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DXは自分のマインドから始めろ!3時間の身の丈DXワークショップで学び、醸成し、気づく「現場主導のデジタル化」の芽

2024年3月19日、北九州市主催の勉強会「北九州DX大賞受賞企業勉強会」が、同市小倉駅近くのイベントスペース「COMPASS小倉」で行われました。

同勉強会では、まずDXで事業変革する市内中小企業を表彰する「北九州DX大賞」の受賞企業各社による北九州DX大賞での応募内容発表が実施。そして北九州DX大賞を受賞した企業が次の一歩を踏み出し、また企業間のコミュニティを創出することを目的とし、同企業を対象とした各社が北九州DX大賞に応募を行った内容を題材にワークショップを開催しました。

今回のワークショップで伝わった重要なポイントは「分からないならじっと座って考えるよりも手を動かすのが一番」ということ。本ワークショップは身体を動かしながら頭も動かしますし、交流を通じて1人では気づかなかった学びを与えてくれました。

北九州DX大賞の受賞企業でもある中小企業の取り組みは、全国的には厳しい状況が続いています。例えば、独立行政法人中小企業基盤整備機構が2023年10月に行った「中小企業のDX推進に関する調査」によると、対象となった1,000社のうちDXに取り組んでいるのは全体のわずか31.2%でした。

それでも「中小企業だからこそできるDXがある」と豪語するのは、多くの中小企業や町工場のDXを支援してきた経歴をもつ「データのじかん」の大川真史さん。本ワークショップは大川さんの主導のもと、笑いあり、白熱した議論ありの充実したワークショップについてレポートします。

         

パート1:事例から知る「身の丈DX」とは?

13時からスタートしたワークショップの最初のパートはインプットの時間です。「中小企業だからこそできるDXとは何か」をいくつかの事例を通じてイメージしていきます。

印象的だったのは、ワークショップ会場からもそれほど遠くない福岡県田川市でクリーニング店を8店舗経営している「株式会社エルアンドエー」の事例。株式会社エルアンドエーがある田川市はかつては炭鉱で栄えていましたが、エネルギー転換によって炭鉱が閉山し、人口が減少し、過疎化と高齢化が著しく進んでいるエリアです。

実際、エルアンドエーの従業員の平均年齢も60代、中には70歳を超える方もいるとのこと。それに加えて、クリーニング店の市場規模はここ20年ほどで半分以下にまで落ち込み、従業員の確保もままならない状況です。

そこでエルアンドエーの副社長である田原さんは、プログラミング未経験だったものの、外注する費用もないため、2013年ごろからYouTubeや本を読みながら独学で業務アプリを開発し始めました。毎日の仕事の合間に丁寧な試行錯誤を重ね、業務システムの内製化、チャットボットを使用したバックオフィス業務自動化を実現したといいます。

関連記事:https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1804/12/news021_3.html

秀逸なのは、2017年に完成した独自の画像認識システムです。天井から吊るされたカメラがAIによってお客さんが持ち込んだ衣服がスーツなのか、ワイシャツなのか、ズボンなのかを認識してくれるため、無人受付が可能になりました。

ここで大川さんが強調したポイントは「受付がITによって無人化」したことではありません。それだけなら、単なる「IT化」です。

注目すべきなのは、IT化によって、DXとは無縁だと思われていた年齢層高めの従業員たちの働き方が激変したということ。システム思考を身に着けた従業員たちが「仕事の見方」を変え、雑然としていた現場が整理整頓するようになり、自律的な働き方が促進されたということです。ITが人の思考に影響を与え、価値観を変化させ、ついにアクションにまでにじみ出た、見事なまでの「身の丈DX」と言えるでしょう。

パート2:ワークショップ「現場の判断やアクションに少しでも役立つデジタルツール・データの活用」

「身の丈DX」をイメージしたところで、いよいよ手を動かす時間です。4人ずつ3チームに分かれ、13:35から本日1つ目のワークショップがスタートします。

テーマは至ってシンプルで「現場の判断やアクションに少しでも役立つデジタルツール・データ活用」のアイデアをできるだけたくさん出すことです。それぞれがポストイット1枚に1つのアイデアをマジックで書き込んでいきます。大川さんが強調したのは、「できるだけ個人的な思いが強いこと」と、日常業務のルーティーンや出退勤の場面などを「具体的にイメージすること」。

