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最近耳にすることが多くなった「DX銘柄」という言葉。
銘柄というだけあって、投資関係の言葉だということはなんとなくわかりますが、その内容を理解していないという人も多いのではないでしょうか。というわけで今回は、具体的銘柄に触れながらDX銘柄に迫ってみようと思います。
DX銘柄とは、経済産業省が東京証券取引所や情報処理推進機構と共同で発表したものです。これは元々、「中長期的な企業価値の向上や競争力の強化のため、経営革新、収益水準・生産性の向上をもたらす積極的なIT利活用に取り組んでいる企業」を、”攻めのIT経営銘柄”として2015年から選定していたものでした。2020年からは、DXに積極的に取り組む企業を「DX銘柄」として選定するようになっています。
評価項目としては、「1.経営ビジョン・ビジネスモデル」「2.戦略」「2-1.戦略実現のための組織・制度等」「2-2.戦略実現のためのデジタル技術の活用・情報システム」「3.成果と重要な成果指標の共有」「4.ガバナンス」の6つ。
このDX銘柄の目的は、経産省によれば「経営者によるDXへの積極的な関わりや経営戦略に位置付けた取り組みを重視し、目標となる企業モデルを広く波及させることで経営者の意識改革促進を目指す」こととしています。経産省が、日本の経営者に向けてまさにトランスフォーメーションを促すことを狙いとしているようです。
2022年は同年6月7日に33社の「DX銘柄2022」と、15社の「DX注目銘柄2022」が発表されました。そのうち、DX銘柄2022の中から「デジタル時代を先導する企業」として中外製薬、日本瓦斯が「DXグランプリ2022」に選ばれています。
この記事では、3年連続でDX銘柄に選ばれ、2022年にはグランプリに輝いている中外製薬にスポットを当ててみようと思います。同社が2年連続でDX銘柄に選ばれた時のnoteがありましたので、これを元にその秘訣を紐解いていきます。
中外製薬が意識していること、それはDXの”全社ごと“化だそう。同社は2030年までに「ヘルスケア産業のトップイノベーター」になることを目指し、2021年2月に「TOP I 2030」を発表しています。これを読むと、キードライバーの中にDXが真っ先に出てきます。また、TOP I 2030の2つの柱(「世界最高水準の創薬実現」「先進的事業モデルの構築」)の両方にデジタル活用の文字があり、全社的にデジタル導入を図ろうとしている姿勢が窺えます。さらに、成長戦略を進めるにあたり実施される5つの改革「創薬」「開発」「製薬」「Value Delivery(患者さん中心の医療に向けた高度な価値提供の実現)」「成長基盤」のすべてにデジタル戦略を落とし込んでいます。徹底してデジタル活用を進めようとしている決意が読み取れますね。
同社はDXの推進にあたり、「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」というものを掲げています。これは2030年に向けたロードマップで、「デジタル技術によって中外製薬のビジネスを革新し、社会を変えるヘルスケアソリューションを提供するトップイノベーターになる」という目標のために3つの基本戦略を掲げています。2020年~2021年はデジタル基盤を強化するフェーズとし、グローバルレベルのIT基盤の構築(ハード面)と、デジタル人財強化や組織風土改革(ソフト面)の両軸を強化することに重きを置いたようです。2022年のグランプリ選定に際し、同社上席執行役員デジタルトランスフォーメーションユニット長の志済聡子氏は、2021年にはこの基礎基盤において多くの成果を上げることができたとし、2022年よりフェーズ2へ移行すると発表しました。フェーズ2では、「ビジネスを変える」をテーマとし、デジタルを活用した革新的な新薬創出(DxD3:DX for Drug Discovery and Development)に向け、データ利活用の加速、デジタル人財育成基盤の更なる進化、デジタル技術におけるオープンイノベーションの推進などに取り組むとしています。2030年への目標に向け、着実に課題をクリアしているところからも、同社がグランプリを獲得したのは納得できると言えますね。
中外製薬では、求めるデジタル人財のカテゴリとスキルレベルの定義づけを行い、そこに合致する社員数とスキルレベルを可視化しています。その上で、ありたい姿とのギャップを分析し、適切な人財の育成・獲得施策に繋げているそうです。
例えば、データサイエンティストであれば、データサイエンス力が強いデータサイエンティストだけを集めてもうまくいきません。解析を行うためにデータを使えるかたちに加工するスキルも必要であれば、ビジネス上の課題やニーズを正しく把握して解決へ導く推進力も重要です。これらの能力をひとりのデータサイエンティストが高いレベルで満たすことは難しいため、タイプの異なるデータサイエンティストがチームを組んで「協働」することが理想形と考えられます。中外製薬のデータサイエンスグループは、この理想形を想定して採用・配置を進めているようです。
デジタル人財の強化に加え、組織風土の改革にも取り組んでいます。目指すのは「トライ・アンド・エラーの推奨と失敗の許容」「アジャイル志向」などの浸透。そのために「Digital Innovation Lab(DIL)」を設立・運営しています。これは「社員の自由な発想やチャレンジを形にする仕組み」を定常的に設けているもので、目先のROI(投資利益率)ではなく、先進性や将来性などの観点を重視した様々な取り組みを生み出すことが狙いです。
具体的には、社員からアイデアを募り、良いアイデアには予算を与え、起案者は主体的にプロジェクトを推進していきます。社員であればだれでも応募ができ、これまで400件近い応募があり(2021年11月15日現在)、そのうち数十件がPoC(Proof of Concept:概念実証)に進み、数件が本番展開フェーズに進んだそうです。
以上、中外製薬を例に、DX銘柄について見てきました。今回わかったことは、グランプリを受賞する企業は”本気で”DXに取り組んでいるということ。単なるツールやアプリの導入ではない、内容の伴う人材と組織風土の改革を行っているようです。このような銘柄がグランプリを受賞することは納得がいきますし、投資家としても魅力的に映りますね。2023年は果たしてどの銘柄がグランプリを受賞するのか、今から注目です。
【参考資料】 ・デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄) | 経済産業省 ・「DX銘柄2022」、グランプリは中外製薬と日本瓦斯に | 日経クロステック(xTECH) ・「DX銘柄」に2年連続で選定されました。DXの"全社ごと"化を進める中外製薬の取組みについて | CHUGAI DIGITAL|中外製薬 ・キャリア入社1年目のデータサイエンティストから見た中外製薬|CHUGAI DIGITAL|中外製薬 ・2020年03月31日|中外製薬、デジタルトランスフォーメーション推進に向け「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を発表|ニュースリリース|中外製薬 ・中外製薬DXの2年を一気に振りかえる!|ビジョン実現に向けて取り組んできた道のり、そしてチャレンジ(前編)|CHUGAI DIGITAL|中外製薬
(安齋慎平)
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