「SECI(セキ)モデル」という言葉を皆さんは知っていますか?
経営戦略論の大家で一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏によって1990年代に考案されたこの考え方は、情報化が進んだ現代において“役立つ”思考のフレームワークとなっています。
本記事では「SECIモデル」や知識経営について解説し、その使い方について深堀りします。
SECIモデルとは、“組織が知識を創造するためのプロセスを4タイプに、分類しそれらの機能や相互作用について体系化したモデル”です。具体的には4タイプは以下の通り。それぞれの頭文字を取って「SECI」という名称にまとめています。
・「共同化」(Socialization)
・「表出化」(Externalization)
・「結合化」(Combination)
・「内面化」(Internalization)
形式知とは言葉や図など人に説明できる形に変換された知識のことです。一方、暗黙知は確かに個人の中にはあるものの「言葉にできない」「言語化しても伝わらない」といった理由で人に説明できない状態の知識を指します。
野中名誉教授は情報社会において知識を創造・活用することを経営の核とする「知識経営」を提唱。知識経営において知識を創造するためのプロセスを示すために「SECIモデル」を考案しました。
SECIモデルをより深く理解し実際に“使える”ようになるため、「共同化」「表出化」「結合化」「内面化」それぞれの概念と手法について詳しく見ていきましょう。
知識を「暗黙知→暗黙知」へと変換するためのプロセスです。現場に足を運んで見て体験しなければ得られない知識を獲得することを意味します。
具体的な手法としては、以下のようなものが挙げられます。
・展示会に参加する
・現場や工場に足を運ぶ
・社外でのコミュニケーション・イベントに参加する
・現地視察
日本では長らく現場主義の考えが重視されてきたこともあり、共同化はすでに重視しているという経営者の方々も多いのではないかと思われます。
知識を「暗黙知→形式知」へと変換するための手法。言葉にされていない知識を文章、図、グラフ、地図などで表現することを意味します。情報の共有という意味では多くの方にとってイメージされやすいのではないでしょうか。
具体的な手法としては以下のようなものが挙げられます。
・文章で説明する
・マニュアルを作成する
・プレゼンテーションを行う
・議事録をつくる
・図・チャートとして表す
自身の中にある知識だけでなく、他者の知見を表現することも表出化の一種です。よく「データの見える化が大事」といわれるときの「見える化」あるいは「可視化」の多くは、この表出化に該当します。
知識を「形式知→形式知」へと変換するための手法です。すでにある形式知を組み合わせて新たな形式知を生み出すことであり、「知識の創造」という意味では最もスタンダードな手法と言えます。
・経営戦略を立てる
・新たな製品・サービスを企画する
・広告施策を立案する
・組織をデザインする
「連結化」と表現されることもありますが、意味合いは全く同じです。企業の各部署、各プロセスの情報をデータレイクに集め、データウェアハウスに抽出、ダッシュボードで一覧化しようという試みは結合化を促進することにつながります。
知識を「形式知→暗黙知」へと変換するための手法です。表出化とは逆に、言語化・図示された知識を取り込み、オリジナルの知識として体得することが内面化のミソとなります。
・OJT
・研修・セミナー
・Web学習
・プログラムを通じた学習
内面化により個人が成長することで、組織の知識の質が高まり、また新たな形式知が共同化されるというプラスのスパイラルが発生することが期待されます。SECIのプロセスを何度も回すことで組織の知識の量・質ともに充実し、組織がどんどん発展していく流れを生み出すことが、SECIモデルの理想です。
データ、情報、知識、それぞれの違いを皆さんは答えることができますか?
以下にそれぞれを、ひとことで分類してみました。
・データ:数値や実験結果、文章、音声、動画など人間の解釈の素材となるものすべて
・情報:データを何らかの知識が得られるよう抽出・加工したもの
・知識:データや情報、体験を通じて得られた理解やノウハウ
データはいわば情報や知識の材料であり、情報や知識に加工することで初めて役立ちます。まったく、「21世紀の石油」とはうまくいったものですね。
このようなデータ、情報、知識の関係性は、情報科学分野においてDIKWピラミッドとして図示化されています。
引用元:DIKW pyramid┃Wikipedia
DIKWピラミッドは上記のように「データ(Data)」を土台とし、その上に「情報(Information)」、その上に「知識(Knowledge)」、そして頂点に「知恵(Wisdom)」を位置づけるモデルです。
原油が精製されてガソリンや灯油、軽油といった形になり、プラスチックさらにはプラスチック加工品として我々が使いやすい形になるように、データも情報から知識、知識から知恵へと加工されることでどんどん役立つようになっていきます。
SECIモデルは、知識から知識を生み出すだけでなく、データや情報を知識化するためにも役立つはずです。そしてそのプロセスを繰り返すことで知識は知恵へと昇華され、企業の付加価値を生み出します。
このようにデータが循環する仕組みを作り上げられるからこそ、SECIモデルに注目が集まっているのではないでしょうか。
SECIモデルは知識経営のためのツールの一つです。知識経営は従来知識産業とされてきたようなコンピューター産業やシンクタンクに限らず、すべての企業が取り入れるべき手法とされています。その理由はさまざまですが、SECIモデルがどんな業界でも通用することはそのままひとつの証拠となるのではないでしょうか。
どんなに役立つモデルも使わなければ宝の持ち腐れです。ぜひ、活用をご検討ください。
【参考資料】 ・野中郁次郎 (著), 紺野登 (著) 『知識経営のすすめ ――ナレッジマネジメントとその時代 (ちくま新書) Kindle版』ちくま書房、1999 ・湊 一郎『知識創造をテコに組織を変革する』JA共済総合研究所 ・DX実現を加速する「Data×AI」【前編】 データ価値を最大化する目的志向型とは?┃FUJITSU JOURNAL
(宮田文机)
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