この記事を読んでいるということは、あなたは今コンピュータ(スマホやタブレットも含みます!)に触れていますね?
しかし、そのコンピュータがどのような仕組みで動いているのかをちゃんと理解できている方は少ないのではないでしょうか?画像、音、動画、テキストといったアナログ情報をデジタル化する方法をご存知でしょうか?あるいは、 悪意あるソフトウェアをインストールしないためには、ブラウザにどのような設定を施すことが必要でしょうか?
こんなコンピューターサイエンスの基礎知識を、プリンストン大学コンピューターサイエンス学部教授で、C言語、UNIXの世界で「神様」とも称されるブライアン・カーニハン氏が伝授するのが『教養としてのコンピューターサイエンス講義 第2版 今こそ知っておくべき「デジタル世界」の基礎知識』(日経BP、2022)です。
594ページにわたる書籍の内容を、“コンピューターサイエンスの専門家ではない”すべての方に向けて、書評いたします。
今回紹介する書籍の第1版である『教養としてのコンピューターサイエンス講義 今こそ知っておくべき「デジタル世界」の基礎知識』がリリースされたのは2020年2月のこと。そもそもは全米大学ランキングで12回連続総合大学部門トップを取り続けているニュージャージー州のプリンストン大学で、一般人向けに開かれてきた人気講義が下敷きとなっています。
その講師かつ、書籍の筆者でもあるブライアン・カーニハン教授は伝説的な科学者であり、C言語のバイブル『プログラミング言語C』の著者でもあります。プログラミングを少しでもかじったことがある方の多くは、まず最初に「”hello,world”」と画面に表示させるところからチュートリアルをはじめたでしょう。その慣習が広まったのも、『プログラミング言語C』の例題からだと言われています。
そんな『教養としてのコンピューターサイエンス講義 今こそ知っておくべき「デジタル世界」の基礎知識』は「第1部:ハードウェア」「第2部:ソフトウェア」「第3部:コミュニケーション」の3パートに分けて、コンピュータサイエンスの基礎について496ページで解説する書籍でした。コミュニケーションの内容には、ネットワークやインターネット、ウェブの仕組み、データ収集・トラッキングの方法や、ウェブセキュリティについての講義が含まれます。
2022年4月にリリースされた『第2版』では、「データと情報」「プライバシーとセキュリティ」の内容に「人工知能と機械学習」「次に来るものは?」を追加し、「第4部:データ」として独立させています。さらに、Pythonによるプログラミングやコロナ禍を反映した注釈も加筆されました。
本記事では、時勢に合わせアップデートされた『第2版』の内容を書評してまいります。
コンピューターサイエンスの世界は広大であり、その内容を一冊の本にまとめるのは簡単なことではありません。『教養としてのコンピューターサイエンス講義 第2版』の前書きでは、講義が終了した段階で人々が「コンピューティングに関する新聞記事を読んで理解できるようになる」(※)レベルにまで到達することを想定しています。
「なんだ、それぐらいなら──」と感じられるかもしれませんが、コンピューターサイエンスの専門家以外の方が同書を読み通すと、これまでコンピューターについて自分がぼんやりとしたレベルでしかとらえられていなかったことに気づくはずです。
たとえばコンピューターの5大装置といえば「制御装置」「演算装置」「記憶装置」「入力装置」「出力装置」だということは知識として知っていても、制御装置と演算装置を兼ねる「プロセッサー(CPU)」が具体的にどのように命令を実行するのかイメージできる方はそれほど多くないのではないでしょうか。
「第1部 ハードウエア:第3章 プロセッサーの内部」では、その仕組みについてトイ・コンピューターという架空のマシンを用いて丁寧な説明が行われます(この部分は、プログラミングの基礎的なルールを押さえることにも役立ちます)。
また、『第2部 ソフトウェア』ではコンピューターアルゴリズムにおける複雑さの重要性や、アセンブリー言語、OSの役割、「ファイルの削除」が行われてもデータが復元される場合がある理由などについて解説されます。そのうえで、『第3部 コミュニケーション』ではインターネット・ウェブの仕組みや機能について、『第4部 データ』では、検索サービスの背後で行われていることや、カーニハン教授自身が行っているネットワークセキュリティ対策について学べます。
この本は休み時間にサクッと読むには少し長い分量であり、具体的なプログラミングについての記述など読むだけでは理解しづらい部分もありますが、ポイントは体系的にコンピューターサイエンスの知識が積み上げられているということです。
1800年ごろのジャカード織機から人工知能まで、一通りの内容に触れることで、これまで得体の知れなかったPCやスマホ、各種ソフトウェアに以前よりも親しみを持って接することができるようになるでしょう。
※…引用元:ブライアン・カーニハン (著), 酒匂 寛 (翻訳), 坂村 健 (その他) 『教養としてのコンピューターサイエンス講義 第2版 今こそ知っておくべき「デジタル世界」の基礎知識 Kindle版』(日経BP、2022)9ページ
2022年4月より「情報I」が高校の共通必修科目となり、2025年度からは、大学入学共通テストでも出題されることが予定されています。ぜひこちらの大学入試センターのリンクより、その試作問題を確認してみてください。
ほとんど解けない、問題の意味すら分からないという方も少なくないはずです。
デジタル機器を活用している・できる人々とそうでない人々の間に生まれる格差をデジタル・ディバイド(情報格差)といい、現在は65歳以上の高齢者とそれ以下の世代との格差が問題にされる傾向にあります。
引用元:令和3年版情報通信白書┃総務省
しかし、「情報Ⅰ」など若年層への情報教育が進展すれば、それ以上の世代とのデジタル・ディバイドも深まっていくでしょう。
コミュニケーションの前提として“教養としての”コンピューターサイエンスを学んでおくことは書籍中での表現を引用すれば、未来の大統領、あるいは知的な市民(※)にとって不可欠になるはずです。
※…引用元:ブライアン・カーニハン (著), 酒匂 寛 (翻訳), 坂村 健 (その他) 『教養としてのコンピューターサイエンス講義 第2版 今こそ知っておくべき「デジタル世界」の基礎知識 Kindle版』(日経BP、2022)9ページ
書籍のもととなった授業『Computers in Our World』。
今でもWeb上には講義ノートが残されており、そのなかに記述された授業のルールでひと際目をひくのが、以下の文言です。
please don’t snore (sleeping is ok) = “いびきをかかないでください(寝るのはOKです)”
「コンピューターサイエンスなんて難しそう……」と感じた方もまずは肩の荷をおろしてください。大切なのは全てを理解することではなく、まずは授業に出席してみること(書籍の場合は本を開いてみること)なのです。
【参考資料】 ・ブライアン・カーニハン (著), 酒匂 寛 (翻訳), 坂村 健 (その他) 『教養としてのコンピューターサイエンス講義 第2版 今こそ知っておくべき「デジタル世界」の基礎知識 Kindle版』日経BP、2022 ・USニューズの全米大学ランキング発表 唯一の「異変」に注目┃Forbes Japan ・Brian Kernighan┃Princeton University ・Computer Science 109: Computers in Our World Fall 2014┃Princeton University
(宮田文机)
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