アメリカの統計学の権威だったウィリアム・エドワーズ・デミング(William Edwards Deming)氏はある時言いました。
「Without data you’re just a person with an opinion.」
つまり、
「データの裏付けがなければ、あなたはただの意見がある人にすぎない」と。
昔は良かったんです。データの裏付けなんかなくても。世間が年の功や経験則を重んじていた時代は。勘と経験と度胸、いわゆるKKDでなんとかなったんです。しかし不確実性が高い現代ビジネスで成功するには、データドリブン(データが原動力)な組織である必要があります。
しかし「データドリブンな組織」というのは、具体的にどのような組織を指すのでしょうか? データの扱い方やポリシーを中心にまとめてみました。
データドリブンな組織にとって日常的なデータの収集は不可欠ですが、現時点の課題にとって有用なデータでないと意味がありません。さらに、タイムリーかつ正確、中立的で、信頼のおけるデータである必要があります。こうしたデータはクリーンなデータと呼ばれます。
データサイエンティストの仕事の80%はデータのクリーニングに費やされると言われます。分析、可視化、仮説の組み立てといったいわゆる「データサイエンティストらしい」仕事は残りのたった20%の作業に過ぎないのです。
膨大なデータはそれだけでは無用の長物です。どころか、巨額の管理費がかかってしまって害悪になる場合も。データを効率的にクリーニングできるシステムを備えているかどうかが、データドリブンな組織の第一の指標です。
せっかくクリーンなデータをストックしていても、データベースへのアクセスしやすさや、必要なデータを抽出しやすい環境が整っていなければ、宝の持ち腐れ。
例えば、アメリカの眼鏡メーカーWarby Parkerの経理担当は、データ抽出にExcelの付属機能であるVLOOKUPSを使用していました。当初はうまく機能していたのですが、会社が成長するにつれデータ量が膨れ上がり、抽出終了に10時間以上かかったり、ランタイム中に頻繁にクラッシュするように。
これではいけないとより大ボリュームのデータを扱えるソフトウェアに乗り換え、結果アナリストが分析、可視化、仮説の組み立てといったより重要な仕事に取り組む時間が増えたそうです。
データのクリーニングが効率よくできるだけではまだまだ真のデータドリブン組織とは言えません。最先端のソフトウェアを用いた万全のデータ管理体制の他にも、データを正しく報告し分析できるアナリストが必須です。
AIの発達が目覚ましい昨今、ある程度のインプットを与えておけばマシンが分析できるデータもあるでしょう。しかし外的要因が複雑に絡み合っている場合、マシンではデータを読み切れません。以下のECサイトのデータを見てください。
5月は4月よりも5.2%注文数が増えている、というデータを可視化した図です。しかしこれだけでは、それが何を意味するかまでは分かりません。ここで必要になるのが、鋭い連想能力を備えたアナリストです。
注文数が5.2%増なのは…
・季節商品(水着など)の販売が本格化したため。
・実は例年に比べ注文数の伸びは鈍い。
・大規模なマーケティングの結果が反映されている。しかし、コストパフォーマンスをトータルに見てプラスになっているか?
・メディアへの特別な露出などがあり一時的に数字が伸びている。
などなど、様々な分析ができます。すべての情報をインプットされていないマシンにはこの分析は不可能でしょう。データのクリーニングと抽出にはマシンを有効活用しつつ、不確実性が絡む分析にはマンパワーを使うシステムが完備されていることが、データドリブンの条件のひとつです。
いや、まだです。
いくら最新システムと最高のアナリストを備えていても、管理職や経営陣に勘や経験則に頼る人たちがいると、データに基づいた冷静な決断に至りません。これではデータドリブンとは言えないのです。
決定権のある層がデータとアナリストの分析を重要な判断材料として認め、企業戦略に影響を与えて初めて、その組織はデータドリブンだと言えます。
上層部がまだ勘と経験に基づいた決断をしている場合、その体質を変えるのは簡単ではありませんが、組織の全員が変化のための役割を担っています。アナリストなら、同様の問題を抱える他企業のケースをより掘り下げることで説得力を高めること。データエンジニアマネジャーなら、データ統合と質の向上にリソースを割き、信頼性をアピールすること。こうして決定権のある層に影響を及ぼしていくのです。
さて、あなたとあなたの組織はデータドリブンですか?
そして、いくらデータがあったところで、
「Without an opinion, you’re just another person with data.」
つまり、
未来を見据えた経営視点がなければ、あなたはデータを持った人以上ではあり得ない、
というのも真実です。意見だけではだめ、データだけでもだめ、その合わせ技によって初めて価値がでる、というわけです。
データ・ドリブンとは何か?理解していただけましたでしょうか?
参考リンク: Creating a Data-Driven Organization - Chapter 1. What Do We Mean by Data-Driven?
(佐藤ちひろ)
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