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アイデアを最短距離で実現する「プロトタイプの学校」が開校。 –IDEO流「プロトタイプ」のススメ(後編)

デザイン・コンサルティング会社IDEO(アイディオ)が2023年春「プロトタイプの学校」を開校させる。大学生と社会人を対象に、IDEOデザイナーなどが講師になり、実践的にプロトタイピングを教えるという。前編に続き、後編では、今なぜ、「プロトタイプの学校」を開くのか、また、どのようなカリキュラムが用意されているのか。開校準備に携わるIDEO Tokyoの油木田大祐氏が語った。

         

「プロトタイプの学校」の体験授業を開催

2022年11月。東京都港区にあるIDEO Tokyoスタジオで3回にわたりワークショップが開催された。同ワークショップは「プロトタイプの学校」の体験授業だ。プログラムは回ごとに独立しており、「実動アプリのプロトタイピング」「IoTデバイスのプロトタイピング」「AIを使った動画のプロトタイピング」がそれぞれ半日ずつ行われた。IDEO Tokyo インタラクション・デザイン・リードの油木田大祐氏は次のように紹介する。

「当社のニュースレターに登録している読者を中心に、限定的に参加者を募集しましたが、3回の合計で69人の方に参加いただけました。業種も年齢も異なるさまざまな参加者がチームになって試作品の製作や実装を行いました」

「プロトタイプの学校」の体験授業の様子 写真:IDEO社提供

ワークショップではいずれもIDEOのプロジェクトで実際に使用されている手法やツールを使って、各グループのアイデアを4時間以内に発表するという形で行われた。注目すべきは、参加者の多くがデザイナーやエンジニアなどの専門職ではないことだ。企画職のほか営業職の人もいる。

「『初心者でも半日でここまで作れるなら、1週間あれば一体何が作れるだろう!?』がワークショップのコンセプトです。実際に、モックアップ(模型)だけでなくつくって試せる実物をつくれたことは、参加者に大きな自信になったのではないでしょうか」と油木田氏は話す。一方で、「プロトタイプの学校」のあるべき姿に向けて新たな学びもあったという。

「『プロトタイプの学校』は『絵に書いた餅』を『食べられる餅』に1秒でも早く変換することを目的にしています。そのために、それを可能にしてくれるAI(人工知能)ツールなど、さまざまなツールの力を借ります。実際にツールを使えるようになるには、“初歩的な使い方を習得する”という『我慢』の時間が必ず生じます。特にプロトタイピングの経験が少ない人にとっては、この時間が苦痛なようです」 しかし、この苦痛の時間なくして何かを自らつくれるようになることはない、というのも避けようのない事実。この我慢の時間のストレスをいかに少なくするかも考慮して、カリキュラムの設計に取り組んでいくという。

「プロトタイピング」は誰でもできる時代に

プロトタイプという概念が誕生してから久しい。なぜ今、グローバルなデザイン・コンサルティング会社IDEOが「プロトタイプの学校」を開校するのか。

「『なぜ今なのか』という問いに対する答えは明確です。それは昨今のツールの目覚ましい発展により、自らの手で何かつくり出すためのハードルが低くなったからです。ノーコードツール(プログラミング技術が不要な開発ツール)やAIツールの登場で、プロトタイピングは誰もが“できる”ことになりました。文字を打ち込むだけでプロ並みの絵を描いてくれるツールもあります。大げさでなく、この変化はプロトタイピングの『民主化』をこえて、『大衆化』と表現してもいいのかもしれません。これからは、営業部門など事業部で『こんな事業をやってみたい』と考える人が自らプロトタイプをつくり、上司や経営層に提案するといった時代になってくるでしょう」

さまざまな部門で意欲ある人が手を挙げる企業は強いだろう。実際に、ワークショップでも企業向けのプログラムの有無について尋ねる参加者も多かったようだ。

「『プロトタイプの学校 for Biz』の実施について、現在、複数の企業とディスカッションをしながらプログラム編成や期間を精査しているところです。また、研修型のプログラムのほかに、個人の社会人向けプログラムの提供についてもニーズが高いことが分かりました。個人ごとに必要としている知識の種類や深さが異なるため、どのような形で提供できるか検討を始めています」と油木田氏。参加者の関心の高さ、そして「プロトタイプの学校」に対する期待の大きさもうかがえる。

「プロトタイプの学校」からの人材の輩出に期待

取材時(2023年1月)には詳細をまだ詰めている段階とのことだったが、「プロトタイプの学校」は大きく学生向けとビジネスパーソン向けの2軸で運営されそうだ。

「プロトタイプの学校 for Biz」のプログラムについて事前情報を得た。それによると、ワークショップでも展開された「実動アプリのプロトタイピング」「IoTデバイスのプロトタイピング」「AIを使った動画のプロトタイピング」のほか、「公開ウェブサイトのプロトタイピング」「フィジカルモックのプロトタイピング」「ブランディングのプロトタイピング」「空間のプロトタイピング」「複合現実のプロトタイピング」などのメニューが予定されている。さまざまな業種業態のほか、多様な職種のビジネスパーソンにとって有益な講座になりそうだ。

「プロトタイプの学校 for Biz」のプログラム(2023年1月時点)

