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デジタル機器は紀元前から存在した!? 「そろばん」と「計算」と「会計管理」の歴史

         

「デジタル機器は紀元前から存在した!」と聞くと、耳を疑う人も多いかと思いますが、よくデジタルかアナログか、という論争で例に出されるのが「そろばん」です。

機器がデジタルかアナログか、というのは厳密に言うと「連続的なデータを扱うのがアナログで、段階的なデータを扱うのがデジタル」で区別されるので、この定義に従うと、そろばんは疑う余地なくデジタルな機器です。

じゃあ、それならば人間の「指」もデジタルなのか、というと、実は、デジタル(digital)の語源はラテン語で指を意味する「digitus」なので、指はまがいもなくデジタル、ということになります。

さて、この人類初の計算機といわれるそろばんですが、なかなか歴史は長く、最古のものはギリシャ・サラミス島で見つかった紀元前300年ごろのそろばん(通称:サラミスのそろばん/Salamis Tablet)だそうです。このそろばんの起源は諸説あり、南米(アステカ)、アラビア、バビロニア、中国など世界各地で似たような計算機が使われていた形跡があります。

そろばんの仕組み

そろばんは、木から作った5つの珠を1本の串に通し、その串を並べて枠で固定した器具です。現在使われているそろばんでは、最上段にある珠が「5」、その下にある4つの珠がそれぞれ「1」を表しているので、合計すると1本の串で「9」になります。桁が増えると次の串へと移っていく仕組みです。

サラミスのそろばん(Wilhelm Kubitschek

古代メソポタミアやエジプトなどでは、砂や泥の上に線を引いて石を並べ、計算に使っていたといわれています。ギリシャではテーブルの上に砂を敷き詰め、石を使って計算をしていたそうです。

いまのようなそろばんは、すでに2世紀ごろの中国で使われていました。もともと中国では、計算する時に紐の結び目を使ったり、算木を使った計算法が発展したこともあり、道具を使って計算する文化が古くから根付いていたそうです。日本にそろばんが入ったのは15世紀〜16世紀のことでした。

豊臣秀吉に使えた毛利勘兵衛(重能)がそろばん塾を開いたこともあって、日本でもそろばんが普及します。

ちなみに、現在のそろばんに似た器具は1000年ごろのアステカにもあったそうです。木の珠の代わりにとうもろこしを使っていたのが、なんとも南米らしいですね。

インカ帝国で使われていた「キープ」

By Claus Ableiter nur hochgeladen aus enWiki [GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html) or CC-BY-SA-3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/)], via Wikimedia Commons

そろばんと直接関わりがあるわけではないらしいのですが、南米ではユニークな方法で統計数値や会計情報を記録していました。それがインカ帝国で使われていた「キープ」(Quipu、khipu)と呼ばれるもので、紐に結び目をつけて数を記述していました。

キープ自体は計算機ではありませんが、珠のような結び目で数字を表すところがそろばんと少し似ています。南米で使われていたそろばんの結果を記載したキープもあるとのこと。紐の結び目の形で数を表現するため、「結縄(けつじょう)」とも呼ばれています。

ちなみにキープは非常に複雑で、作成にも解読にも高度なスキルを必要とします。実際、現存しているキープを解読すると、インカ帝国では古くから人口統計、農作物の収穫統計、資源の管理などさまざまな統計データをとっており、それに基づいて国を運営していたことがわかっています。数値以外のデータもここに含まれていたのではないか、という説もあるそうです。文字を持たなかったインカ帝国で、いったいどのようなデータ伝達がこのキープを介して行われていたのでしょう。

コスト管理はローマ帝国の時代から重要視されていた!?

ちなみにローマ帝国の初代皇帝であるアウグストゥス(オクタウィアヌス)も、会計データを重視して国を運営した政治家でした。紀元14年ごろに建造された「神アウグストゥスの業績」には、皇帝の残したさまざまな業績が刻まれていますが、実に細かい数字の羅列が記載されていて、何にいくらのコストをかけたのかがわかったそうです。

たとえば、戦に勝った時には「ローマ兵に対する勝利給として1億7000万セステルティウスをポケットマネーから支払った」とあり、その栄華を誇示する内容になっているとか。いずれにせよ、どんな業績を達成し、何にどれくらいコストをかけたか明らかにすることで、政治の透明性を確保し繁栄を築いた皇帝といえるでしょう。

帳簿付けの重要性ハンムラビ法典にも定められており、第105条では「現金を受け取ってその場で確認して領収書に署名しなかった場合、帳簿にその取引を記入してはいけない」と規定されているそうです。

昔からお金はトラブルがつきものだった、ということが垣間見えますね。

まとめ

客観性を持つ数字の歴史は、データの歴史でもあります。どのように人が計算を行ったのか、どうすれば計算間違いのリスクを減らせるのか、と考え続けた結果が今に伝わるそろばんであり、電卓であり、引いてはエクセルなどの表計算ソフト、そしてそれがさらに進化を遂げたのがBIツール(ビジネスインテリジェンスツール)のような複雑な計算を見える化し、経営判断の支援をしてくれるツールです。

そう考えると、会社でも、家系でも、はたまた国家レベルでも、少しでも世の中を便利にしよう、少しでも計算の手間を減らそう、限りある資産を最大限に活用しよう、という発想自体は何百年も、あるいは何千年も変わりない気持ちなのかもしれません。

【参考文献】
『世界の歴史大図鑑』(2016年, 河出書房新社)
『帳簿の世界史』(2015年, 文藝春秋)

(岩崎史絵)

 

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