毎年、年始にラスベガスで開催される世界最大級のテクノロジー見本市「CES」。
2026年のCESを歩きながら、今年ほど「CESという展示会の役割」が静かに変わりつつあることを実感した年はなかった。
かつては家電の未来を示す場であり、近年はモビリティやAIが主役となってきたCES。しかし今年の会場では、大手電機メーカーの展示の在り方や、来場者・出展者の顔ぶれに、明確な変化が見え始めている。
本稿では、「CESは本当にオワコンなのか」という単純な二項対立ではなく、参加者・出展者の双方がCESをどう使い始めているのか”という視点から、2026年のCESを振り返ってみたい。
• セントラルホールの異変
• モビリティ撤退と、主役交代の現実
• Eureka Parkが示した、別の危機
• LGの展示に見た「したたかさ」
• バイヤーと大手メディアは、なぜCESから消えたのか
• クローズド展示が「正解」になった理由
• 最後に──個人的に、いちばん印象に残った展示
CESではコンベンションセンターのセントラルホールが花形で、ここに毎年大手電機メーカーが出展をしている。だが、今年は毎年、出展を続けていた2社が出展を取りやめていた。ソニーと、サムスンだ。
ソニーは、ソニーホンダモビリティとして、従来のソニーブースの位置に出展していたものの(ソニーホンダモビリティとしては昨年もソニーブースの隣で出展していた)、ブースの広さは例年の半分ほどに、余ったブース裏のスペースは休憩場所になっていた。

Samsungも今年はセントラルホールでの例年のようなオープン展示を行わず、会場外のホテルのイベントホールで、登録制・招待制のクローズド展示にシフトした。
この2社がセントラルホールに展示をしなくなったのは、「この場で、何を、誰に見せるのか」を再定義した結果だろう。後述する、メディアやバイヤーに対する展示の意義が薄れており、出展コストの費用対効果を見直してもいるだろう。またソニーはCES後に、テレビ関連事業をTCLとの合弁会社へと移行すると発表しており、家電事業はソニーから消えていくということもあるだろう。
以前は、セントラルホールに出展していたニコン、キヤノンも近年は出展しておらず(キヤノンは、スタートアップ展示がメインのEureka Park内でCanon Americas Labという形で出展は続けているが、メインのカメラ関連製品の展示は行なっていない)、ここ数年勢いがあるのがTCLや、HiSenseなどの中国勢だ。ただ、それでもセントラルホールには、かつての花形としての勢いはなく、やや閑散としていた。
ここ数年、CESはモビリティ展示の拡張によって注目を集めてきた。去年は、スズキがCESに初出展し、小少軽短美をテーマとした展示で注目を集めていた。
しかし2026年、その潮流ははっきりと後退している。日本・米国の大手自動車メーカーはほぼ姿を消し、BMWが小規模展示を行っていた程度。Hyundaiも出展はしていたが、主役は自動車ではなく傘下のBoston Dynamicsによるヒューマノイドロボット「Atlas」だった。
Atlasは来年、初期カスタマーへの提供、及び2028年には自社の工場への導入を予定している。Hyundaiブースには、EVも角の方に置かれていたものの、EVの紹介のためというよりは、車両を移動させる駐車ロボットのデモンストレーションのためというのがメインで、ほぼロボット一色の展示となっていた。
またラスベガスコンベンションセンターのノースホールでは、多くの中国企業がヒューマノイドロボットの展示を行なっている一方、EVを含めたモビリティの展示はかなり減っており、近年の主役が完全に入れ替わった形だ。来年以降もこの傾向が続くようであれば、自動車関係の来場者に訴求するために出展をしていた多くの自動車部品関連企業の出展も無くなっていくかもしれない。
近年、セントラルホール以上に、イノベーションや新しい製品の集積地として賑わいを見せていたスタートアップの集積地であるEureka Parkも、去年ぐらいからその勢いが落ちてきているように感じる。
スマートフォンや、センサー技術の進歩によるIoTデバイスの隆盛によるイノベーションがある程度飽和したこともあるかもしれない。去年に続き、韓国勢が会場の半分近くのスペースを占める一方で、ここ10年フレンチテックとして、多数のスタートアップが入り口側を占拠しているフランスのスタートアップは、数も減り、過去にも出展していたスタートアップの数も多く、あまり新鮮味がなかった。
Eureka Park会場マップ。赤が韓国勢、緑がフランス勢、黄色が日本勢のブース。
韓国は政府による支援が手厚いことも大きいが、これだけの数のスタートアップを出展に揃えるということができるというのがすごいことである。ただ、半数近くをひとつの国からの出展で占められてしまうと、多様性が得られるグローバルな展示会としては偏りがありすぎて残念な気がする。こうしたこともEureka Parkを「歩くだけで未来に出会える場所」から少し遠ざけつつあるのかもしれない。
今年、最も象徴的だった展示の一つがLGだ。
以前のような、巨大な波打つ曲面ディスプレイによる壁といった、インスタ映えするような派手な展示は身を細め、TCLやHiSenseなどの中国勢に比べて地味となったという印象を受けた来場者も多かったのではないかと思う。その感想は正しいし、LGもかつてのような利益度外視の派手なマーケティングではなく、以前よりも費用を抑えた展示を行なっているのは間違いない。
ただ、ブース中央に置かれていたそっけない展示が筆者の目を引いた。置かれていたのはロボットと、サイズ別に並べられていた多数のアクチュエーターだ。ロボットがパフォーマンスをしている訳でもなく、展示も地味なものだったので、LGのブースに足を運んでも、気にも留めなかった人も多いだろう。
