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11月5日、阪神タイガースがオリックス・バファローズに勝利し、SMBC日本シリーズ2023に優勝した。つまり、阪神は38年ぶりに日本一になったのだ。
今回の日本シリーズでにわかに話題となったワードが「阪神なんば線シリーズ」なのはご存じだろうか。関東在住の方々は、阪神なんば線がどのような路線なのかイメージがわかない人も多いだろう。実はオリックスはもちろん、その前身の近鉄バファローズの経営、ひいては成績に阪神なんば線は大きな影響を及ぼしているのだ。
データをもとにその経緯と、惜しくも日本一を逃したオリックスの期待大な「これから」を解説してみよう。
阪神なんば線は尼崎~大阪難波間を結ぶ阪神が運営する鉄道路線だ。尼崎駅で阪神本線、大阪難波駅で近鉄難波・奈良線に接続する。阪神なんば線を介して、神戸三宮~近鉄奈良間にて阪神・近鉄の相互直通運転を行っている。沿線にあるドーム前駅は、言わずもがなオリックスの本拠地である京セラドーム大阪(京セラドーム)の最寄駅だ。この他、JR大阪環状線・大阪メトロ長堀鶴見緑地線からもアクセスできる。
阪神なんば線が全通したのは2009年のこと。西九条駅から大阪難波駅まで延伸し、全通と相成った。現在、ドーム前駅には全列車が停車。大阪難波~ドーム前間は約5分、神戸三宮~ドーム前間は約40分である。
ちなみに、阪神タイガースの本拠地である阪神甲子園球場の最寄駅、甲子園駅からドーム前駅へは快速急行で16分。オリックスファンも阪神ファンも移動が楽な日本シリーズであったことは間違いない。このような交通事情もあり、鉄道ファンのみならず野球ファンからも「阪神なんば線シリーズ」と銘打たれたわけだ。
さて、オリックス・バファローズの本拠地は京セラドーム大阪(京セラドーム)である。京セラドームは1997年に完成。当時の名称は「大阪ドーム」であった。
オリックスの前身は阪急である。1988年に阪急からオリエント・リース(現オリックス)に球団譲渡された。1991年から本拠地は神戸になり、球団名は「オリックス・ブルーウェーブ」になった。1995年にはイチローの活躍などにより、リーグ優勝を果たした。
ところで、当時のパ・リーグに所属したチームは西武、日本ハム、オリックス、近鉄、ロッテ、ダイエーである。このうち、大阪ドーム(京セラドーム)を本拠地に置いたのが近鉄バファローズだった。
近鉄は南大阪線沿線の藤井寺球場を本拠地にしていたが、1997年に大阪ドームに本拠地を移した。しかし、大阪ドームへの使用料の支払い、観客数の伸び悩みにより、球団譲渡を決断。2004年、近鉄はオリックスに球団を譲渡した。
オリックスは球団名を「オリックス・バファローズ」とし、本拠地を大阪ドームに置いた。
近鉄は1997年に大阪ドームに本拠地を置いたにも関わらず、なぜ球団譲渡に追い込まれたのだろうか。いろいろな要因はあるが、ここでは鉄道と絡めて考えてみたい。
まずは日本野球機構が発表している1年あたりの球団別観客動員数を確認してみよう。
観客動員数のデータ | ||||
年度 | 球団名 | 観客動員数 | 本拠地球場 | その他 |
1989 | 近鉄 | 1,306,000 | 藤井寺 | パ・リーグ制覇 |
1990 | 近鉄 | 1,238,000 | 藤井寺 | |
1991 | 近鉄 | 1,419,000 | 藤井寺 | |
1992 | 近鉄 | 1,280,000 | 藤井寺 | |
1993 | 近鉄 | 1,068,000 | 藤井寺 | |
1994 | 近鉄 | 1,133,000 | 藤井寺 | |
1995 | 近鉄 | 967,000 | 藤井寺 | |
1996 | 近鉄 | 915,000 | 藤井寺 | |
1997 | 近鉄 | 1,866,000 | 大阪ドーム | |
1998 | 近鉄 | 1,250,000 | 大阪ドーム | |
1999 | 近鉄 | 1,155,000 | 大阪ドーム | |
2000 | 近鉄 | 1,148,000 | 大阪ドーム | |
2001 | 近鉄 | 1,593,000 | 大阪ドーム | パ・リーグ制覇 |
2002 | 近鉄 | 1,350,000 | 大阪ドーム | |
2003 | 近鉄 | 1,433,000 | 大阪ドーム | |
2004 | 近鉄 | 1,338,000 | 大阪ドーム | |
2005 | オリックス | 1,356,156 | 大阪ドーム | |
2006 | オリックス | 1,390,231 | 京セラドーム | |
2007 | オリックス | 1,137,186 | 京セラドーム | |
2008 | オリックス | 1,266,765 | 京セラドーム | |
2009 | オリックス | 1,285,907 | 京セラドーム | 阪神なんば線全通(3月) |
