JOAI委員会は、AIを通じた学びと国際的な人材交流を推進する非営利組織として、2024年に発足した。主目的はIOAI日本代表の派遣であり、国際本部から認証を受けた唯一の国内組織だが、設立初年度は予算もスタッフも限られた中での出発であった。
国際人工知能オリンピック日本委員会(JOAI委員会) 理事 鎌田 啓路氏(ソニーグループ株式会社)
鎌田氏は「最初は文字通り手弁当でした。それでも“これからの若い世代に世界を見せたい”という思いが勝っていた」と話す。ソニーグループでAI/MLエンジニアとして働く鎌田氏は、実務の傍ら教育系NPOで中高生を指導した経験を持ち、AIを学ぶ場の少なさに課題意識を抱いていた。「海外では高校生が大学レベルのAI研究をしている例もある。日本の学生にも同じ機会を提供することで、日本の影響力を盛り上げていくことが、中長期的に見て、日本のためになると考えた」(鎌田氏)。
国際人工知能オリンピック日本委員会(JOAI委員会) 理事 坂本龍士郎氏(株式会社博報堂テクノロジーズ)
また、広報や組織運営を担う理事の坂本氏は、企業での実務の傍ら、データサイエンス教育とコミュニティづくりに取り組んできた人物だ。「AIに興味を持つ中高生が、同じ志を持つ仲間と出会える場所をつくりたかった」と話す。日本の中高生のAI習熟度についても「モチベーションは高く、実力面でも、コンペに限れば大人顔負けの実力を備える子もおり、時代を経るごとに、明らかにAIに対する興味、関心は高まり技術力向上を肌で感じている」と熱いまなざしを向けている。
国際人工知能オリンピック日本委員会(JOAI委員会) 理事 服部 響氏(株式会社ABEJA / Kaggle Grandmaster)
理事の服部氏は、ABEJAでプリンシパルデータサイエンティストとして活躍、世界的なKaggle Grandmasterとして知られる。服部氏は「自分もコンペティションで育ててもらった。今度は教える側として恩返しをしたい」とJOAI委員会に参画、日本人工知能オリンピック(JOAI)における課題設計を中心に技術面を支えている。
JOAIは、この3氏をはじめ、AI実務の第一線で活躍する社会人が趣旨に賛同して理事やスタッフとして参加し、「AIを基軸に、共に歩んでいく仲間や師と出会えるコミュニティの創生」をミッションに、“教育と実践のハイブリッド組織”として活動している。
IOAI 2025の代表選考を兼ねた、日本人工知能オリンピック(JOAI)の2025年大会は、データ分析プラットフォーム「Kaggle」を用いたオンラインコンペ形式で実施された。課題テーマはテキスト・画像・表データを扱うマルチモーダルデータ分析。服部氏は課題設計について「狙いは大きく2つある」と話す。「1つは、初心者でも学びながら挑戦できる大会であること。そして2つめは、上級者が創意工夫を発揮できる奥行きを備えることを考慮した」ということだ。
はじめてAIに触れる初学者でも参加しやすいようチュートリアルを豊富に準備しシンプルに回答できる一方、上位進出者にとっては、テキスト・画像・表データの3つを組み合わせることでより高いスコア、モデルの精度が得られる仕掛けを両立させた。「挑戦の入口を広くしながら、上位層の探究心も刺激したかった」と服部氏は説明する。
国内大会には154名が参加し、上位入賞者として4名の高校生がIOAIの日本代表として選ばれた。鎌田氏は「プログラミング経験が浅い学生が、大会での試行錯誤の経験を経て独学し、実力をつけて上位に食い込む姿が印象的だった」と振り返る。
代表決定後は、毎週末にオンライン勉強会を開催した。Kaggle上位者や大学研究者がメンターとして参加し、過去問の解法共有やコードレビューを通じて実践的な学びを支援した。坂本氏は「我々が教えるというより、学生たちが主体的に学び合う場だった」と語る。
印象的だったのは、国際大会直前に出題された「アットホームタスク(At-Home Task)」への挑戦だ。実質的な前哨戦となり、学生たちは本番の出題傾向を予測しながら、想定解法を議論した。鎌田氏は「あたかも情報戦の様相を呈しており、他国の代表も同様に分析を進める中、互いに“どう解いた?”と探り合いながらも、こちらは通称を使って自分たちにだけ分かる言葉で話していた」と笑う。競技を通じて、学生たちは戦略的な思考力や、チームで協働する力も磨いていったという。
