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知識の共有に必要なのは「形式知」! ナレッジマネジメントにおける「暗黙知」と「形式知」の違いとは?

         

企業が生産性を向上させ、発展するためには多くの情報や知識が必要で、これらが多ければ多いほどチャンスが広がります。とはいえ、個々の従業員が優れた情報や知識を持っていても、それを共有できなければ企業の今後に活かすことはできません。

共有することで、力を足し算することが可能となり、1+1を積み重ねていくことで、それが大きな力となり、一人では到底成し遂げられないことができるようになったりもするものです。

しかし、それぞれの人が持っている知識をうまく共有していくにはどのようにすればいいのでしょうか?

暗黙知から形式知への変換がナレッジマネジメントの第一歩

従業員個人がこれまで経験してきたことから得た知識や実務から得た経験則は「暗黙知」と呼ばれ、個人の脳内に蓄積されていきます。主観的な知識ですから、周囲の人間に落とし込もうとしても捉え方は人により異なるため簡単ではありません。

そこで必要なのが、「形式知」として紙や電子媒体にすることです。その個人だけしか知らない情報や知識を明文化・仕組み化することによって形式知化する管理手法がナレッジマネジメントと呼ばれるもので、企業の生産性向上に役立ち、業務改革や業績向上につながる期待があります。

ナレッジマネジメントの実現する上で、最も有名なフレームワークの一つが、営戦略論の大家で一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏によって1990年代に考案された「SECI(セキ)モデル」です。
「SECI(セキ)モデル」という言葉を皆さんは知っていますか?

SECIモデルとは、“組織が知識を創造するためのプロセスを4タイプに、分類しそれらの機能や相互作用について体系化したモデル”です。具体的には4タイプは以下の通り。それぞれの頭文字を取って「SECI」という名称にまとめています。

・「共同化」(Socialization)
・「表出化」(Externalization)
・「結合化」(Combination)
・「内面化」(Internalization)

SECI(セキ)モデルとは? なぜ役立つかや具体的な手法をデータ活用の観点で解説!

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暗黙知とは?形式知とは?まずは意味と違いを知ろう

まずは、個人が独自の経験で得た知識である「暗黙知」と企業内に紙や電子媒体で他者と共有で得られる「形式知」の意味と違いについて、具体例を交えながら、抑えておきましょう。

暗黙知とは?

言葉では簡単に説明ができない経験を通じて得た主観的な知識で、例えば

・微細な音の聞き分け方
・人の顔の見分け方
・自転車の乗り方

など、ニュアンスとしては、コツや勘、ノウハウに近く、人それぞれで物事の捉え方が違う事象に対しての知識です。

形式知とは?

主に文章・図表・数式などによって説明・表現できる客観的な知識で、例えば

・作業手順書
・マニュアル書
・報告書

など、個人のもつ主観的な知識を言語化して他者と共有できる知識です。

暗黙知と形式知との違い

暗黙知と形式知との違いを5つの観点で整理すると、以下のように区別することができます。

観点 暗黙知 形式知
立場 主観的 客観的
記号化 明確な表現は困難 言葉、文章、図など
伝達性 困難 容易
獲得方法 実践経験のみ 論理的推論と実践経験
体系化 分散的 集約的

職場で「仕事ができる人」の多くは、独自に学習と実践を繰り返し、「暗黙知」を習得して、それらを仕事に役立てています。

もちろん、全従業員で「暗黙知」を共有できれば、企業の生産性や顧客満足度は飛躍的に向上することが期待できますが、上記で示した「違い」から分かるように、「暗黙知から形式知への変換の難しさ」に阻まれてしまっています。

暗黙知を形式知に変換するメリットとしない場合のリスク

「暗黙知から形式知への変換の難しさ」について説明しましたが、それ相応のメリットがなければどの企業も「暗黙知の形式知への変換」にチャレンジしませんよね?

「暗黙知」で成り立っている企業の現場ほど、組織の成長、向上、改善といったプラス方向の施策が採りにくく、特に最近は、雇用の流動化、人材の流出の活性化の影響で、衰退、低下、改悪といったマイナス方向の抑止・防止の施策に注力せざるを得ない状況に陥ってしまいます。

それでも、「暗黙知から形式知への変換」への関心と取り組む企業が増えているのは、それ相応のメリットがあるからで、まずは、「暗黙知を形式知に変換する」ことで得られるメリットを、しないことで招くリスクと比喩しながら抑えておきましょう。

属人化を防げる

属人化とは、ある業務の内容や状況などを特定の担当者しか把握していない状況を指します。

専門知識を必要とする現場ほどこの「属人化」は顕著で、休職者や退職者が出た場合の対応を困難にします。

特に優秀な社員の暗黙知は、会社や事業にとって重要なノウハウでもあるため、暗黙知を形式知に変換し、「標準化」することで、特定人物に依存することなく業務を遂行でき、業務品質の担保や生産性の向上が期待できます。

業務の質を全体的に向上できる

「暗黙知を形式知に変換して、データベースやナレッジマネジメントに蓄積し、さらに、すべて従業員が、その形式知を迅速に活用できる」環境が構築されていることが前提となりますが、これらが機能・活用することは、企業全体のQCDの向上に繋がります。

例えば、成功事例の形式知を参照することで、先輩の従業員が後輩からの質問に時間を取られることがなくなりますし、当人は失敗を避けられたり、不明点がすぐに解決できるようになったりします。

人材育成が効率的に行える

昨今は、人材の流動が活性化しており、異動や採用で参入した人への育成の負担が増え続けています。

教育に時間が費やせず、人材の活用を阻んでしまったり、教育不足が要因で戦力増強どころか、低下を招いてしまったりするケースも少なくありません。

「見様見真似」といった従来の教育法で身に着けてきたスキル、コツ、考え方などをマニュアルやノウハウ動画で可視化し形式知化することで、教育コストを抑え、より迅速な人材育成ができるようになります。

暗黙知を形式知に変換するナレッジマネジメントの実践方法とは?