「身の丈DX」は見えない誰かのためではなく、何よりも自分や隣の同僚の困りごとを解決するためのものなのです。

6分間の個人ワークのあと、それぞれのアイデアが書き込まれたポストイットを以下のような大きな表に貼り付けていきます。

テーブル内でアイデアを共有し、次にグループ毎に自分がまさに欲しいと思っていたアイデアを別のメンバーが挙げてくれたときの「共感」の気持ち良さあり、思いもしなかったアイデアによって驚かされることあり、各テーブルとも大いに盛り上がります。

DXという用語から比較的想像しやすい「生産性向上」「在庫管理」「安全教育」から、「注文弁当の評価」という、ユニークかつ切迫したアイデアもボードに貼り付けられています。

興味深かったのが、どのグループにもコミュニケーションにまつわる課題解決が共通していたことです。例えば、誰しも自分が仕事を抱えて余裕がない状態であるにもかかわらず、電話をかけてこられたり、呼び出されたりしたら困るもの。そこで、ITを使って自分の「余裕度」「忙しさ」「抱えている相談事項」を他の人に知ってもらうというアイデアです。

ほかにも、上司や社長の機嫌や行動をタイムリーに把握するシステムや、営業で名刺を交換して顔を覚えていない場合があるため、これまで会ったことがある人がどうかを判別できるシステムなども、コミュニケーションの課題に対するIT活用といえるでしょう。発表に参加したメンバーたちの困りごとを解決したいという思い入れが感じられる「身の丈DX」のアイデアばかりです。

パート3:デジタル化を進める!

10分間の休憩をはさみ、14:45からは生まれてきたアイデアをどのように形にするのかに関する大川さんによるインプットパートです。

大川さんによると、「筋の良いデジタル化に挑む企業」には以下のような共通事項があるとのこと。

たくさん挙げられているように見えますが、一番大事なのは、「始め方・進め方」の一番上「当事者主導・現場起点」でしょう。「筋が良い」とは、1つのアクションが同時にいくつもの課題を解決していくことであり、DXが当事者主導、現場起点で始まれば、単なるITツールの導入に終わらず、1人ひとりの働き方が自律的になり、部署全体の雰囲気を変え、最終的には企業の業績を劇的に向上させる力をもっています。

大川さんは言います。

「DXは『当事者意識』ではないんです。『当事者』がやるんです。最初からデジタル人材なんかいません。とりあえず誰かが真似てみることから始めて、みんなが見よう見まねでやっているうちにいつの間にか遠くまで行けるのです。
多くの会社では『試行錯誤』を口では推奨しますが、実際は許しません。経営者がピリピリせずに自分でも旗を振って自分でもやること、DXは皆で明るく楽しくやりましょう」

総務省「情報通信白書(令和3年)」からも、日本の中小企業でDXが進まない背景が見えてきます。

「そもそも実施していない」が突出しているのはさておき、注目したいのは「UI・UXの改善・改良」が日本は米独に比べ格段に低いということ。つまり、システムを導入したり、マニュアルを作ったりして満足し、現場での使いやすさの検証、「成果の認識し直し」を怠っているのです。

大川さん曰く、最適な手段を探索するためには、単に「初めにやりたかった事が出来たのか」の検証に加え、「思ってもいなかった想定外の効果」として何があったか成果の認識し直しが重要になるとのこと。それは以下のようなプロセスを辿ります。

ここまで来ると日本企業のDXの構造的課題がおぼろげながら見えてきます。それは「自律したデジタル人材の不足」です。

いままで日本のIT人材の7割はSIer、約3割は事業会社の情報システム部門に所属しており、彼らに求められるのはいかに「要求されたことを実現する」ことでした。しかし、中小企業のDX成功事例から分かるのは、DXは「誰かにお願いしてやってもらう」ものではなく、「現場を熟知した自分たちが主体的にできる範囲で、デジタル化によって現場を良くしたい」というマインドセットなのです。

