データのじかん週報では、データのじかんの編集部内で会話されるこばなしを週1度程度、速報的にお届けいたします。
大川:見本市主催会社のRX Japanが主催するエレクトロニクス開発・実装展『ネプコンジャパン』に参加してきました。展示はもちろん、いつも面白いのは講演です。今回も例に漏れず、『中小企業のロボット人材育成とロボット活用戦略』というパネルディスカッションは大変興味深い内容でした。同講演の主催は日本ロボットシステムインテグレータ協会(以下、Sler協会)です
野島:Sler協会ですか。失礼ながら初めて知りました。
大川:いわゆるロボットSIerという人たちの集まりですね。一見すると『どうなの?』というか何をやっているのかあまり知られていないと思います
ロボット・FA(Factory Automation)システムの構築等を行うシステムインテグレータ(以下「SIer」という。)の共通基盤組織。SIerの事業環境の向上及び能力強化に取り組み、SIerを取り巻く関係者間の連携を促進させることにより、あまねく産業における生産活動の高度化を推進し、我が国の産業の持続的発展と競争力の強化に寄与することを目的とする。 |
大川:同協会は中小企業がロボットを活用するための環境整備として、学生向けなどを対象にした『人材育成活動』を中心に行っています。一見、よくある話なのですがその内容が面白い。VR教育ツールやロボット比較施設など、トレーニングの段階から現実に近いカタチで学べるようアプローチしているんです。実際にオフラインの教育にも力を入れていて、VR教育などを行った後、実機を持ってきて触れる機会を充実させているんですよ。初めて実機に触れる大学生は、意外にもほぼできるらしいんです。気を付けるのは配線コードくらいらしいんです。
野島:あっさりできちゃうものなんですね。
大川:今まではロボットの導入においては操作する側の『実技が課題』とされることが多く、様々な教育方法が試されて来ていたのですが『学びの初期段階からやらせたらできた』というのは個人的には意外でしたね(笑)。パネラーの一人の高丸工業株式会社の高丸社長が発言されていた『すでに溶接できる人に溶接ロボットの使い方をわざわざ教える意味が分からない』というのも、さもありなんといった感じですね。
野島:つまり、溶接をできる人ではなく溶接をできない人に溶接ロボットの使い方を教えるべきという意味でしょうか?
大川:その通りです!新入社員がその道数十年のベテラン溶接工の70~80%くらいの成果物を短期間でつくれるようにするのが、ロボットの役割なんですよね。でも、そのポイントに案外とみんな気付けていないんですよ。だからこそ、『中小企業がロボットを活用できていない』という誤解が生まれるのではないかという高丸社長の考えには頷けますね。思った以上にロボット操作ができる人材を育てるプログラムが充実しているので、これからの活動もすごく期待できますよ。
後は、プロトアウトスタジオが主催する『プロトアウト DEMO DAY vol8』に参加しました。こちらもすごく面白かったですよ。特に前半の塚田農場の話は興味深かったです。いわゆる小さなDXから『組織風土改革』まで紐づいた話で、個人的にはまさに完璧なDXだと思いましたよ。逆になぜこの内容を誰も取材行かないのか、なぜ広報に力を入れて発信しないのか不思議に思うレベルでした。
大川:科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が『全国イノベーション調査2022年調査統計報告』を公開しました。総論としては、2019年~21年の3年間でコロナ禍でイノベーションは確かに起こったが、デジタル化は進んでいない(変化がない)という内容でした。個人的には『そうなのかなぁ』という感想ですね。
面白かったのは、『科学技術予測調査 ビジョニング総合報告書』ですね。文部科学省が中長期の科学技術計画を決めるための調査という位置付けだと私は理解しています。国がちゃんと行っている未来洞察の取り組みでは最大規模だと思います。今回の科学技術予測調査は、ホライズン⇒ビジョニング⇒デルファイ⇒シナリオで進める中の『ビジョニング』の段階で、簡単に言うと人の意思を示しています。
■ビジョニングとは |
大川:通常、こういった調査は専門家にヒアリングなどを行うのが定石なのですが、この調査では一般人に聞いているのが面白いポイントですよ。しかもインプットがない状態ですから。そのなかで出た『望ましい未来社会像』の回答が次の通りです。
