About us データのじかんとは?
私たちはどうすれば幸せになれるのか。
人間にとって普遍的な疑問であり、「その答えがわかれば苦労しないよ」とため息をついたかたもいるかもしれません。
その問いにデータを用いたアプローチで挑み、幸せになるための指針について、統計学、経済学、易学、物理学など越境的かつユニークな視点で説くのが2021年3月に草思社よりリリースされた『予測不能の時代: データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ 』(以下、『予測不能の時代』)です。
本記事では『予測不能の時代』を書評し、予測不能の時代において幸福がカギとなる理由や著者が提案する新しいAI・データの使い方に迫ります。
『予測不能の時代』は、“現代のデータが示す個人や組織の幸福・生産性の研究結果と、経済学や易学など人類の積み重ねた英知を掛け合わせ、働き方・生き方の指針を提案する本”です。
日立製作所でAIやデータ活用に関するフェロー(特別研究員)を務めるとともに、幸福感を定量化する技術に基づいて働く人の「こころ」をマネジメントするサービスを提供する株式会社ハピネスプラネットを代表取締役CEOとして運営する矢野和男氏によって著されました。
上記のPVでも説明されている通り、矢野氏の研究チームは14年以上、人の動きを50ミリ/秒単位で計測し、”幸福感を感じている人に特徴的な身体の動きのパターン”を見出しました。これはすなわち、人体の動きのパターンを計測することで「その人の幸福感が数値化できる」ということです。
では、なぜ矢野氏は幸福感の数値化に取り組み、専門の会社まで立ち上げたのでしょうか?
それは「予測不能の時代」である現代において、「幸福になること」は揺らがぬ組織、そして人生の指針となるからです。大企業であっても安泰ではなく、新型コロナウイルスの流行やリーマン・ショックに代表される予想外の事態が頻発する現代。もはや計画やルール、標準化と横展開、内部統制などを基とする従来の組織のあり方は通用しないと矢野氏は主張します。
そして、“幸福になる”という目的のために個人・組織はどうあるべきかを、4つの原則や幸せな組織の4つの特徴「FINE」、幸せを高める心の資本「HERO」、PDCAに代わるPPPサイクルなど具体的な手法とともに解説しているのが『予測不能の時代』なのです。
より同書の内容について理解を深めるため、具体的なパートをご紹介しましょう。
第6章「変化にデータで向き合う」は、“このままではデータとAIは「予測不能の時代」には使えない”という前提からスタートします。その理由は、統計学は“多数のサンプルによって「統計的に有意な現象」を見出す学問(※)”だから。
「直感に従って行動した方が早い」「数字なんて当てにならない」とデータやAIを軽視するビジネスマンは旧弊的に思えます。しかし、そんな彼らにもいくばくかの理があるようにも感じられます。
それは、データはあくまで傾向を示すだけで未来は本質的に予測不能であり、またビジネスの状況は刻一刻と変わるからでしょう。そこで矢野氏は、以下の3つの原則を新しいデータ解析の原則として提示します。
第1原則:予測不能性の原則 未来は予測不能に変化し続ける
第2原則:データ能動獲得の原則 データは、能動的に獲得し続ける
第3原則:実験と学習の原則 データを活用し、実験と学習を繰り返して目的を追求し続ける
引用元:矢野和夫『予測不能の時代:データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ Kindle版』草思社、2021、位置No.2314/3972
従来の統計学の常識とは違い、サンプル数が1つしかなくても行動を起こすべきだと矢野氏は主張します。行動しながら仮説を検証し、そこでデータを獲得。その繰り返しで戦略をアップデートしていくのが「予測不能の時代」にふさわしいデータ・AIの使い方なのです。
ベイズ統計学や強化学習など、その考え方にそぐうような統計学・機械学習の分野は近年盛り上がりを見せています。しかし、重要なのはそのような専門用語の枠に囚われず、常に変化しながら目的に向かって進み続けることだと矢野氏は考えているそうです。
そうして開発されたAIは未来を予測するのではなく、データを用いて変化し機会を作り出す「未来開拓型AI」と名づけられています。
※引用元……矢野和夫『予測不能の時代:データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ Kindle版』草思社、2021、位置No.2277/3972
『予測不能の時代』において、「未来開拓型AI」の実例として紹介されているのが以下の動画のブランコと鉄棒を練習するロボットです。
最初にやみくもにブランコを漕いでいたロボット(0:03~0:22)が重力と遠心力を利用するというコツをつかみ始め(0:23~0:33)、最後にはたいていの人より安定して上手なこぎ方を身につけます(0:34~0:53)。つづいてAIを鉄棒のロボットにつなぎ替えると、やはり最初はやみくもにこぎ始めますが、(1:02~1:14)、ブランコの場合と同様にコツをつかみ始め(1:15~1:24)、最後には体操選手のようにダイナミックなこぎ方ができるようになりました(1:25~1:46)。
2021年8月に公開されたパルクール動画が人間以上の動きとして話題になった、ボストン・ダイナミクス社のアトラスも同様に、幾度の失敗を経てデータを収集し変化することで、成長したといいます。
この手順、まさに我々人間が新たなことに取り組み、徐々に上達してなりたい姿へ近づく流れと同じではないでしょうか。工学博士、作家の森博嗣氏はその著書内で「幸せは、満足へ向かう加速度のこと(※)」と述べています。
『予測不能の時代』第2章「新たな幸せの姿」において、幸せな組織では営業の生産性は30%程度、創造性が3倍も高いこと、そして幸せな人が多い会社はそうでない会社に比べて1株あたりの利益が18%も高いことが紹介されています。
幸せであれば生産性が高まり、生産性が高まれば満足や上達への加速度が高まるという正のスパイラルがここに見られます。我々はつい生産性や利益を高め、その結果組織の幸福度につなげようと考えてしまいますが、案外組織の幸福度を高めることに取り組み、その結果として生産性向上につなげる方が近道かもしれません。
そして、矢野氏が取り組む「幸福の数値化」は、幸福な組織・人をつくることをより容易にしてくれるでしょう。
※…引用元:森博嗣『常識にとらわれない100の講義』大和書房、2013、41ページ
この記事では、概要と、AI・データと幸福の関わりに絞って『予測不能の時代』の内容を取り上げました。予測不能の時代に従うべき原則や幸せな組織の具体的な特徴、幸せなリモートワークのための4箇条など同書にはまだまだ充実した内容が綴られています。ぜひ気になった方は手に取ってみてください。
組織としても個人としても、幸福を追求するうえでのヒントが得られるはずです。
(宮田文机)
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