2024年11月28日、あなたの「信用」が数字になった――。
この日、指定信用情報機関であるCICが、初めて本人向けに信用スコアを公開する新サービス「クレジット・ガイダンス」を開始しました。スコアは200点から800点の範囲で算出され、自分の“信用”が具体的な数字として見える時代が、いよいよ本格化したのです。
アメリカではFICOスコア、中国では芝麻信用といった信用スコアがすでに社会に深く浸透しています。日本もついにその流れに乗り始めた今、私たちの暮らしはどう変わるのでしょうか。 また、信用が可視化されることにはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
「信用スコア」とは、クレジットカードの利用履歴やローンの返済状況など、個人の金融行動をもとに“どれだけ信頼できる人物か”をスコア(点数)で可視化したもの。主に金融機関が、ローンやクレジットカードの審査に使う指標として活用します。
これまではアメリカの「FICOスコア」や中国の「芝麻信用」など、海外での普及が進んでいましたが、日本では同様の仕組みが存在していませんでした。
そんな中、ついに登場したのが「クレジット・ガイダンス」。
以前から銀行やクレジット会社では、顧客の信用力を独自にスコアリングし、与信判断などに活用する取り組みは存在しました。しかし、全国規模で金融情報が集約される信用情報機関が、公的な立場で本人にスコアを提示するという意味で、今回の取り組みはエポックなものといえるでしょう。
「自分の信用スコア、ちょっと気になるかも…」と思った方へ。
確認方法は意外とシンプルです。
名前や生年月日などの本人確認情報とともに、インターネット(オンライン)または郵送で申し込めば、自分の信用スコアを確認できる仕組みです。
開示手数料:500円
受付時間:毎日8:00~21:45
詳しい受付手順:https://www.cic.co.jp/mydata/online/index.html
開示手数料:1,500円
報告書の到着タイミング:申し込みの到着から約10日
詳しい受付手順:https://www.cic.co.jp/mydata/mailing/index.html
申込時には、信用情報と一緒にスコアと「算出理由(スコアに影響を与えた要因)」が表示されます。算出理由は最大4件まで表示され、たとえば「延滞の履歴がある」「契約数が多い」といった、スコアに関係する要素が確認できます。
「クレジット・ガイダンス」におけるスコア(CICでは「指数」と呼称)は、CICに登録された信用情報のうち、客観的な取引事実に基づいて算出されます。
性別、年齢、年収、学歴といった個人の属性情報は利用されておらず、スコア算出に使われるのは以下の5つのカテゴリです。
カテゴリ | 概要 | 指数算出に利用した項目の割合 |
---|---|---|
支払い状況 | 「請求額」「入金額」などからわかる金融機関への支払い状況 | 36.5% |
残高 | 「残債額」などを考慮した残高の大小 | 31.8% |
契約数 | 保有中・過去を含めたクレジット契約の件数 | 13.6% |
契約期間 | 契約開始からの経過年数 | 13.6% |
申込件数 | クレジット会社などに対する直近で行った新規契約申込の件数 | 4.5% |
これらの項目を複合的に分析し、200〜800点の範囲で指数が算出されます。
このスコアはAIなどのブラックボックス化したアルゴリズムによって導かれるものではありません。CICは、算出理由を明示できる統計的手法を採用しており、どの取引事実がスコアに影響を与えたかを利用者に提示することで、透明性の確保に努めていると説明しています。
なお、すべての人にスコアが表示されるとは限りません。以下のような条件では、スコアが「算出不可」となる場合があります。
1.登録されている契約が6カ月未満のものだけである場合
2.「返済状況:異動(長期にわたる支払の遅れ(61日以上または3カ月以上)がある場合)」のクレジット契約しか存在しない場合
3.登録情報(電話番号など)が不正確または古い場合
その場合、開示報告書には「指数が算出できませんでした」と明記されます。
自分の信用が数値としてスコア化されることには、少なからず不安や確認しておきたい点が思い浮かぶ方もいらっしゃるでしょう。
「個人・企業はどのように利用すればいい?」「悪用されることはない?」など、よくある5つの疑問に中立的な視点で答えます。
個人の場合は、CICの情報開示制度を通じて、インターネットまたは郵送でスコアとその算出理由を確認できます。自分の信用状態を知ることで、クレジットカードやローンの申込み時にどのような評価を受ける可能性があるかの参考になります。
企業(クレジット会社等)の場合は、申込者が「クレジット・ガイダンス」の情報提供に同意し、かつその企業が同サービスを導入している場合に限り、与信審査の参考情報としてスコアと算出理由を閲覧できます。なお、スコアの利用目的は「与信審査」に限定されており、その他の用途での使用は認められていません。
CICによると、スコアおよび算出理由の提供先は厳格に制限されており、「本人自身」または「申込み・契約を行ったクレジット会社等」に限られます。また、クレジット会社側もスコアを受け取れるのは本人から申込みや契約があった場合のみで、第三者にスコアが自動的に提供されることはありません。
さらに、利用者には「オプトアウト(提供停止)」の制度が用意されており、企業へのスコア提供を自ら停止することも可能です。このように、一定のプライバシー保護措置は講じられていますが、完全な悪用防止を保証するものではないため、個人の意識も重要となります。
スコアはあくまで、信用情報の内容をもとにした「参考指標」です。スコアが低いからといって、必ずしもローンやクレジットカードの審査に通らないというわけではありません。
