いや~、技術の進化はすさまじいですね。
いや、もちろん、「イラストAI」の話です。
2022月9月ごろから「Midjourney」が話題になり始め、そのクオリティと短時間で簡単に高精度なイラストが生成される驚きからSNSなどで大勢が沸き立ち、「Stable Diffusion」「NovelAI」「お絵描きばりぐっどくん」などその後もそれぞれに特色を持つサービスが注目を集めました。
これに対し、「簡単にイラストが生成できるなんて素晴らしい!」と希望を抱く人もいれば、「人間のイラストレーターの職が奪われるのでは……?」と不安の声も見られます。
そこでイラストAIを取り巻く現在の状況を俯瞰し、私たち人間は“彼ら”とどう付き合っていくべきかについて考えてみましょう。
イラストAIの多くは、テキストで完成イメージを指定すると、それに応じてイメージを返してくれる形で運用されています。
百聞は一見に如かずといいますから、まずはいろいろなお絵描きAIに「データのじかん(The Data Times)」という単語でイラストを生成させてみましょう!
※……「Stable Diffusion Demo┃Hugging Face」にて生成
Stable Diffusion(ステーブル・ディフュージョン)は、Midjourneyにつづいて話題をかっさらったイラストAIです。無料プランでは利用枚数や商用利用に制限があるMidjourneyとは異なり、違法/有害なコンテンツの出力以外はオープンに許諾されていることから、爆発的にユーザーが広がりました。
また、どちらかといえば抽象的な表現やイメージの生成を得意とするMidjourneyと比べて、より写実的な表現に近づきやすいといわれています。
※……NovelAIにて生成
NovelAIは2022年10月に画像生成機能が実装され、たちまち話題を呼びました。その特徴はなんといっても、画像のようにアニメ調のカワイイイラストを生成することに長けているということ。もともとNovelAIは、人間の書いた物語のつづきをAIが文章で生成するサービスのため、その挿絵を生成する目的にチューニングされている面もあるのかもしれません。
画像を生成させるには10ドル~(2022年10月31日時点)の有料プランに加入する必要があります。
※……「お絵描きばりぐっどくん」にて生成
「お絵描きばりぐっどくん 」はLINEで友達登録し、日本語でフレーズをつぶやくだけでイラストを作成してくれます。日本語対応、そしてLINEで友達と会話するようにイラストAIを使えるという気軽さから多くのユーザーを集めています。お絵描きばりぐっどくんは、実は「Stable Diffusion」を気軽に利用できるよう、九州工業大学情報工学部の西野颯真氏がチャットbot化したものです。
この画像は架空のスマートシティでしょうか? 「Stable Diffusion」を下敷きにしていても生成されるイメージは全く異なりますね。
上記のほかにも、「Vector」「Bad Trip」などさまざまなスタイルを選択して、イラストを作成させることができるアプリ『Dream by WOMBO』、米Googleとバークレー大学の研究チームが共同で開発した3Dオブジェクト生成AI『DreamFusion』など、まさに「夢」のようなイラストAIソフトウェアが次々に開発・発表されています。
さて、さまざまなAIに「データのじかん(The Data Times)」を描いてもらった結果を見てあなたはどう感じられたでしょうか?
「すごい!」と感動した人もいれば、「まだまだ人間には及ばない」とジャッジした人もいるでしょう。しかし、判断を下す前に押さえていただきたいのは上記の画像はすべて筆者である私がたった一単語で指定した結果であるということです。
例えばStable Diffusionに「The Data Times with People who think about the future(未来について考える人々とのデータのじかん)」とより具体的な指示を出した結果が以下。
※……「Stable Diffusion Demo┃Hugging Face」にて生成
先ほどよりもイメージが詳細になり、未来や協創といったイメージに即した雰囲気が醸し出されました。
このように詳細なイメージを伝える腕前が、AIイラストのクオリティを高めるためには必須であり、効果的なフレーズを「呪文」、それを使いこなす人を「魔術師」のように捉える見方も広まっています。
中国語圏では『NovelAI』でより思い通りのイラストを生み出すための「呪文」が「元素法典」としてまとめられたとか。noteでその邦訳に取り組む有志も存在します。
イラストAIに100%狙い通りのイラストを生成させるには相当呪文について極める必要があり、それならばある程度のイメージを生成してもらって残りは人間のイラストレーターが修正したり、発展させるほうが今のところ現実的でしょう。
とどのつまりAIは便利な道具であり、“イラストレーターをはじめとする人間たちに問われているのはその使い方“なのです。
AIが生成した画像について、著作権上の問題はどうなっているのかと気になった方もいるでしょう。実際、2022年8月末には日本発の“絵柄を模倣できる”イラストAI『mimic』が公開され、自身の絵柄を模倣されることへの不安を覚えたイラストレーターの方々が意見を表明、不正利用の課題が解決されるまで同サービスは停止されることとなりました。
また、『NovelAI』についても、学習元となるサイトに無断転載画像が多く投稿されているとして、問題視する声が複数見られました。
2019年1月1日から施行されている改正著作権法では、第4次産業革命に向けたイノベーションの創出を目的として、下記のように柔軟な規定を設けており「情報解析の用に供する場合」著作権者の利益を不当に害することのない限りにおいて、著作物を利用可能としています。
著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
三 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合
引用元:著作権法 条文┃e-Gov法令検索
すなわち、イラストAIの学習データセットとして著作物を利用することは法律上許諾されているということですが、本当に「著作権者の利益を不当に害する」ことがないかについてはケースバイケースの検討が求められるでしょう。
また、『mimic』がサービス停止に至った原因には、法律以前にクリエイターやそのファンを巻き込むための説明やサービス設計が不足していたことが影響しているように思われます。
アートは人の“感情”に深くかかわるからこそ、関連するサービス開発においては、より丁寧な配慮と準備が求められるのではないでしょうか。
イラストAIを実際に使ってみながら、その現状と展望についてご説明いたしました。結局のところイラストAIは道具であり、重要なのは従来のペンや絵の具のように私たちがどう使いこなせるのかでしょう。また、ご紹介したようにそれぞれのサービス自体にも得意分野や権利許諾、使い勝手、料金体系など個性が存在します。
無料枠が存在するサービスがほとんどのため、まずは登録して自由に“呪文を詠唱”してみてください!
【参考資料】 ・松浦立樹,ITmedia「画像生成AI「Stable Diffusion」がLINEのチャットbotに 九工大の学生が作成 日本語にも対応」┃ITmedia ・@Robot-Inventor『イラスト生成AIに対するよくある誤解』┃Qiita ・深津 貴之 (fladdict)「魔術として理解するお絵描きAI講座」┃note ・都築 陵佑『画像生成「NovelAI Diffusion」無断転載サイトからの学習で物議 有償提供も問題視』┃KAI-YOU ・著作権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)について┃文化庁
(宮田文机)
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