大学・大学院・短大・高専・専門学校に所属の学生向けのプログラム新規事業に従事するビジネスパーソン向けのプログラムについて募集を開始している。

「プロトタイプの学校」に関して特筆すべきは、ここで学ぶことにより、先進的なツールの利用法だけでなく、IDEOのデザイナーをはじめとする優れた講師陣による「思考」を身につけられることだろう。

油木田氏は特に、プロトタイピングの潮流の変化も指摘する。「教科書的にいえば、従来のプロトタイピングはまず『価値のプロトタイピング』、次に『見た目のプロトタイピング』、そして『機能のプロトタイピング』をやっていきましょうという順番でした」。見た目も機能もほど遠いが、イメージとしてつかめるようなプロトタイプがもっとも早くできるわけだ。その後に見た目のプロトタイプで、時間のかかる機能のプロトタイプは最後になりがちだった。

「そこが大きく変化して、リープフロッグ(カエル跳び:一足飛びに先進技術を取り入れる現象)が起きています。ウェブサイトの構築でもワイヤーフレーム(設計図)から入るのではなく、(機能を持った)使えるツールをさくっとつくり、まずは使ってもらいフィードバックを得ることも増えています」

IoTデバイスにしても、まずセンサーや配線コードを買ってくるのではなく、iPhoneなどのスマートフォンをIoTデバイスと見立てることで、できることも増えるという。「『プロトタイプの学校』では、最初からファンクショナル(機能的な)プロトタイピングをやってしまって細かいことは後から考えようというような、新しいプロトタイピングの在り方を提唱したいと考えています」と油木田氏は語る。

まさに、使ってほしいと思うユーザーにいち早く届けるのが狙いだ。プロトタイプが動くことが目的ではない。IDEOの「プロトタイプの学校」の真の意義は、学んだ人が企業で活躍し、社会を活性化することにある。

「『プロトタイプの学校』は特に、エンジニアやデザイナーではないけれど、何かやりたいこと、実現したいことのアイデアがある人に参加してほしいと思っています。『プロトタイプの学校』は、ある意味ずるいというか、正しいルートを通らずにプロトタイピングを実践する場所です。世の中にインパクトを与えるためだったら最短ルートを走ったほうがいいということに気づいてもらい、自分がやろうとしていることがマウスのクリックだけでできるということを伝えたいです。受講後は、『それぐらいだったら自分でつくれます』と言えるようになるはずです」と油木田氏は力を込める。

その言葉どおり、「プロトタイプの学校」の卒業生が、多くの企業で活躍するようになれば、日本企業の競争力も向上するだろう。今から開校が楽しみだ。

「プロトタイプの学校」の体験授業では、DALLEやOpenAIのPlaygroundを使ってコンセプト動画の制作プロセスを刷新した。写真:IDEO社提供


油木田 大祐 氏
IDEO Tokyo インタラクション・デザイン・リード
IDEO Tokyoのインタラクション・デザイン・リード。ヒトに優しいインタフェースや体験のデザイン、そして「つくる」行為を通じて全ての人のクリエイティビティを解き放つことに情熱を注ぐ。IDEO入社前は、クリエイティブスタジオdot by dotに勤務。日本の様々な学校でモノづくりやプロトタイピングを教えている。
慶應義塾大学でコンピューターサイエンスにて学士号、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科にて修士号を取得。また、プラット・インスティテュート及びロイヤル・カレッジ・オブ・アートにて、グローバル・イノベーション・デザイン(GID)プログラムを修了。
プライベートではサーフィンしたり家でヘンなものを作ったりしている。子供が生まれたことを機に保育士資格取得。

「プロトタイプの学校」体験授業 第2弾 開催決定

春の本格始動に向け、体験授業の第2弾を開催決定。現在参加者を募集中。今回のテーマは、フィジカルモックアップ/3Dプリンター/ビジュアルアイデンティティ。企画開発関連の方々に限らず、全くの別分野の方々も大歓迎で、初学者も参加できるとのこと。詳細、お申し込みは以下イベントページをご確認ください。
「プロトタイプの学校」体験授業

 

(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣 PHOTO:Inoue Syuhei 企画・編集:野島光太郎)

 

参加無料|「updataNOW23」10月31~11月1・2開催

10/31(火)~11/2(木)開催のデータでビジネスをアップデートする3日間のビジネスカンファレンス「updataNOW23」に油木田氏も登壇。「updataNOW23」はウイングアーク1st社主催の国内最大級のカンファレンスイベントで、DX・データ活用を軸にした約70セッションと30社以上が出展する展示など、会場とオンラインのハイブリッド形式で開催されます。


自分で作る力をぶち上げろ!
~IDEO流プロトタイピングを通じて高めるクリエイティブコンフィデンス

不安定な世界を悲観せず、新たなチャンスととらえるためには、他人任せにならずに自分で変化を生み、自分で事業をドライブさせる力が必要となります。本セッションでは、IDEOの油木田大祐氏が、AIやノーコードツールを駆使した最新のプロトタイピング手法を活用し、専門性や職種に関わらずアイデアを最短距離で実現し検証することで、クリエイティブコンフィデンスを向上させる方法について話します。油木田氏が手がける「プロトタイプの学校」の取り組みから見えた、具体的なプロトタイピング手法や事例を元に、あなた自身が自分で変化を作り出す力をぶち上げ、新たなチャンスを掴み取る方法を探求しましょう。

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