1990年代に普及しはじめたインターネットは、現代では誰もが日常的に利用するツールとなりました。多くの方にとってインターネットなしの生活は考えられないことでしょう。このインターネットには、既に長い歴史があります。
インターネットが普及しはじめた1990年あたりから2000年代前半までは、「Web1.0」の時代でした。主な特徴は、「一方向コミュニケーション」「テキストコンテンツメイン」などです。2000年代後半から2020年あたりまでは、「Web2.0」の時代でした。主な特徴は、「双方向コミュニケーション」「画像・動画コンテンツ急増」などです。そんな歴史のあるインターネットは、さらに新しい段階へと進化しつつあります。
「Web3」、および「Web3.0」というワードを見聞きしたことのある方も少なくないでしょう。以前から存在していたワードではありますが、近年より一層、そのワードを見聞きする機会が増えました。「Web3」と「Web3.0」は同一のものとして扱われることも多いのですが、本来は全くの別物で、それぞれが示す意味は大きく異なります。本記事では、「Web3」と「Web3.0」にフォーカスし、それぞれの概要や関連用語などを解説していきます。
Web3とWeb3.0の違いについて簡単に解説しました。ここから、Web3について詳しく解説していきます。
Web3は、2014年に、イーサリアムの創設者の一人、キャビン・ウッド氏によって提唱された概念です。「ブロックチェーン技術を基盤として、分散型インターネット環境を構築する」。これがWeb3の要諦です。
これまでのインターネットは、一部の特定の企業が大きな影響力を持つ中央集権型でした。
多くの方が、通販サイトやオンラインバンキング、SNS、動画サイトなど、あらゆるインターネット上のサービスを利用していることと思います。サービスの提供企業としては、AmazonやFacebook、YouTubeなどが有名です。各種インターネット上のサービスは、あらゆる活動を行える基盤という意味でプラットフォームとも呼ばれています。
多くの方にとって、これらプラットフォームなしの生活は考えられないのではないでしょうか。しかし、この状況を疑問視する声も少なくありません。各種プラットフォームは、我々にあらゆる便利さや楽しさを提供してくれますが、その反面、次のようなデメリットがあります。
Web3では、この中央集権型インターネット環境の問題に対応します。具体的には、ブロックチェーン技術を用いて、中央集権型インターネット環境からの脱却し、分散型インターネット環境の構築を目指しているのです。
「Web3」および「Web3.0」の時代です。それぞれの具体的な内容については次のセクションから詳しく解説していきますが、まずは下記に示した早見表で大まかにポイントを押さえましょう。
Web3 |
Web3.0 |
|
提唱時期 |
2014年 |
2006年 |
提唱者 |
ギャビン・ウッド |
ティム・バーナーズ・リー |
提唱者の所属 |
イーサリアム財団 |
W3C |
キーワード |
分散型インターネット |
セマンティックWeb |
目指す世界 |
Web2.0の中央集権型から脱却し、個人と個人がフラットにつながりやすい状態 |
Webページにある情報の意味を、コンピュータが人間と同じように解読できる状態 |
関連技術 |
ブロックチェーン技術 |
メタデータ技術 |
Web3とWeb3.0は全く異なる概念ですが、現状を見ると、混同されているケースが多々見受けられます。そのため、まずは大前提としてWeb3もWeb3.0も、Web1.0およびWeb2.0の流れをくんでいますが、全く異なる概念ということを理解してください。Web3は、2014年に運用がスタートした仮想通貨「イーサリアム」の創設者の一人、ギャビン・ウッド(Gavin Wood)氏が2014年に提唱した概念で、キーワードは「分散型インターネット」です。詳しいところは後述します。
■W3Cとは 「World Wide Web Consortium」の略称で、「World Wide Web(WWW)」における各種技術の標準化を推進する組織のこと。ティム・バーナーズ・リーはその創始者で、「Webの父」と呼ばれている。 |
例えば、本来のWeb3をWeb3.0としているケース、その逆に本来のWeb3.0をWeb3としているケースがあります。また、「Web3(Web3.0)」といったように同じ意味を表すワードとして併記されているケースもあります。
なお、一般的に認識されているのはギャビン・ウッド氏が提唱したWeb3の方です。ティム・バーナーズ・リー氏が提唱したWeb3.0は、現在もW3Cにおいて一つのプロジェクトとして推進されています。しかし、一般的にはWeb3が目指す世界「Webページにある情報の意味を、コンピュータが人間と同じように解読できる状態」も、関連するメタデータ技術も、Web3.0の中央集権的な体制からの脱却やブロックチェーン技術と比べると一般層には認知が広がっているとは言えません。
