福岡に住む私は、今回の万博をどこか自分には関係のない話だと思っていた。
しかし、親しくしている70代のご夫婦がやはり福岡から万博に行ってきた話を熱く語るのを聴き、それがきっかけとなり時間を捻出して行かねばと妻と相談。7月28日の夜、博多駅近くの「HEARTSバスステーション博多」から20時25分発の「大阪駅 駅マルシェ大阪高架下」行きのバスに飛び乗り、翌朝7時前に無事到着した。
トイレで身支度を整え、近くのスタバに入って軽く朝食を済ませ、大阪環状線で弁天町駅へ。次に中央線に乗り換え、万博会場のある夢洲駅まで向かう。途中、駅構内や車内にも万博関連のポスターやポップなどが溢れており、高速バスで十分な睡眠がとれなかった頭も少しずつ万博モードに同期し始めていく。
万博会場には9時前に到着した。
万博会場は東ゲート、西ゲートに分かれているが、電車でアクセスする場合は東ゲートからの入場になる。事前情報では、厳格な荷物チェックがあるため、入場には相当時間がかかるとのことだった。そのため、チケット予約時に設定されていた入場時間は10時だったものの、実際に会場に入れるのは11時くらいになるのでは、と予想していた。
その日も猛暑日で、朝から気温はすでに軽く30℃を超え、強い日差しにさらされており、そんな中、あと2時間も待つのかといささか初っ端からうんざりしていた。もっとも万博運営側も熱中症対策には相当の配慮を示してくれており、日傘の貸出や水分補給のアナウンスを実施してくれる。
その一環かどうかは分からないが、9時半過ぎに入場を待つ列が大きく動き始め、私たちもそのままゲートに吸い込まれるように信じられないくらいスムーズに入場でき、何と予定入場時間よりも前の9時40分過ぎには会場に立っていた。
そのとき、ふと不思議な感覚に襲われた。
夏休みに入ったばかりであり、さぞかし会場内は喧噪に包まれていることかと思ったが、それとは逆の「静寂」を味わったのだ。もちろん、会場内には絶対的に人は多いから、味わったのは「音がしない」という意味の静寂ではない。むしろ、何かが静寂を「創り出していること」を感じ取った。
そして、すぐにそれは万博会場内に設置されたスピーカーから流れている”音”であることに気づかされた。
福岡に帰ってからネットで知ったことだが、万博会場では綿密な「サウンドスケープ」がデザインされている。
サウンドスケープについてはこの記事を参照していただきたいが、簡単に言えば、聴く側との関係性に力点を置いた「音の環境」のことだ。
私たちは普段、生活のあらゆる場面でBGMに触れる。買い物に行ったスーパーやコンビニ、病院の待合室、カフェやレストランで食事するときなどである。しかし、必ずしもそこでの音楽は聴き手に配慮してはいない。昭和の香りがするラーメン屋や定食屋に行ったときなどは、店主が聴きたいラジオなどが流されていることさえある。
しかし、サウンドスケープは発信する側が何を流したいかというよりも、その音を受容する側がその音を聴いて何を想起したり、感じたりするかに主にフォーカスしている。
つまり、万博会場のサウンドスケープは、入場者が認識しているかどうかは別にして、私たちの聴覚器官に訴え、あたかも見えていないものを見せてくれていたのだ。
万博のHPによると、万博会場のサウンドスケープデザインは「いのちのアンサンブル」というコンセプトに基づいており、「人間や自然・テクノロジーという異なる存在たちの”音”を響かせ合い、それぞれのエリアの魅力を高めるとともに、会場をひとつの「生態系(地球)に見立てて、音を貴重とした全体の調和を生み出し」ているとのこと。
このサウンドスケープのデザインには第一線で活躍する7名のコンポーザーが参加。会場内の約600台の防災スピーカーから時報型音響作品が展開される。
ちなみに、私が東ゲートから入場した直後に耳にした音は「祭」をテーマにしており、同じ音が西ゲート付近でも流されている。仕事をしながらでも流し続けたい、こんなカッコいい音だ。
万博会場内に造られた、ギネス世界記録認定の世界最大木造建築「大屋根リング」。実際に行ってみて感じたが、大屋根リングは建造物としての凄さもさることながら、入場者に与えるインパクトという点で圧倒的な存在感がある。地図を見ると分かるが、万博会場ではどのパビリオンに行くにも大屋根リングを使わねばならないが、夏の暑さの中で大屋根リングはまるで入場者にとっての「宿り木」「港」のような場所になっているのだ。
そして、大屋根リングでは、建物の下だけでなく、上も歩くことができるが、サウンドスケープの観点からすると、リングの上では「空」をコンセプトにした音が流れる。
大屋根リングの下では「地」をコンセプトにした音、「”いのち”が根づき、積み重ねられてきた時間が宿った音」だ。大屋根リングの下から上にのぼると、「地」から「空」への移ろいも体験できるというわけだ。
今回の万博は弾丸ツアーだったため、同日の16時半頃には会場をあとに関西空港に向かい、そのまま福岡に戻った。人気のパビリオンはどれも抽選が外れてしまったが、サウンドスケープと大屋根リングが織りなす万博会場の一体感を味わえただけでも大きな収穫だった。
これから万博に行く予定の方には是非これらの”音”に注目してほしいと思う。
(TEXT:河合良成 撮影:新田浩之 編集:藤冨啓之)
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