野島:「2.2 誰がビジョン形成に関わるのか?」の内容からも、意思決定者や限られた関係者だけでなく、民主主義的価値に基づいて市民を含む多くの参加者によりボトムアップでビジョンを形成することが重要であることが強調されていますね。それを踏まえても、思った以上に非常に『しっかりとした』回答になっていることに驚きも感じます。
大川:そうなんですよ。インプットなしの一般市民(若者~現役世代)で上記の回答が出るのが、個人的には大きな驚きでした。同時に『これまでの調査はなんだったのか?』という疑問も生まれましたね(笑)。本当にみんなフラットに多様性を認める社会などに希望を見ているのだと思いましたよ。
野島:ざっと見た感じ、非常に面白そうな内容ですね。
大川:ぜひ読書会をしたいですね! この調査のすごいところは、科学技術革新に国の予算をどう使うかという話であるにも関わらず、事情を知らない一般人に回答を求めたところです。きっと誰も量子コンピュータのインパクトなどを知らずにビジョンを語るなど、一般人を巻き込むのは少し怖い部分も確かにありますから。
大川:内閣府が『企業間取引の成立におけるCEO間のジェンダーバイアスについて』という論文を公開しています。全文英語でページ数も50~60ページもあり、なかなか読み応えがある内容でした。端的に内容をまとめると『CEOが同性間の取引が有意に多い』ことが顕著になっています。
野島:これはなんとも露骨な結果ですね。
大川:一言で言うなら、どうしようもない差別ですよね。母数が男性が多いので男性同士の取引が多いのはもちろん、異性のCEOと接するコミュニケーションコストが非常に高いということも示されています。ただ、取引の質については調査されていないので『女性CEO間の取引の方が多くの付加価値を生み出している』などが証明されたら、男性CEOが積極的に女性CEOと知り合う行動につながるのではないかと思いました。
主筆の大川が10/16(月)夜、10/23(月)夜に弊社東京オフィスにてワークショップを開催しますのでご興味がある方がご参加ください。
データのじかん編集長 野島 光太郎(のじま・こうたろう)
広告代理店にて高級宝飾ブランド/腕時計メーカー/カルチャー雑誌などのデザイン・アートディレクション・マーケティングを担当。その後、一部上場企業/外資系IT企業での事業開発を経て現職。2023年4月より上智大学プロフェッショナル・スタディーズ講師。MarkeZine Day、マーケティング・テクノロジーフェアなどにて講演。
近著に「今さら聞けない DX用語まるわかり辞典デラックス」(左右社)。静岡県浜松市生まれ、名古屋大学経済学部卒業。
データのじかん主筆 大川 真史(おおかわ・まさし)
IT企業を経て三菱総合研究所に約12年在籍し2018年から現職。専門はデジタル化による産業・企業構造転換、製造業のデジタルサービス事業、中小企業のデジタル化。(一社)エッジプラットフォームコンソーシアム理事、東京商工会議所学識委員兼専門家WG座長、内閣府SIP My-IoT PF、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会 中堅中小AG、明治大学サービス創新研究所客員研究員、イノベーション・ラボラトリ(i.lab)、リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMAを兼務。官公庁・自治体・経済団体等での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。直近の出版物は「アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド」(大川真史編、技術評論社)
データのじかん編集 藤冨 啓之(ふじとみ・ひろゆき)
経済週刊誌の編集記者として活動後、Webコンテンツのディレクターに転身。2020年に独立してWEBコンテンツ制作会社、もっとグッドを設立。ライター集団「ライティングパートナーズ」の主宰も務める。BtoB分野を中心にオウンドメディアのSEO、取材、ブランディングまであらゆるコンテンツ制作を行うほか、ビジネス・社会分野のライターとしても活動中。データのじかんでは編集・ライターとして企画立案から取材まで担う。1990年生まれ、広島県出身。
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