2010 | オリックス | 1,443,559 | 京セラドーム | |
2011 | オリックス | 1,400,961 | 京セラドーム | |
2012 | オリックス | 1,330,676 | 京セラドーム | |
2013 | オリックス | 1,438,467 | 京セラドーム | |
2014 | オリックス | 1,703,734 | 京セラドーム | |
2015 | オリックス | 1,767,220 | 京セラドーム |
※日本野球機構のデータをもとに筆者作成
藤井寺球場時代にあたる1989年~1992年は1年あたり120万人台~140万人台だった。成績は1989年がパ・リーグ優勝、その他の年も順位はAクラス(1位~3位)である。
しかし、1993年度~1996年度は成績が低迷。特に1995年度と1996年度は100万人を切る有様だった。ちなみに、両年のパ・リーグ優勝チームはオリックスであった。
1997年度、つまり「大阪ドーム元年」は180万人を超え、成績も後半の追い上げが効き3位であった。しかし、1998年度以降はパッとしない数字が並ぶ。パ・リーグを制覇した2001年度ですら、180万人には到底及ばなかったのだ。
藤井寺球場は大阪府藤井寺市に位置し、南大阪線の藤井寺駅を最寄駅とする。JR天王寺駅に近い大阪阿部野橋駅から藤井寺駅までは約15分だ。駅周辺は住宅が並び、大阪の郊外といった雰囲気だ。
一方、大阪ドームは大阪市内にある。なぜ、大阪市内に本拠地を移したのに、観客動員数は増加しなかったのだろうか。最大の要因は阪神なんば線の開通前まで、大阪ドームは近鉄ではアクセスできなかった球場だからだ。
当時、大阪ドームへ乗り入れたのはJR大阪環状線、大阪市営地下鉄(現大阪メトロ)長堀鶴見緑地線のみだった。南大阪線沿線でもJR大阪環状線への乗り換えが必要。しかも、JR大正駅から大阪ドームまでは徒歩約7分を要する。確かに藤井寺球場は南大阪線沿線に位置したが、大阪線沿線からは近鉄バスでアクセスできた。
また、藤井寺球場は近鉄グループが有する球場であった。一方、大阪ドームの所有者は近鉄ではなく、大阪市主体の第三セクター・大阪シティドームであったことも大きな要因だろう。当然、近鉄は大阪シティドームに使用料を支払う必要がある。観客動員数が伸び悩む中、高額なドーム使用料は近鉄球団の足かせになったのである。
余談ながら、大阪シティドーム自体も苦戦が続き、2005年に会社更生法を提案。その後、オリックスへの売却が決まった。2006年7月から命名権を獲得した京セラにより、名称が「京セラドーム大阪」になったのである。
オリックス・バファローズ時代になり、観客動員数は2009年度まで110万人台~130万人台を推移していた。しかし興味深いことに2010年度以降はコロナ禍を除き、130万人を切ったことはない。2010年度~2019年度の間で130万人台は1回だけだ。
2010年度以降から成績が飛躍的に上がったこともない。リーグ3連覇は2021年度からである。勘のいい方なら気づかれたと思うが、2009年3月に阪神なんば線が全通。近鉄奈良線の電車がそのままドーム前に乗り入れ、近鉄沿線から京セラドームへのアクセスが飛躍的に向上した。南大阪線からの場合、あべのハルカスから上本町行きのバスに乗り、大阪上本町駅からドーム前駅までは1本だ。
オリックス・バファローズは9月27日に今シーズンの主催公式戦の入場者数が約181万人にのぼることを発表した。これは球団最多入場者数だという。もちろん、バリーグ3連覇の偉業の影響が大きいが、やはり阪神なんば線なしでは達成できなかった数字に思える。
京セラドームは公共交通の面から見ると、まだまだポテンシャルのある施設だ。なぜなら、京阪沿線からの集客が期待できるかもしれないからだ。京阪は夢洲でのIR計画を見越して、中之島線の九条駅延伸を計画している。
九条駅では夢洲へ延伸する大阪メトロ中央線、そして阪神なんば線と接続する予定だ。確かに現行においても、京阪京橋駅では大阪メトロ京橋駅への乗り換えができ、大阪メトロ京橋駅から京セラドームへは長堀鶴見緑地線で1本だ。しかし、京橋駅での乗り換えは便利ではない。
京阪は九条駅延伸に関する「検討委員会」を立ち上げた。延伸するか否かは今後の決断次第だが、延伸の暁にはオリックスファンが京阪沿線に広がるかもしれない。
このように、阪神なんば線はプロ野球に多大な貢献をし、鉄道ファンはもとより全国の野球ファンにも知られる路線となった。一プロ野球ファンからすると、今後も同線のプロ野球に対する貢献を望みたいものである。
図版・著者:新田浩之
2016年より個人事業主としてライター活動に従事。主に関西の鉄道、中東欧・ロシアについて執筆活動を行う。著書に『関西の私鉄格差』(河出書房新社)がある。
(TEXT:新田浩之 編集:藤冨啓之)
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