この理由はいくつか考えられますが、特に要因は世界的なトレンドとなった「仮想通貨」に関連する考え方か否かによるところが大きいと考えられます。
Web3の概要や関連用語を解説してきました。
Web3では、ブロックチェーン技術を基盤として、分散型インターネット環境の構築を目指します。
仮想通貨やNFTなど、すでにWeb3に関連するサービスがスタートしていますが、利用する上で専門知識が必要となるため、普及にはまだまだ時間がかかるでしょう。また、Web3は登場して間もない概念であるため、ルールや法律の整備が十分に行われておりません。
専門知識をどう浸透させるか、どのようなルール・法律で運用していくか、このあたりがWeb3の今後の課題となるでしょう。
Web3の関連語句を5つ紹介します。
それぞれ見ていきましょう。
ブロックチェーン技術とは、インターネットにおけるさまざまな取引記録を管理するデータベース技術の一つです。ブロックチェーン技術では、取引記録をブロックと呼ばれる単位で分割し、それをインターネット上にある多数のコンピュータで分散的に管理します。そして、あるブロックで何らかのトラブル(例えばデータの破損や改ざんなど)が起きても互いに補完し合えるような形で運用していきます。細かく分割したデータ(ブロック)を1本の固い鎖(チェーン)のようにつなげて管理する。このようなイメージです。
Web3では、このブロックチェーン技術を用いて分散型インターネット環境の構築を目指します。このブロックチェーン技術を土台としてプラットフォームを作ると、そのユーザー同士でさまざまな取引履歴を分散管理できるようになります。これは、特定の管理者がいなくても、ユーザー同士でさまざまな取引(例えば、コンテンツ配信や製品・サービス販売、通貨のやり取りなど)が可能になるということです。
DAOとは、「Decentralized Autonomous Organizations(分散型自律組織)」の略称で、ブロックチェーン技術を利用した新たな組織の形です。
特定の管理者が存在しないという点が大きな特徴で、ルール策定や意思決定は参加するメンバーの投票によって行われます。そこに「経営者と労働者」などのような上下関係は存在しません。メンバーひとり一人が平等な関係にあり、メンバーの民主的な取り組みによって、組織の方向性が決まることになります。
このDAOは、インターネット上で事業や独自のコミュニティを運営する際の新しい形として注目されています。
NFTとは、「Non-Fungible Tokens(非代替性トークン)」の略称で、ブロックチェーン技術により特定のデジタルデータの唯一性を証明する仕組みです。
我々が普段扱っているデジタルデータは簡単にコピーすることができますが、コピーが広く出回ってしまえば本物のデジタルデータの価値は低くなってしまいます。ここで登場するのがNFTです。
NFTを利用すれば、「このデジタルデータの所有者はこの人物である」「このデジタルデータはコピーである」といったように権利情報を管理できるようになります。それだけ、デジタルデータの取り引きに透明性が生まれます。
NFTは、アート作品や音楽作品、ゲームアイテムなど、あらゆるデジタルデータの取引に活用されています。
仮想通貨とは、ブロックチェーン技術を基盤として運用されるデジタル通貨です。銀行など特定の管理者を介することなく、インターネット上で自由に通貨のやり取りを行うことができます。
種類としては、「ビットコイン」や「イーサリアム」、「リップル」などが広く知られています。いずれも、日本円やドルなどのように政府がその価値を保証しているわけではない点に注意が必要です。
メタバース (Metaverse) とは、「超越」という意味の「メタ(Meta)」と「宇宙」という意味の「ユニバース(Universe)」を組み合わせた用語です。インターネット上に構築される多人数参加型の三次元仮想世界のことを指します。
ユーザーは、世界中のどこにいても、VRゴーグルなどVR専用デバイスを通してその世界に入ることができます。そして、その世界の中では、アバターと呼ばれる自分の分身のような存在を介して、さまざまなエリアを自由に動き回ったり、他ユーザーと交流したり、経済活動を行ったりと、さまざまな活動を行うことができます。
このメタバースとWeb3は、もとから関連性があるわけではありません。しかし、DAOや仮想通貨といったWeb3関連技術を利用すると、メタバース上のあらゆる活動がスムーズに行いやすくなることから、メタバースがWeb3の関連用語として扱われることがあります。
本章ではWeb3となるまでの変遷・歴史を紹介します。
順に紹介します。
Web1.0の時代は、インターネットが普及しはじめた1990年あたりから2000年代前半までを指します。Web1.0では一方向コミュニケーションが主体でした。一部の企業や専門知識を持った個人がWebサイトを作成し、閲覧者はそのWebサイトのコンテンツを見るだけという形です。また、当時は通信速度が遅く、テキストコンテンツがメインでした。
