わたしたちの生活を大きく変える「実質賃金」。
さまざまな要因でモノの値段が上がる昨今、実質賃金も大きく変動しています。
労働者が実際に受け取った給与を名目賃金(貨幣賃金)と呼びます。全国の世帯が購入する家計に係る財及びサービスの価格等を総合した物価の変動を時系列的に測定するための指標で、家計の消費構造を一定のものに固定し、物価の変動によって家計に要する費用がどう変化するかを示しています。
そして実質賃金は名目賃金から消費者物価指数に基づく物価変動の影響を差し引いて算出した指数になります。労働者が給与で購入できる物品やサービスの量を表しているため、個人消費の動向にも影響します。
実質賃金の変動については、厚生労働省が毎月勤労統計調査で公表しています。
実質賃金は、名目賃金/物価上昇で計算できます。
例えば、昨年の人々の平均年収400万円だったとして、インフレに合わせ、5%、平均年収が増加したと仮定します。一方で消費者物価指数が8%増加したとします。
この条件で名目賃金、実質賃金を計算すると以下の表のようになります。
昨年度 |
今年度 |
昨年比の増減 |
|
名目賃金 |
400万円 |
420万円 |
+20万円 |
消費者物価指数 |
1 |
1.08 |
+0.08(8%) |
実質賃金(名目賃金/物価上昇) |
400万円 |
389万円 |
-11万円 |
名目賃金は20万円上がっているものの、物価の上昇率の方が高いため、実質賃金は-11万円となってしまいます。
ここで実際の名目賃金と実質賃金の国際比較を見てみましょう。
1990年からの30年間についてフランス、ドイツ、日本、イギリス、アメリカを比較した内閣府のデータを参照します。
5年ごとの一人当たり名目賃金(1991年を100とする)
1991 |
1995 |
2000 |
2005 |
2010 |
2015 |
2020 |
|
フランス |
100 |
110.6 |
122.2 |
142.4 |
162.2 |
174.5 |
181.7 |
ドイツ |
100 |
122.5 |
131.9 |
144.5 |
156.3 |
180.4 |
200.5 |
日本 |
100 |
104.5 |
105.6 |
101.6 |
96.2 |
95.4 |
100.1 |
イギリス |
100 |
116.9 |
147.2 |
176.5 |
203.2 |
220.7 |
243.4 |
アメリカ |
100 |
111.8 |
139.9 |
162.9 |
188.7 |
212.5 |
249.1 |
出典:第2-1-5図 一人当たり名目賃金・実質賃金の推移 – 内閣府
欧州諸国において名目賃金が2倍(200)前後、アメリカにおいては、2.5倍(250)まで増加しています。一方で、日本においては、2020年時点で100.1と、30年かけてほとんど変化がないことがわかります。
5年ごとの一人当たり実質賃金(1991年を100とする)
1991 |
1995 |
2000 |
2005 |
2010 |
2015 |
2020 |
|
フランス |
100 |
104.2 |
110.2 |
118.1 |
126 |
129.8 |
129.6 |
ドイツ |
100 |
109.1 |
113.4 |
115.8 |
117.1 |
127.3 |
133.7 |
日本 |
100 |
101.5 |
102.7 |
104 |
101.9 |
99.7 |
103.1 |
イギリス |
100 |
105.6 |
123.1 |
138.9 |
143.5 |
142.8 |
144.4 |
アメリカ |
100 |
101.9 |
117.1 |
122.8 |
129.1 |
135 |
146.7 |
出典:第2-1-5図 一人当たり名目賃金・実質賃金の推移 – 内閣府
欧米諸国において、名目賃金は2倍前後だったのに対し、名目賃金は1.3(130)〜1.4(140)倍程度になっています。これは賃金の上昇に対し、物価も上昇していることを示しています。一方で、日本においては、実質賃金の推移も名目賃金と大きな差はなく、賃金だけでなく物価も変化がない状態が継続していることがわかります。
さらに直近の8年間について、日本国内の推移をみてみましょう。
厚生労働省のデータから2014年の数値を100とした時の値が以下になります。
2014 |
2015 |
2016 |
2017 |
2018 |
2019 |
2020 |
2021 |
2022 |
|
名目賃金 |
100 |
100.1 |
100.7 |
101.0 |
102.4 |
102.0 |
100.8 |
103.0 |
105.1 |
消費者物価指数 |
100 |
101 |
100.9 |
101.5 |
102.7 |
103.3 |
103.3 |
103.0 |
106.1 |
実質賃金 |
100 |
99.2 |
100.0 |
99.8 |
100.0 |
99.0 |
97.8 |
98.4 |
97.4 |
出典:毎月勤労統計調査 令和4年分結果確報 – 厚生労働省
2020年以降、名目賃金は上昇していますが、消費者物価指数がそれ以上に上昇しているため、2020年と比較し、2022年は実質賃金は減少しているのです。消費者物価指数の上昇の背景には、新型コロナウイルス感染症の影響やウクライナ侵攻に伴う流通の停滞や人件費の高騰、物資不足などが考えられます。
国内だけではコントロールできない要因で物価が上昇した場合、それに見合う賃金の増加をしていかなければ、額面の年収は上がっても、実質的な賃金は上がらないのです。
長期間にわたる現状維持を超え、今一度賃金の上昇を社会で推進していかなくてはならないフェーズに突入してきているとも言えます。
変化の最中を働く一人一人が考えていかなくてはならないのかもしれません。
【参考資料】 ・わかりやすい用語集 解説:実質賃金(じっしつちんぎん)| 三井住友DSアセットマネジメント ・消費者物価指数(Cpi) | 総務省統計局 ・給与明細に書いていない「実質賃金」の計算方法と「賃金の種類」を解説 |ファイナンシャルフィールド ・第2-1-5図 一人当たり名目賃金・実質賃金の推移 | 内閣府 ・毎月勤労統計調査 令和4年分結果確報 | 厚生労働省
(大藤ヨシヲ)
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