審査においては、スコア以外にも年収、勤務先、現在の借入状況、他社での信用情報など、さまざまな要素が加味されます。そのため、スコアの数値だけで可否が決定されることは基本的にありません。ただし、スコアが高いほど信用度が高いと判断される傾向があるため、審査の通過率や金利などに影響する可能性はあります。
CICはスコアの算出に使われる要素として、「支払状況」「残高」「契約数」「契約期間」「申込件数」の5つを明示しています。したがって、以下のような行動が間接的にスコア向上につながる可能性があります:
・クレジットカードやローンの返済を遅れずに行う
・複数のクレジット契約を適切に管理する(過剰な借入は避ける)
・利用履歴を継続的に積み重ねる
・短期間に複数のクレジット申込みをしない
ただし、CICのスコアは「CICに登録された情報」に基づいており、他の信用情報機関に登録されている情報は基本的に反映されません。「〇〇をすればスコアが改善する」という確実な保証はないため、焦らず長期的に信用を積み重ねることが大切です。
はい、可能です。CICでは、本人の希望により「クレジット・ガイダンス」の指数および算出理由の提供を停止(オプトアウト)できる仕組みを設けています。
この手続きを行うことで、たとえCICに加盟しているクレジット会社に申込み・契約を行った場合でも、その企業に対して自分のスコア情報が提供されなくなります。
オプトアウトの申請は、インターネット上から無料で手続きでき、後から提供を再開(解除)することも可能です。これにより、スコア情報が提供されることに不安を感じる場合でも、利用者が自ら選択できる柔軟性が確保されています。
ただし、提供を停止した状態では、スコアを使った審査が受けられないため、一部のクレジット会社での審査に影響が出る可能性があることには注意が必要です。提供停止・再開の判断は、スコアの活用方針や目的をふまえて行うのがよいでしょう。
「信用」が数値化され、可視化される――。
信用スコアが社会に与える影響は、今後の消費行動、雇用形態、都市生活、さらには社会制度全体に波及する可能性を秘めています。
たとえばアメリカでは、FICOスコアが住宅ローン、自動車ローン、クレジットカードの審査だけでなく、一部の雇用や賃貸契約の審査にまで影響を与えています。
「Fair Isaac Corporation(フェア・アイザック社)」が開発した信用スコア。アメリカでは90%以上の大手金融機関で活用されているとされるなど、非常に広く普及。スコアは300〜850点で構成され、支払履歴、借入残高、信用履歴の長さ、種類、最近の新しい借入や申込みの件数などが反映される。
また中国では、芝麻信用(ジーマ・クレジット)が広く普及しており、スコアに応じて公共交通機関での優先登場や保証金免除などのサービスが受けられ、市民のマナー向上や与信の簡便化につながっている一方、私企業にスコアリングがゆだねられることの不安や、結婚や就職にもスコアが影響を与えてしまうことの問題性が指摘されています。
アリババ傘下のAnt Groupが提供する信用スコア。金融取引のほか、購買履歴、交友関係、契約履歴など多様なデータをもとに、350~950点のスコアを算出。中国国内で数億人が利用。
「クレジット・ガイダンス」に現時点では、属性情報や非金融データは使用されておらず、算出理由もあわせて開示されるなど、透明性と限定性が強く意識されています。
ただし、今後はより多様なスコアリング手法が再び登場する可能性もあります。いずれのサービスも長期的な収益化や事業継続性の観点から終了が決定されましたが、かつては、みずほ銀行とソフトバンクが共同出資した「J.Score」や、LINEが展開した「LINE Score」といった民間サービスが、金融履歴だけでなく、スマートフォンの利用傾向や行動履歴といった非金融データを組み合わせたスコアリングに挑戦し、注目されました。
コロナ禍を経てQRコード決済などのキャッシュレス技術が大きく普及を進めるなど、Fintechはこの数年でも大きく進展しています。また、スマホの位置情報・購買履歴・検索行動など個人・企業の行動データの多くが記録・分析可能になりつつあります。
このような環境において、信用スコアは今後、以下の領域に波及していく可能性があります。
初対面同士の取引でも信頼性を可視化し、保証金免除や優先表示などの優遇措置を行うことも可能に
クレジット履歴のないユーザーでも即時与信が可能となり、スムーズな後払い決済の提供を促進
過去の取引実績や支払い状況をもとにしたスコアが、企業の業務委託判断の参考材料となり、信頼性の見える化に寄与
一定以上のスコアを持つ個人には、連帯保証人を不要とする契約形態が適用可能となるなど、保証負担を軽減
一方で、こうして信用スコアの利用範囲が広がり続けると「スコア格差」による機会の不均等や、属性による不利が生まれる懸念もあります。
信用情報の活用による金融アクセスの改善や多重債務の予防といった社会的効果と、個人情報保護やプライバシー保護の観点。その両方を鑑みて信用スコアを「使うか、使わないか」ではなく、「どのように使うか」について議論する機会は今後どんどん増加していくでしょう。
「クレジット・ガイダンス」始動のニュースを発端として、信用スコアとは何か、これからどのように普及していくのかの未来予測などについても論じてまいりました。個人の信用度がスコア化されるということに、不安を覚える方も少なくないでしょう。しかし、従来より個人や企業の信用情報は社会で活用されており、それが技術の進歩により、さらにアクセスしやすくなっただけとも考えられるのではないでしょうか。
不安を覚える方も、むしろ不安があるからこそ、信用スコアの動向について注視していきましょう!
(宮田文机)
・CIC公式
・小原 一隆『信用スコアを磨く:人的資本とファイナンシャル・ウェルビーイングの新たな視点』┃ニッセイ基礎研究所
・髙岡 健太『ついに開始、日本版「信用スコア」の衝撃と不安』┃東洋経済ONLINE
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