皆さんは『ベスト・オブ・ブリード(Best of Breed)』という言葉をしっていますか?
ベスト・オブ・ブリードは『システムを構築する際に様々なベンダーの製品の中から、各分野で最も良いハードウェアやソフトウェアを選択し、それらを組み合わせることによってシステム構築を行うこと』を指します。
イメージとしては、財務会計はA社のソフトウェア、販売管理はB社のソフトウェア、人事給与はC社のソフトウェアを使用する、といった具合です。
ベスト・オブ・ブリードという言葉はもともとイヌやネコのブリーディング(繁殖)用語であり、血統ラインの犬などを交配させて『最高の個体をつくる』という意味から、IT業界の用語としても用いられるようになりました。
日本語では各システムの良いとこどりという意味合いから『幕の内弁当型』と呼ばれることもあります。
ベスト・オブ・ブリードと比較される言葉に『スイート(Suite)』があります。
スイートはベスト・オブ・ブリードとは逆に、企業内の情報システムをすべて同一ベンダーの製品でそろえる考え方を指します。
具体例として、表計算ソフトなど事務処理などに使うアプリケーションソフトをひとまとめにしたオフィススイート(office suite)などがあります。
これらのベスト・オブ・ブリードとスイート、どちらの方向性で企業内の情報システムを構築していくのが良いかというのは、たびたび議論される問題です。
ベスト・オブ・ブリードとスイートを比較検討していくにあたって、まずはベスト・オブ・ブリードのメリット・デメリットについて見ていきましょう。
ベスト・オブ・ブリードの最大のメリットといっても過言ではないのが、各分野で最適なシステムを選ぶことができるという点です。財務管理、生産管理、販売管理などそれぞれの部門がもっとも使いやすいと感じるシステムが同一ベンダーのシステムである可能性はとても低いです。その点ベスト・オブ・ブリードではそういった個々のニーズに柔軟に対応することができます。
ベスト・オブ・ブリードでは、最先端のテクノロジーを搭載したシステムを使える可能性が高いです。スイートと違って1つ1つのシステムがカバーしている範囲が限定的なので、より迅速に時代の変化に合わせてシステムのアップデートが可能となります。
各部門で別々のシステムを使えるため、時代に合わせて別のシステムに入れ替えたい、となった際にもスイートに比べると入れ替えがしやすいです。
ベスト・オブ・ブリードでは各システムを開発しているベンダーが違います。そのためシステムごとにベンダーとのやり取りや調整が発生し、複雑になる傾向があります。
別々のシステム同士だと、それぞれが個別にデータをもっているためデータの共有やシステムの連携に苦労する可能性があります。システム同士の統合やデータの共有がうまくいかないと、手動でのデータ入力や冗長なストレージの発生、またデータの整合性の欠如といった問題が生じます。
目的に応じて別々のシステムを使用することによって、従業員が使用するアプリケーションやシステムのデザインに一貫性がなくなります。
続いてスイートのメリット・デメリットについて見ていきましょう。
スイートは個別の目的に合わせたシステムが一通りそろっているため、組織全体に一気にデプロイすることができます。
スイートでは各システムごとに別々の形式でデータを管理、ということがないためデータ同士の連携がスムーズかつ正確に行えます。手動でデータを入力するなどの工程が入ると、どうしてもヒューマンエラーが発生する可能性がありますが、スイートではそういった手間が生じません。
スイートでは、大手ベンダーによって全機能を備えたパッケージを提供している場合が多く、競争も少ないため導入コストが高くなる傾向があります。
スイートでは基本的なシステムが全てそろっていることが魅力の1つですが、その万能さゆえに1つ1つのシステムの機能が平均的という場合が多いです。各システムを専門であつかっている従業員からすると、他のシステムの方が使いやすいと感じることもあるでしょう。
一部のシステムや機能が時代遅れになったり、最新のテクノロジーに合わせてアップデートしたい部分があったとしても、一部を取り出して変更するということはスイートでは困難です。
ベスト・オブ・ブリードとスイートについて、それぞれの特徴やメリット・デメリットについて詳しく見てきましたが、実際はどちらの方が優れているのでしょうか?
そのことについて様々な議論が交わされていますが、実際のところどちらがより良いかという結論を出すことは出来ません。
今後も業種や企業のやり方によって、ベスト・オブ・ブリードとスイートどちらも活用されていくと考えられます。
ベスト・オブ・ブリードやスイートと似たような対比で、その方向性がよく議論される話題があります。それは企業システムを『アウトソース化』するか『内製化』していくかについてです。こちらの問題を考えるにあたって、真逆の戦略をとっている2社の事例をもとに分析していきましょう。
先行事例として紹介するのが、日本のトップランナー企業である『トリドール』と『カインズ』です。こちらの企業はシステムのアウトソース化と内製化において真逆の戦略をとっています。
丸亀製麺などの大手飲食店を営む株式会社トリドールホールディングスは、DXの推進を強化しシステムのアウトソース化を目指すことを決めました。その理由として、トリドールでは『あくまで自社で注力すべきは高品質な商品とサービスの提供』にあるからとしています。また少子化が進む中、不足しているIT人材はますます専門のIT企業に集中するであろうことを見据えて、システムの内製化よりもSaaSを供給するパートナー連携を強化する方針をとりました。
ホームセンター最大手である株式会社カインズでは『ベンダー依存から脱却し強い内製組織をつくり上げること』を目指し、システムの内製化に取り組んでいます。その理由として、カインズのデジタル戦略本部の責任者である池照本部長は『米国企業はエンジニアを社内で抱え開発を内製化するのが当たり前。開発をシステム開発会社に委託していては時間もコストもかかってしまう。迅速にデジタル施策を打てる強い小売業を目指すには内製化が不可欠だ』と話しています。カインズでは実際にデータ活用環境を刷新するなどして、短期間にシステムを次々と開発するなどの成果をあげています。
トリドールやカインズの先行事例をみていくと、どちらにも明確な理由があり確信をもってシステムのアウトソース化や内製化を進めていることが分かります。
ここで重要なことは、トリドールやカインズの事例では『自社のコアとノンコアの領域を的確に判断したうえでアウトソース化や内製化を進めている』という点です。
実際にどちらが優れているかという議論は、ベスト・オブ・ブリードやスイートの議論と同様に明確な答えをだすことは難しいです。
そこでもっとも重要なのは、自社のコアとノンコアの領域がなんなのかということを正確に判断する点にあると考えられます。
ベスト・オブ・ブリードやスイート、また同様に議論にされることが多いアウトソース化や内製化について紹介してきました。
これらの話題についてどちらがより優れているかということは、企業によって異なると考えられます。
重要なのは単純にどちらかを選ぶことではなく、自社の分析をしっかりと行い最適なやり方を使い分けていくことです。
これらの分析をするためにも、トリドールやカインズのような先進的な取り組みをしている事例について、今後も関心をもって見ていく必要があります。
参考文献 https://www.showcase-gig.com/dig-in/toridoll-01/ https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00678/111200038/ https://bcart.jp/glossary/w/406/ https://www.itmedia.co.jp/im/articles/0411/25/news102.html https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1607/30/news010.html https://makitani.net/shimauma/best-of-breed https://www.okta.com/jp/blog/2020/09/best-of-breed-technology/ https://growth-marketing.jp/knowledge/growthmarketing_for_beginners17/
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