF作家による短編小説が、その背景にある三菱総合研究所の意図や、作家の質問例とともに掲載されています。
SF思考の最重要ポイントとして、考える側としても聞く側としても“ワクワクする”という点を挙げました。まずは、読者としてそれを体験するのが最も手っ取り早いはず。気になった方は、ぜひ書店などで同書を手に取り、短編を読んでみてください。
【参考資料】 ・藤本 敦也 (著), 宮本 道人 (著), 関根 秀真 (著) 『SF思考――ビジネスと自分の未来を考えるスキル Kindle版』ダイヤモンド社、2021 ・三菱総合研究所50周年記念サイト ・吉村浩志『≪実践≫イノベーション経営 イノベーションの意味を考える 「新結合」と「デザイン」を手がかりに』大和総研 ・100年後の未来、どう予測?100年前の人たちが想像した「今の日本の社会」とは┃人生100年の歩き方
(宮田文机)
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