日本の教育現場のDXは急ピッチで進められています。小中学校の96%以上でタブレットなどICT端末の利用が始まっており、遅れが指摘されていた高校での導入率も、2022年2月に発表された旺文社の調査によると8割を突破しました。
これだけでも「自分たちのころとはがらっと変わっていくんだろうな……」と隔世の感がありますが、これは教育データの利活用の第一歩にすぎません。
日本の教育の未来図について、メリットや懸念点も含めて押さえておきましょう。
教育データの利活用の目的は、個々人の属性や学習状況、特性などをデータ化して紐づけることで、教育のデジタル化のミッション「誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会」を実現することにあります。
教育データを初めとするICT改革によって教育を刷新するGIGA(「Global and Innovation Gateway for All:全ての人に世界に開かれた革新の扉を」の意)スクール構想を2019年12月に発表し、現在主導している文部科学省の資料によると、教育データの利活用により、以下の「①子ども」「②教師」「③保護者」「④学校設置者」の4者に以下のようなメリットが生じるということです。
対象者 | メリット |
子ども | ・自身の学びや成長の記録を簡単に取得できる ・強み・弱みを客観的に知られる ・発展的な学習や事情により学べなかった分野の復習など、個々人の都合に合わせた学びが実現できる ・転校・進学時に学びの記録をシームレスに引き継げる |
教師 | ・得意分野、特性などを把握した上できめ細やかに指導できる ・生徒の抱える問題や不安を早期に発見しやすくなる ・指導内容を記録・共有し、指導改善に活用できる |
保護者 | ・子どもの学びや学校での状況を家庭でも詳細に把握できる ・学校との連絡の利便性が高まる |
学校設置者 | ・学校運営にまつわる知見を共有・活用できる ・学校ごとの調査が容易になる ・リアルタイムで学校ごとの状況を把握できる |
参考:教育データの利活用について令和3年4月┃文部科学省
また、匿名化した個々人のデータが集積した「教育ビッグデータ」を教育政策やAIによるテーラーメイド学習に利用したり、人生100年時代を見据え注目が高まる「生涯学習」にまで学びの記録を生かすなど、教育データはより広く、深く活用されることも想定されています。
2022年1月7日にデジタル庁のサイトで公開された「教育データ利活用ロードマップ」によると、2022年~2025年は短期・中期・長期の3フェーズに大別された計画の「中期」に当たります。
そこで目指す姿として提示されているのは以下。
・学習者が端末を日常的に使うようになり、教育データ利活用のためのログ収集が可能
・内容・活動情報が一定粒度で標準化され、学校・自治体間でのデータ連携が実現
・学校・家庭・民間教育間でのそれぞれの学習状況を踏まえた支援が一部実現
※引用元:教育データ利活用ロードマップ┃デジタル庁、総務省、文部科学省、経済産業省の3枚目のスライド
ここでポイントとなるのは、「データの標準化」です。文部科学省が策定する「教育データ標準」に従い、「主体情報」「内容情報」「活動情報」の3つに区分された教育データを体系的に管理します。
【1】主体情報……生徒の性別や生年月日、教師の免許や勤続年数、学校の生徒数など。
【2】内容情報……学習分野の分類情報や、教科書・教材の詳細、教材にまつわる権利情報など。
【3】活動情報……出欠状況、健康状況、学習や宿題の提出状況、成績評価、指導内容など。
このうち、主体情報のうちの学校情報を管理する学校コード、内容情報を管理する学習指導要領コードはすでに公表されており、活動情報の枠組みについても2022年度には公表される予定となっています。
これだけ大きな可能性を持つ教育データですが、“学びの記録”という誰しもに関わる、センシティブな個人情報を取り扱うことになるため、反発や懸念の声もあります。
2022年1月7日に公開された『教育データ利活用ロードマップ』(デジタル庁)の内容を受けて、政府への不信感や教育情報をデータ化すること自体への疑念を呈する反応がSNS上などで見られました。
それを受けて同月11日、牧島かれんデジタル相は記者会見にて「教育データの一元管理を行う予定はなく、データ連携による分散管理を基本とする」点を強調。デジタル庁のサイトに用意された『「教育データ利活用ロードマップ」にまつわるQ&Aページ』でも一元管理や本人が望んでいない内心の可視化について否定されました。
ここで「一元管理」に焦点が当たったのは、国が家庭環境・学習状況・成績など個人情報の全てを一手に管理した結果、”流出や恣意的な利用”が起こることへの懸念があると考えられたからでしょう。2020年末にマイナンバーカードと教育データを結びつけるとの報道がなされた際も、同様に流出や管理社会化への懸念の声が上がりました。
とはいえ、東洋経済オンラインの記事で米イェール大学助教授・ 半熟仮想代表の成田悠輔氏は同ニュースを受けて、以下のようにも指摘しています。
こう考えてくると「子どもや教育のデータの一元化は是か非か?」というゼロイチの議論には意味がない気がしてくる。「データ」や「一元化」の意味次第でなんとでも言えるからだ。
引用元:「政府の教育データ一元管理」即炎上の残念な実態 成田悠輔氏と考える子どもデータベースの意義┃東洋経済オンライン
困難を抱えた子ども・家庭の保護や教育の個別最適化といったデータ利活用の目的をベースに考えることが大事だというのが成田氏の主張であり、筆者もそれに同意します。
とはいえ、目的通りに使われているか、政府を監視する目は必要であり、懸念の声に対し牧島デジタル相のようにエビデンスを伴って回答する責任が政府には求められ続けるのも確かでしょう。
教育データの利活用はGIGAスクール構想と深く結びついています。
文部科学省のリーフレットを踏まえると、それは”「これまでの教育実践の蓄積」×「ICT」で 子どもの学習環境をインターネット登場以後の双方向・テーラーメイド・データ活用型にアップデートする計画”とまとめられるでしょう。
「平成29・30・31年改訂」の新しい学習指導要領において、「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」と「カリキュラム・マネジメント(子どもや学校、地域の実態を踏まえた教育の改善サイクル)」が2つの柱として挙げられており、GIGAスクール構想はICT利活用によりその実現を加速することが念頭にあると推察されます。
教育データ利活用ロードマップの長期(~2030年ごろ)で示されている「真に『個別最適な学び』と『協働的な学び』が実現」(※)もそのイメージと重なります。
ただし、「学習者がPDSを活用して生涯にわたり自らのデータを蓄積・活用できるように」「支援を必要とするこどもへのプッシュ型の支援」(※)など、教育データ利活用ロードマップにはGIGAスクール構想で主とされている学校内での教育だけでなく、生涯学習や子どもを取り巻く環境の支援も含まれていることも意識しておきましょう。
※…引用元:教育データ利活用ロードマップ┃デジタル庁、総務省、文部科学省、経済産業省の3枚目のスライド
子どもがいる家庭や教育者でなければ学校教育というものは縁遠くなりがちであり、「気が付けば驚くほど変化していた」 という状況が起こる可能性が高いです。実際、筆者も調査する中で予想以上の変化や構想の発展に驚きました。
今回は教育データの取り扱いについて今まさに進んでいることについて主に扱いましたが、また教育ビッグデータやAIの活用などより先進的な事例についても取り上げたいと思います!
(宮田文机)
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