勉強会では、英語論文の読み方、仮説検証のプロセス、AI倫理に関するディスカッションなど、単なる技術演習にとどまらない内容も扱われた。鎌田氏は「一方的に知識を教えるのではなく、AIをどう社会に役立てるかを一緒に考える時間だった」と話す。服部氏も「AIコンペはスコアを競う場に見えるが、実際は仮説思考と創造性を磨く場。学生たちが楽しみながらそれを体得してくれたことが何よりうれしい」と総括した。
2025年8月、北京で開催されたIOAI本戦では、日本代表4名が金・銀・銅メダルを獲得。国別順位8位という結果は、設立2年目のJOAIにとって大きな成果となった。海外の現状を見ると、各国の支援体制には大きな差がある。ロシアやポーランドでは国家レベルのプログラムとして予算と人材が確保され、代表選抜から研究支援まで一体で運営されている。
一方、日本は国家としての支援体制がまだ整っていない。それにも関わらず、Kaggleや競技プログラミングを通じてAI技術に早くから触れる若年層が多いという。鎌田氏は「才能の原石が確実に増えている。あとはそれを磨く仕組みを社会全体で持てるかどうかが課題だと感じた」と話した上で、「AI教育の裾野をさらに広げる必要がある」と指摘する。「中高生のAIに関するプレゼンスは国際的に高まっているが、社会に出るとそれが失われてしまう傾向がある」と鎌田氏は述べ、「教育からキャリアへとつなぐパスを明確にしなければならない」と、産官学を横断した支援の重要性を強調した。
坂本氏も「国別順位8位は快挙だが、今後の課題は、AI学習への入口拡大だ」と述べる。ポテンシャルをもった子をいかに発見し、育成できるかAIの土壌を作っていくのが課題だということだ。
そして、服部氏も「数学オリンピックや物理オリンピックに比べれば、まだ“AIの大会があるの?”という段階。『人工知能オリンピックに出た』と聞いて誰もが認識できるような存在になりたい」と今後の課題について話す。
民間発のJOAIが、日本のAI教育のエコシステムを社会的ムーブメントへと昇華できるか――。若い才能を発掘し、社会に還元する循環型のエコシステムをいかに築けるかが、JOAIの次の挑戦となる。
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上述した通り、JOAI委員会のミッションは「AIを基軸に、共に歩んでいく仲間や師と出会えるコミュニティの創生」にある。鎌田氏は「AIの学びは個人の取り組みに見えるが、実際は人と人の協働によって深まる」と話す。また、服部氏も「高校生が第一線のデータサイエンティストと同じ環境で議論できることがJOAIの魅力だ」と応じた。
また、IOAI代表候補を早期から育成する「選抜育成プログラム0期生」も試験的に始動。将来的には海外大学進学を見据えたメンタリング体制の強化も視野に入れている。
運営面では、資金調達と人材確保が引き続きの課題となる。「学生の渡航費や宿泊費の負担を軽減したい。そのためにも企業や学会との連携をさらに広げたい」と服部氏は述べる。JOAIの活動や趣旨がさらに広く認知され、教育・産業・研究の垣根を超えた連携が進めば、AI人材育成の新たな社会モデルが形成されるだろう。
最後に、来年以降のIOAIを目ざす中高生やその保護者に向け、坂本氏は次のように語る。AIに関心を持つ中高生は、まず一歩を踏み出してほしい。参加するだけで新しい世界が広がる。保護者や先生方にも、こうした挑戦を後押ししてもらえればうれしい──。JOAI委員会が目指すのは、“AIを学ぶ機会”を“AIでつながる未来”へと発展させることだ。たこの挑戦が、日本のAI教育の将来像を変えていくに違いない。
(TEXT:阿部欽一 編集:藤冨啓之・野島光太郎)
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