コンビニやスーパーの陳列棚にぎっしり並ぶ食品。いつ行っても目当ての商品が購入できて、快適ですよね。
しかしその便利さと引き換えに、日本では毎年大量のフードロス(廃棄食品、英:Food waste)が発生しています。その量、年間632万トン。世界の食糧援助量(年間320万トン)の約2倍の量が毎年廃棄されているのです。
モラル的な問題だけでなく、自給率の低い日本が大量のフードロスを出し続けることは、今後世界人口が増え続けることを考えると持続可能とは言えません。
そこで現在注目を浴びているのが、気象データを駆使してフードロスを削減しようという試み。
天気と廃棄食品……? 一見関係ないように見える2つの物理事象ですが、実は深い相関関係があるのです。
フードロスの大きな原因のひとつは、メーカーが商品を多めに生産してしまうこと。というのも店頭で欠品を出すと取引先からペナルティを受けたり、最悪の場合取引停止に至るためです。
こうした理由で、毎日コンビニの中食(調理済みの食品)が大量に廃棄されています。せめて見切り販売(値下げ)ができればフードロスの削減に繋がるのですが、コンビニの経営本部が見切り販売を嫌うため、廃棄量が減る気配はありません。
しかし廃棄にもお金がかかるのをご存知ですか? 毎年2兆円以上の税金がごみ処理事業系経費に費やされており、そのうち1兆円が廃棄食品の処理経費とされています。一方、国産米などの一部の食品には政府からの補助金が支給されています。食品を生産するのに税金をかけ、廃棄するのにも税金を使う。なんだかおかしいと思いませんか?
そこで一部のメーカーが実践しているのが、気象データを参照して、売上が天候に左右されやすい商品の生産量を調節する試み。
例えば、2018年の夏は猛暑かつ長引いたため、ビールやアイスがよく売れました。しかし今年の長期気象予報によると、2019年は早めに涼しくなる可能性があるとのこと。にも関わらず去年の出荷量を基準にビールやアイスを生産すれば、フードロスが増えてしまいます。
こうした仕組みをふまえ、日本気象協会と協力して「寄せ豆腐指数」を開発したのが、相模屋食料(株)。寄せ豆腐は、前日に比べ気温が大きく上がった際によく売れるそう。つまり「急に暑くなった」という感じると、寄せ豆腐が食べたくなるというのです。この感覚を指数として見える化して出荷量を調整することで、2015年には30%のフードロス削減を達成できました。
もうひとつ、売上量が気温の上昇に影響されやすいのが冷やし中華。25度を超えると販売数がぐんと伸びることを考慮して、麺つゆの生産量を調節しているのがMizkan。近年では5月の夏日が増えていることから、増産時期を早めたそうです。
2015年は4、5月に夏日が続いたものの、8月にすでに秋めいた気候になったため、メーカーの多くが過剰在庫を抱えることに。しかし気象庁のデータに加え、ECMWF(ヨーロッパ中期予報センター)のデータを導入したMizkanは2週間先の予報の精度が上がり、在庫を20%ほど削減できたそうです。
大きな余剰を出さないよう努力する姿勢、素晴らしいですよね。また、メーカーにとっても過剰在庫を抱えるリスクが減るため、一石二鳥と言えます。
2019年5月24日、参議院本会議で「食品ロス削減推進法」が可決されました。
これまでフードロスに対する規制はほぼゼロに等しかったのですが、この法律では小売業界の「優越的地位の濫用」に対する強制力が発揮されます。具体的には、これまで小売業界がメーカーや加盟店に対し行っていた「不当な返品」や「見切り販売の禁止」などが規制されていく見込みです。
こうしたトレンドを見ると、より正確な売上予想を立てるよう迫られた小売業界が、気象データを利用する機会も増えていくでしょう。
「今日は暑いな、ビールが飲みたい」。あなたがそう感じる背景には、様々なデータと戦略が飛び交っていることを意識すると、視点が変わって面白いかもしれませんね。
参考リンク: 消費者庁消費者政策課 食品ロス削減関係参考資料 なぜ食品業界は日本気象協会に仕事を依頼するのか 日本初「食品ロス削減推進法」が本日ついに成立!2019年5月24日午前10時からの参議院本会議で可決
(佐藤ちひろ)
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