ヒューマノイドロボットにおいて、アクチュエーターは関節部分、稼働部分にとっては欠かせないもの。今後、ロボット産業、ヒューマノイドロボットが多数販売されていくようになると、基幹部品となるのがアクチュエーター、電気自動車におけるモーター以上の存在だ。
LGはロボットを派手に見せるのではなく、ロボット時代の機関部品の分野を握りにいく意思を、静かに示していた。おそらく、LGはヒューマノイドロボット関係者、関連企業の来場者のためにこの展示を用意したのだろう。この地味な展示はそうした興味がある人にだけ伝わればいい。
今のCESを活用するための、そうした割り切った、したたかな展示に見えた。
私はこの12年、CESに参加し続け、うち約8年は出展者としても関わってきた。
その中で、明確に減ったと感じるのがバイヤーと大手メディアだ。
小売の大手家電販売店への集約、ECの普及により、そもそものバイヤーの数が減少しているだろう。スマホにより、幾つもの家電製品が市場から姿を消し、取扱商品の減少、販売単価の減少も起きている。
また製造拠点の中国集中。さらにコロナ以降の出張文化の変化も重なり、「ラスベガスに行く必然性」は薄れている。多くの製品が中国製で、ラスベガスで展示されているものが、アメリカでなくても買えるものなのであれば、むしろ生産地である中国の展示会に行くことを選んでいるバイヤーも出てきているだろう。
メディアも同様だ。大手テックメディアやテレビ局、特に米国外のメディアが会場から姿を消し、現在の主役はフリーランスや個人メディアになった。以前は多くの人がニュース番組を見ていて、そうしたニュース番組において取材費をかけてCESにおける最新テクノロジーを紹介する意義があった。
CES内のメディア向けイベントのひとつShow Stoppersの様子
だが、イノベーションがある程度飽和してきて新鮮味も薄れてきており、大手メディアの広告費も、インターネット、さらにインターネットの中でもYouTuberやSNSなどに流れ、テックメディアも、無くなったり、記事の更新が減少したりしている。そしてコロナ渦以降、出張予算を削減した大手メディアは以前ほど戻ってはきていない。
この状況で、ソニーやサムスンのような大企業、展示者がCESにおいて不特定多数に向けた大規模展示に巨額の予算をかける合理性がなかなか見出せなくなっているのは間違いない。
今年はサムスンがホテルでのクローズドな展示となったが、毎年CES Innovation Awardsを受賞している仏ロレアル社も、以前は、CES Unveiledといったメディア向けの前夜祭に展示をしていたものの、今ではホテルの会議室での招待客のみの展示となっている。レノボもかなり前から、会場に隣接したホテルのレストランを貸し切り、招待された人だけが入れる展示となっており(ただ今年は、例年とは異なりSphereという球体状のイベント施設で昨年のデルタ航空に続く華やかなキーノートを行った)、メディアであってもアポをとっていないと入れない。
当然、こうしたクローズドな展示が増えてくると、一般の来場者が見れる展示は減るので、CESに行く価値がどうしても薄れてきてしまう。また招待を受けたメディアとしても、別会場に行って決められた場所に行かないと見れない展示が増え、取材の効率が減ってしまう。
出展者側からは、コストを抑え、費用対効果を考えると来場者のリストが確実に管理できる招待制・クローズド展示へシフトしていくのは合理的だし、あまり新規の認知を必要としていない大企業としては「誰に、何を、どこまで見せるか」を最適化した結果と言える。
ただ、この傾向が連鎖していくとCESはマス向けのショーではなくなっていくし、展示会としても死んでいってしまう。
最後に、少しだけ個人的な話をしたい。
今回のCESで、純粋に「いいな」と思ったプロダクトがあった。サムスンのクローズドブースの一角に、さりげなく置かれていたGoveeのフロアライトだ。
天井に波打つように広がる光は、強く主張するわけでもないのに、不思議と目を引いた。
最初はサムスンの製品かと思ったほど、空間に自然に溶け込んでいたが、実はGoveeというAnker Technologiesの元CEOが設立したスタートアップGovee社のプロダクトだった。サムスンのSmart Thingsという規格に対応していたために、サムスンブースに置かれていたのだろうが、特に連携を強くアピールするわけでもないさりげない展示。
GoveeはCESの会場で自社ブースでの展示も行なっていたが、この軒下を借りた場での展示がはるかに魅力的に映ったのが印象に残った。スタートアップとしてはこれも「したたか」なCESへの関わり方だ。
CESはもはや、誰にでも開かれた巨大展示会ではなくなりつつある。一方で、大手電機メーカーの関わり方の変化それ自体が、産業構造の転換点を体感できる貴重な材料でもある。
そうしたテクノロジーの祭典としてのCESの価値は、まだ他に代えがたいものがあるし、CESに行くことで、会期中の展示だけでなく、その後に出てくるニュースや分析、評価記事への理解度と解像度は、明らかに変わる。
それは現地に足を運ばなければ得られない感覚だ。
レノボのキーノート開催中の球体イベント会場Sphere
もちろん、円安による渡航費やインフレによる滞在費の高騰、そして出展者であれば、出展コストも上がってきており、CESを訪問、展示、取材している人の多くが今後CESとどう関わって行くかを問うているであろう。おそらく各自が、CESをどうハックできるか、したたかに取り組んでいくのが一つの答えなのだと思う。
来年以降、この場がどんな形に進化していくのか、その変化を引き続き現場で見ていきたい。
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