「ナレッジマネジメント」とは暗黙知を形式知に変換するフローやプロセスのことです。

それでは多くの企業で実践しているナレッジマネジメントを例に、現場の視点のポイントを交えながら紹介していきます。

ナレッジリーダーとナレッジ活用のビジョンの策定

ナレッジリーダーとは、ナレッジ活用のビジョンを策定したり、それを推進したりする「旗振り役」のことです。

暗黙知から形式知への変換は、暗黙知を所有している人が決められたワークフローに沿って実施するのが一般的ですが、そもそも「暗黙知」は、主観的な知識であるため、第三者がその価値に気が付かないことは少なくありません。

「暗黙知」の所有者が自発的に「形式知」に変換する文化や風土の形成、円滑に進めるためのプロセスの策定が必要不可欠で、「ナレッジリーダー」は配下のメンバーへのプッシュやリード、段取りで舵を取る重要な役割を担うことになります。

また、組織全体のモチベーションを維持するためにも、利害関係を配慮したビジョンの策定が必要となります。

SECI(セキ)モデルを活用

前述で紹介しましたが、ナレッジマネジメントにおいては、SECI(セキ)モデルと呼ばれるフレームワークの活用が有用です。

暗黙知から形式知への変換の過程では、形式知が暗黙知へと変わるという構造でモデル化されており、以下の4つのプロセスで、形成されています。

共同化

暗黙知を暗黙知として伝えるフェーズで、経験を共有することで第三者に暗黙知を落とし込み、創造する。

表出化

暗黙知から形式知へと変化するフェーズで、暗黙知を共有した後、それを言葉や図などで明確化する。

連結化

すでにある形式知と形式知を結びつけるフェーズで、この過程で新しい知識が形成され、以降、潜在していた暗黙知が組織財産として活かせるようになる。

内面化

形式知が暗黙知となるフェーズで、形式知を得た人が内面化することで、新たな暗黙知へと変化してしまうこと。再度、共同化、表出化を繰り返すことでこの暗黙知はナレッジ化される。

場(Ba)の設定

ナレッジマネジメントの「場(Ba)」とは、企業内で暗黙知や形式知が創造・共有・活用される場所や手段のことで、ワーキンググループ(話し合い)やプロジェクト管理ソフトウェアや社内WikiやSNSのような情報共有サイトなどがそれに相当します。

いずれも「データ」で蓄積して、コンテンツ化し、社内の従業員が手早く参照できようにしなければ、効果は得られないことに注意が必要です。

例えば、「あるノウハウをメールで全従業員に一斉送信した」では、受信自身がその知識を手軽に使えるよう管理しなければならなくなったり、メーラーで検索して探さないと再利用できなかったりなど、負担が大きい、使い勝手が悪い、などでナレッジマネジメントの形骸化を招いてしまいます。

知識資産として継承し、活用し続ける仕組みの構築

データという形で蓄積された『形式知』は知識資産として、企業の効率化に大きく貢献します。ある企業の開発現場においては、設計者が10年前にナレッジ化した設計のノウハウを継続的に更新し続けることで、後輩や新規参入者の導入教育に活用し、教育工数やリスクの削減に役立てています。

クラウドの活用をはじめ、最近では音声や静止画、動画といったコンテンツ手段も取り入れることで、なかなか共有ができなかった「暗黙知」より「形式知」に変換しやすくなってきています。

こうして蓄積され続けた知識は、企業の原動力とも言える資産であり、ナレッジマネジメントにおいては、長期的に活用できる使用性と利便性を備えたシステムや運用の仕組みの構築が必要不可欠です。

形式知化した暗黙知が埋もれてしまうケースも

暗黙知を形式知化するためには、紙ベースの情報や知識へと置き換えることが一般的な考え方です。これは多くの企業ですでに実践されています。

例えば、業務マニュアルや社内文書などは典型的な例ではないでしょうか。たしかに、文書にして従業員が閲覧しやすいように保管・管理することは大変重要です。しかし、管理するためには、それだけの書棚が必要になりますし、運用するなかで更新する必要性が生じた際に文書全体を作り替えるケースも出てくるなど手間がかかります。そもそも、文書が膨大になる企業では、せっかく形式知化したのに目当ての文書をなかなか見つけられないケースもあるでしょう。このように、形式知化した貴重な知識や情報が再び暗黙知化している状況は、言い換えれば紙に埋もれた形式知とも言えるもので、決して好ましくありません。そこで、紙以外の形式知化を考えてみましょう。

確実な情報共有を目指して形式知化するには?

暗黙知を紙以外で形式知化するには、音声・動画・ITツールの3点を有効活用することがポイントです。

たとえば、プレゼンテーションの手法を紙で形式知化しても理解するのが難しいでしょう。

「抑揚をつけて話す」「適度に間を取る」などと文章でマニュアル化した場合、その捉え方には個人差が出てきます。音声や動画として形式知化しておけば、誰が見ても理解しやすく、また管理もしやすいことから、暗黙知として埋もれてしまうリスクも軽減できます。

また、ITツールを活用した管理方法では、情報を社内共有できるイントラネットや単語で検索できるデータマイニングツールなどの活用があるほか、社内で起こりうるありがちな問題に対処するノウハウを社員同士で提供し合うFAQ型のシステムの構築なども方法のひとつです。このように、さまざまな手法で紙に埋もれた形式知を掘り起こし、普段の業務に活かすためのナレッジマネジメントは、業務の効率化と企業の発展に欠かせないものです。

(データのじかん編集部)


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