宮西 京華(みやにし けいか)
保険会社で事務職をやっているデータマネジメント担当。歌い手動画を見るのが好き。
松田 紗友里(まつだ さゆり)
マーケティングが専門でSQLが得意。データ分析担当。ゲームやアニメが好き。
データマネジメント解説、連載の第19回が始まりました。
データマネジメントの推進計画を作るためにデータマネジメント成熟度アセスメントを行うことにした宮西さん。
苦労の果てにデータマネジメント成熟度アセスメントは終わりましたが、次のアクションが思い浮かびません。
・・・・・
データマネジメント成熟度アセスメントの評価シートを一通り埋めたとき、私は正直ほっとしていた。手こずったけれど、やるだけのことはやった。
これで次に進める、そんな風に思っていた。でも、すぐに気づいた。
データマネジメント成熟度アセスメント終わったところで、次は何をすればいいんだろうか。
画面に映る成熟度アセスメントのシートを見つめながら、私は頭を抱えた。評価スコアは出た。
それなのに、そこから何をすればいいのかが、まったく浮かんでこなかった。
「宮西さん、どうしたの?」
考えすぎて固まっていたところ、松田先輩が隣から声をかけてきてくれた。
「アセスメントは終わったのですけど、これを見て、何を優先すればいいのかわからなくて」
そう答えると、松田先輩はほんの少しだけ笑った。少し予想していたような表情をしている。
「よくあることなのよね。アセスメントをやること自体が目的になっちゃって、その先何をやればいいのか困るの」
私は黙った。図星すぎて、何も言えなかった。
「このデータアーキテクチャの項目、評価が1だったよね?」
「はい。会社としてのデータ戦略もなくて、全体としてどう整理されてるのかって訊いたら、そんなのないよって、各部署に言われました」
「データを集めて管理して利用するっていう全体像がないと、どんな施策も部分的になっちゃうから」
私は再びシートを見つめた。データアーキテクチャ1。他の項目は2とか3が多かったけど、この「1」という数字だけ、妙に冷たくて重く感じる。
「じゃあ、データアーキテクチャから手をつければいいんでしょうか?」
「それは、解くべき課題と達成したい目的は何なのかを考えてからよね」
また出た、目的という言葉。
「アセスメントは、ゴールじゃなくて出発点なのよね。この状況を見てどこに向かうかを決めるためには、目的が必要になる」
確かに、私はアセスメントのシートを埋めることに夢中になっていた。
数字が出れば、それが答えになると思っていた。でも本当は、出てきた数字をもとに「じゃあ、何をする?」を考えるところからが本番だった。
「今後うちが複数事業をまたいでデータを活用していくなら、データアーキテクチャをこのまま放置はできないよね」
「逆に、もし今は一部の業務に限って小さく成果を出したいなら、そこまで大きく手をつけなくてもよかったりもする。その優先順位を決めるために、私たちは目的を考えるわけなのよ」
私は、少しだけ深呼吸をした。わかっていたつもりだった。でも、わかっていなかった。アセスメントの完了がデータマネジメントの始まりだということを。
「アセスメント結果を見てどう行動したらよいかは目的が決めるんですね」
「大切なのはこの評価だから良いとか悪いじゃなくて、この状態で目標を達成できるかどうかを考えるためにあると考えると、次の一歩が見えてくるってことですね」
私はもう一度、アセスメントシートを見直した。今度は、さっきよりも少しだけ、落ち着いた目で。データマネジメント成熟度アセスメントの数字は結果ではなかった。データマネジメントの出発点だった。
・・・・・
データマネジメント成熟度アセスメントを終えたあと次に何をすればいいのかがわからないと感じる方は、決して珍しくありません。
進める中でデータマネジメント成熟度を完成させることが目的となってしまい、苦労して現状を数値化したにもかかわらず、それをどう使えばいいのかが分からなくなってしまいます。
データマネジメント成熟度アセスメントというのは、現時点における組織の姿を写し出す鏡のようなものです。
うちの会社はこうなっているという現状把握を可能にする一方で、この状態が問題なのか、それとも受け入れられる水準なのかという判断は、アセスメントそのものからは導けません。
なぜなら、その判断をするのは、組織がどこに向かおうとしているのかという目的に依存するからです。
評価が1の項目があったとしても、現在のビジネス目標に直結しない領域であれば、今すぐ改善しなくても差し支えないことがあります。
逆に、3や4といったスコアであっても、組織の目指す姿と比較して不十分であれば、優先的に対応すべき対象になり得ます。
つまり、アセスメントの数字そのものに意味があるというよりも、この数字と自分たちの目標のあいだに、どれだけのギャップがあるかを見ることがデータマネジメント成熟度アセスメントの本質です。
繰り返しになりますが、アセスメントは目的を達成するための現在地を知るためのツールです。評価結果を見てできていないから改善しようと直結させるのではなく、この状態で自分たちがやろうとしていることは実現できるのかという問いを立ててみてください。そうすることで、アセスメントの結果がようやく機能し始めます。
データマネジメントの旅路は、数字ではなく、問いから始まる。その出発点を見失わないことが、実践における最初の成功要因になります。
よしむら@データマネジメント担当
IT業界、金融業界、エンタメ業界でデータマネジメントを担当した経験を持ち、現在もデータマネジメント担当している。データマネジメント業界を盛り上げるために、経験を通して得た知識の発信活動を行っている。
本記事は「よしむら@データマネジメント担当」さんのデータマネジメントを学べることをコンセプトの4コマ漫画「AI事務員宮西さん–データ組織立ち上げ編」のコンテンツを許可を得て掲載しています。
保険会社で事務員として働く宮西さんは、会社がAI時代に対応するために新設したデータ部門に突然配属されました。事務員からデータマネジメントのリーダーへと成長していく宮西さんの奮闘記を描いた物語。
本シリーズ「データ組織立ち上げ編」では、宮西さんがデータ利活用組織を立ち上げるまでの挑戦を描きます。IT業界、金融業界、エンタメ業界でデータマネジメントを担当した経験を持つ著者「よしむら@データマネジメント担当」さんが豊富な経験を基に執筆しています。データ組織の一員の皆様には、ぜひご一読ください。
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