Web2.0の時代は、2000年代後半から2020年あたりまでを指します。Web2.0では双方向コミュニケーションが主体です。SNSやブログサービス、動画サイトなどの普及により、一般の方でも情報を発信できるようになりました。誰もが気軽に発信者にも閲覧者にもなれる世界です。また、通信速度が大幅に向上し、画像・動画コンテンツも急増しました。さらに、中央集権型も大きな特徴です。AmazonやFacebookなど、一部の企業が特に大きな影響力を持つようになりました。
Web3について解説してきました。続いて、Web3.0について詳しく解説していきます。
Web3.0は、2006年に、W3Cの創設者、ティム・バーナーズ・リー氏によって提唱された概念です。Webページにある情報の意味をコンピュータにも解読できるようなインターネット環境(セマンティックWeb)を構築する。これがWeb3.0の要諦です。
Web3.0を実現する上で、メタデータが一つのポイントとなります。
Web3.0の概要や関連用語を解説してきました。Web3.0は、2006年に提唱された概念ですが、「技術体系が複雑」「既存Webページに対応するためのコストが膨大」といったことから、未だ広く普及する状況には至っておりません。
なお、現代ではAI技術が発展してきており、そちらのアプローチからWebページにある情報の解読が行われるようになってきております。この状況を踏まえると、セマンティックWebの意義が薄れてきているとも考えられます。
Web3.0の関連用語を紹介します。
それぞれ紹介します。
メタデータ(metadata)とは、ある特定のデータに関連する情報をデータ化したもののことをいいます。「データについてのデータ」「データを説明するデータ」などと表現されることもあります。
例えば、レストランAというデータに対してのメタデータとしては、住所、電話番号、経営者名、料理ジャンル、座席数などが、その例として挙げられます。
メタデータは、Web3.0のみに関連した用語というわけではなく、データにまつわるあらゆる分野で使用されています。主に対象データの検索性や活用性を高めるために用いられます。
セマンティックWebとは、各Webページに対してメタデータを付与することで、コンピュータによる自律的な情報の解読や活用(収集や分析、整理、加工など)を可能にする構想や技術のことを言います。
Webページにある情報を見るとき、人間には理解できてもコンピュータには理解できないというケースがあります。例えば、あるWebページに「品川のレストラン」という文字列があった場合について考えてみましょう。
人間であれば、それが東京都品川区にあるレストランなのか、あるいは品川さんという方が経営しているレストランなのか、あるいは品川君という発信者の友達が働いているレストランなのか、文脈によって解読することができます。しかし、コンピュータは人間と同じように解読できないということが往々にしてあります。
そこで登場するのがセマンティックWebです。セマンティックWebは、各Webページに対して適切なメタデータを付与することで、コンピュータが人間と同じように解読できる状況を実現するのです。
本記事では、混同しやすい「Web3」と「Web3.0」にフォーカスし、それぞれの概要や関連用語などを解説してきました。Web3とWeb3.0は似たようなワードではありますが、それぞれの意味は大きく異なります。冒頭にもあった早見表を再掲載します。
Web3 |
Web3.0 |
|
提唱時期 |
2014年 |
2006年 |
提唱者 |
ギャビン・ウッド |
ティム・バーナーズ・リー |
提唱者の所属 |
イーサリアム財団 |
W3C |
キーワード |
分散型インターネット |
セマンティックWeb |
目指す世界 |
Web2.0の中央集権型から脱却し、個人と個人がフラットにつながりやすい状態 |
Webページにある情報の意味を、コンピュータが人間と同じように解読できる状態 |
関連技術 |
ブロックチェーン技術 |
メタデータ技術 |
冒頭で見たときよりも、イメージが湧くようになったのではないでしょうか。Web3もWeb3.0も、仕事にも私生活にも影響を与える可能性のある概念です。今のうちから基本的な知識を身につけ、その動向に注目しておきましょう。
著者:松下一輝
大学院修了後、大手システムインテグレータに入社。通信キャリアを顧客とする部署に配属され、業務システムや統合運用管理ツールなどの設計・開発業務に従事する。その後、文章を書く仕事に興味を持ち、さらに「わかりにくいITをわかりやすく伝える役割の人が社会には必要」と考え、ITライターに転身。Webメディア記事を中心に執筆している。
(TEXT:松下一輝 編集:藤冨啓之)
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