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棒グラフ、散布図、カルトグラム……さまざまなグラフ(graph)を活用して我々はデータを把握・分析し、また現状や過去・未来の可視化に用いています。あまりに身近なため地上に元から存在する水や空気のように感じられがちですが、それらはすべて積みあがったデータ可視化の歴史の上に結実した誰かの‟発明品”なのです。
その歴史を、ヨーク大学心理学教授・統計コンサルティングサービスのコーディネーター・アメリカ統計学会研究員のマイケル・フレンドリー氏と、アメリカ統計学会および教育研究協会の研究員であり、統計や教育にまつわる数多くの受賞歴や著作を持つハワード・ウェイナー氏が詳らかに解説したのが書籍『データ視覚化の人類史 グラフの発明から時間と空間の可視化まで(以下、『データ視覚化の人類史』)』(青土社、2021)です。
本記事では、その概要や書籍を読むことでわかること、合わせて参照したいサイトなどについてご紹介します!
『データ視覚化の人類史』は、約10万年前、我々の間に文字が生まれたときから、コンピューターを駆使しアニメーショングラフィックスなどでデータを表現する現代までをつなぐ壮大なスケールの書籍です。
紀元前3000数千年ごろの古代エジプトでは象形文字が、メソポタミア文明ではくさび形文字が使われていたことが知られていますが、パターン化された図像の組み合わせで言葉を見える化する「文字」はよくよく考えれば確かにデータ可視化の一種ともいえるでしょう。

※引用元:File:Proto-cuneiform sexagesimal type Sa.svg┃Wikimedia Commons
※CC BY-SA 3.0ライセンスのもと利用
そこから人類は地図、経験して得た知見を目に見える形で表現すること、数値を記録すること、データを1次元→2次元→3次元→n次元に配置すること、データを動的に表現すること……などさまざまな武器を手にして、現在に至ります。
棒グラフや円グラフを読み解けること、Excelの「挿入」タブでグラフを描画するのも、describe() メソッドで要約統計量を取得するのも、ラングレン(1598-1675)、ゲリー(1802-1866)、プレイフェア(1759-1823)といったデータ可視化に革命をもたらした巨人の肩に立つ行為です。
彼らは何のためにデータ可視化に取り組んだのか、それによってどのような影響がもたらされたのかのみならず、現代のデータ可視化スペシャリストとしての視点から‟何が不足していたのか”にまで言及されるのが、本書のユニークな点といえるでしょう。
もう少し詳しく内容に踏み込んで、全10章で構成された『データ視覚化の人類史』を見ていきましょう。
データ視覚化のイノベーションは以下のグラフの通り、1500年代からいくつかの段階に分かれて生じており、1800年代中ごろにヨーロッパでのピークが、1900年代後半に北アメリカでのピークが訪れています。

※『History of Data Visualization』で提供されているR code「Figure 00_1: Timeline of milestones events, by continent」を利用して作成
このグラフはマイケル・フレンドリー教授の「マイルストーンプロジェクト」(統計の歴史においてマイルストーン<節目>といえる出来事を関連情報とともにデータ化し統計史学のアプローチに生かすプロジェクト)の成果のひとつです。
この歴史に深くダイブし、どんな変化がなぜ訪れたのかについて説明する本書ですが、「はじめに」でも記されている通り、あえて年代順よりも「データのグラフ化はどうはじまったのか?(『第2章 最初のグラフは正しく理解していた』)」「データ視覚化はどのようにして3次元以上(多変量)の世界へ突入したのか?(『第8章 フラットランドを逃れて』)」といったテーマごとにフォーカスして構成されているのも特徴の一つといえるでしょう。
すなわち本書はデータ視覚化の歴史を単に紹介するだけでなく、「なぜ、どうやって発展した」という疑問をテーマ別に掘り下げるために執筆されている書籍なのです。

『A History of Data Visualization & Graphic Communication』は、『データ視覚化の人類史』の著者2人による公式拡張パックともいうべきサイトです。
このサイトには書籍の関連情報や追加のカラー図版、データセット、誤植などの修正事項などが提供させており、その有用性はプリントされた書籍以上。英語サイトであることを除けば、書籍の内容や対象読者を理解するのにこれほど適したサイトはありません。
『Visual Statistics: Seeing Data with Dynamic Interactive Graphics(視覚統計学:動的でインタラクティブなグラフィックスでデータを可視化する)』(2006)の共著者でもあるフレンドリー氏と、『Truth or Truthiness: Distinguishing Fact from Fiction by Learning to Think like a Data Scientist(真実かそれとも真実らしさか:データサイエンティストの思考法で事実とフィクションを見分ける)』が2016年、フィナンシャルタイムズのその年のトップ6冊に選ばれたウェイナー氏。
当然ながらその志向はデータ視覚化の歴史をただ辿るだけでなく、そこから現在のデータビジュアライゼーション実践者にヒントを与えることに向いています。その結晶のひとつが、書籍に匹敵するほど手間をかけて作成されたこのサイトなのです。
書籍を手に入れる前でも、読みはじめてからでも、ぜひアクセスしてみてください。
近年、北アメリカでコンピューター革命を通じて急速に発展したデータ視覚化の手法ですが、現在は生成AIの登場により新たな局面を迎えています。『A History of Data Visualization & Graphic Communication』に掲載された『Optics and data visualization(光学とデータ視覚化)』と題した議論で指摘されているように、データ視覚化には望遠鏡や顕微鏡のように見るものの視点を変え、新たな気づきを生み出す効果があります。データ視覚化の歴史を踏まえ、そこからどんな次のマイルストーンが生じるのか、今後も注視していきましょう!
(宮田文机)
・マイケル フレンドリー (著), ハワード ウェイナー (著), 飯嶋 貴子 (翻訳) 『データ視覚化の人類史――グラフの発明から時間と空間の可視化まで Kindle版』┃青土社、2021
・@tomo_makes『データ可視化の成り立ち・歴史・現在地 〜折れ線グラフの誕生からD3.js、Observableまで〜』┃Qiita
・A History of Data Visualization & Graphic Communication
・Milestones in the History of Thematic Cartography, Statistical Graphics, and Data Visualization
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