そもそもDXを情報システム担当者部門だけにまかせっきりにすれば、会社の中で孤立してしまうのは火を見るよりも明らか。中小企業でやるべきなのは、全社での理解・応援であり、そのためには、まずみんなで興味を持つことが大事です。

パート4:ワークショップ「デジタル化を進めるには?」

「筋の良いデジタル化」について学んだところで、本日2つ目のワークショップに取り組みます。2つのグループに分かれ、ホワイトボードの前に移動し、課題は以下のようなマインドマップを描いていくことです。

このワークショップで大事なことは「喋るときは書きながら!書く時は喋りながら!」、頭と手をフル回転させつづけます。

各グループの発表で見えてきたのは、DXの出発点ともいえるマインド部分をどうするか、という課題です。視座を与えてくれたのは、1人のメンバーが取り上げた「目的志向VS原因志向」の対比。原因志向のアプローチは過去や現状に目を向けてしまう傾向にありますが、目的志向は将来やビジョンに目が向いているため主体的に行動しやすくなります。

DXを進める上では、現場の課題を認識しつつも、良くしていきたいというマインドが鍵になるため、目的志向、原因志向のどちらも必要なのかもしれません。

パート5:クロージング

濃密な時間を過ごしてきたワークショップもあと残すところ10分です。大川さんによるクロージングパートに入ります。

「中小企業白書(2022年)」によると、デジタル化の取り組みには以下の4段階があります。

この記事の冒頭で紹介したデータによると、日本の中小企業のほとんどは「段階2」にとどまっています。驚くべきなのは次の表です。

段階2では労働生産性、売上ともに減少しています。つまり、当事者としては一生懸命ITツールを導入しているにも関わらず、まったく効果が見えないどころか、状況が悪化しているため、「DXなんて意味ない、もうやーめた」という悲しき結末に至ってしまうのです。

それとは対照的に段階4まで進んだ企業は売上も労働生産性も増加しています。一体、この二極化はどこから生まれるのか?それを紐解く鍵が最後に明らかにされます。

「生産性」とはそもそも何なのか、という定義です。

大川さんも大好きな言葉というこの定義によると、「生産性とは精神態度」であり、「明日は今日に勝るという確信」というのです。システムでもツールでもオペレーションでもなく、この生産性に対する正しい理解こそがDXの根本にあることに最後の最後で気づかされた瞬間でした。

まとめ:DXとはマインドであり、姿勢

奇しくも今回のワークショップが開催されたのは、かつて製鉄業によって日本の近代化を牽引してきた北九州市。現在、北九州市は高齢化率が政令指定都市の中でも最も高い水準である30.6%に達し(2020年)、深刻な労働力不足が課題といわれています。

しかし、そんな深刻な現状を打破するだけのエネルギーとアイデアがワークショップには溢れていました。「自分の現状をもっと良くしていこう」「明日が今日よりも明るくなるように努力していこう」、一人ひとりがポジティブなマインドを持ち続けるなら、企業の、そして社会のDXはこれからも進んでいくはず、という希望を持ちながら会場を後にしました。

編集後記:今回セミナーではデータのじかん編集部にとって、とても嬉しい出会いがありました。独自のデジタル技術活用の取組みにより北九州DX大賞 優秀賞を受賞し、経済産業省の「DX認定」制度を取得している株式会社ケントクの藤原さんは『今さら聞けないDX用語まるわかり辞典デラックス』に付箋をびっしり付けて愛読されているだけではなく、ご家族とも一緒に楽んでいらっしゃるとのことでした。

後日、藤原さんより送って頂いた書籍の写真。多くの付箋やマーキングを拝見し、編集部一同、嬉し涙を流しました。

取材:河合良成(かわいよしなり)
2008年より中国に渡航、10年にわたり大学などで教鞭を取り、中国文化や市況への造詣が深い。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。現在は福岡在住、主に翻訳者、ライターとして活動中。
 

(取材・TEXT:河合良成 PHOTO:Inoue Syuhei 編集:野島光太郎)

 

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