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日本の食料自給率が低い理由とは?現状の問題点と自給率を上げる方法を解説

日本の食料自給率は、カロリーベースで38%、生産額ベースで65%。諸外国と比べると低い水準ですが、人口に対し農地が少ない日本の状況を考慮すると妥当な数値とも言えます。食料自給率100%の達成には、農地をフル活用し、カロリー効率を追求する必要があります。日本の農業の未来を探ります。

         

ドローンやAI、科学技術を駆使し、農業や食料流通を効率化、自動化する「アグリテック」が注目を集めています。

例えば、世界最大の売上額を誇るアメリカのスーパーマーケットチェーン、ウォルマートでは、昨年の秋からブロックチェーンを用いた野菜管理を取り入れたり、 中国の大手ドローン開発企業、XAGが農薬を効率的に散布できる自動運転のドローンを開発したり、アグリテックに関わるニュースは枚挙にいとまがありません。

こうした取り組みの背景には、第一次産業に従事する労働者数が年々減少している一方で食料自給率は現状を維持したい、という思惑があります。私たちが生きるために必要不可欠な食に関わる課題だからこそ、「アグリテック」や農業への注目はますます高まっていきそうです。

そうした中で、農地がほとんどない都市部で暮らしていると、自国のことであっても、農業を取り巻く現状や食料自給率について知る機会はなかなかありません。

そこで、今回は、日本の食料自給率の現状を世界の食料自給率を参考にしながら解説していきたいと思います。

そもそも食料自給率とは?「品目別食料自給率」と 「総合食料自給率」の2種類

そもそも食料自給率とは?「品目別食料自給率」と 「総合食料自給率」の2種類誰もが一度は耳にしたことがあるであろう「食料自給率」。しかし、その定義は意外と複雑です。

まず、食料自給率は、品目ごとに重量を用いて測る「品目別食料自給率」と 食料全体の自給率を測る「総合食料自給率」の二種類があります。

前者は、国内で生産された食料の重量(国内生産量)を国内で消費された食料の重量(国内消費仕向量)で割ることで算出されます。国内消費仕向量は「国内生産量+輸入量-輸出量-在庫の増加量(又は+在庫の減少量)」と計算することで求められます。

後者である総合食料自給率は、カロリーベースと、生産額ベースの2通りの方法で算出されます。

カロリーベースの食料自給率は、一日・一人当たりの国内生産カロリー数を一日一人当たりの摂取カロリーで割ったものになります。 対して、生産額ベースの食料自給率は、年間あたりの、国内生産額を国内消費仕向額で割ったものです。

計算の際に、畜産物は、輸入した飼料を使って生産したものについては、たとえ国産だとしても、国内生産額に算入していないということです。また、畜産分野に関連し、飼料自給率も重要な指標として算出されています。

さらに、食料自給率の低下への不安が高まる中、近年では、国内の農耕地をフル活用した場合に国内生産のみでどの程度の食料生産が確保できるのかを推計する食料自給力も算出されるようになりました。その際、現在の食生活を鑑みた上で、想定される状況を下記の4パターンに分類し、計算しています。

  • パターンA:栄養バランスを一定程度考慮して、主要穀物(米、小麦、大豆)を中心に熱量効率を最大化して作付けする場合
  • パターンB:主要穀物(米、小麦、大豆)を中心に熱量効率を最大化して作付けする場合
  • パターンC:栄養バランスを一定程度考慮して、いも類を中心に熱量効率を最大化して作付けする場合
  • パターンD:いも類を中心に熱量効率を最大化して作付けする場合

日本の食料自給率は本当に低いのか?

「日本は食料自給率が低い」という認識が一般的に広く知られています。

そこで、2000年以降の日本の食料自給率の推移をカロリーベースで見てみる(下図より)と、約40%と確かに低い値になっています。アメリカやオーストラリアなどの諸外国と比較しても、日本の食料自給率が低いことがわかります。

出典:農林水産基本データ集:農林水産省

しかし、生産額ベースで食料自給率を見てみると印象はグッと変わります。人口の4分の1が第一次産業に従事していた1965年と比較すると自給率は下がるものの、2017年で65%とカロリーベースで見るよりはるかに高い値が算出されているのです。

出典:農林水産基本データ集:農林水産省

では、なぜ測定方法を変えただけで値が30%近く変わるのでしょうか?

その原因としては、肉や魚、油などのカロリーの高い製品の食料自給率が低いということが挙げられます。一方で、野菜やいも類などの食料自給率は比較的高いのです。

出典:農林水産基本データ集:農林水産省

日本の農耕面積の少なさや一億人を超える人口を鑑みたうえで、世界基準で考えると、食料自給率66%という値は妥当なのかもしれません。

日本の食料自給率を上げる方法とは?農耕地を最大限に活かす

ここで気になるのが、食料の輸入などができなくなり、食糧不足の危機に陥った時、日本の農業が総力をあげれば食料自給率100%を達成できるのか?ということです。

そこで、上述で紹介した食料自給力、という指標で試算してみましょう!

農林水産省が発表しているパターン別データを元にグラフ化したものが下の図になります。

出典:農林水産基本データ集:農林水産省

現時点(平成29年度)で、カロリー効率が最も良いシチュエーション(D (いも類中心):再生利用可能な荒廃農地においても作付けする場合)を想定すると、一日・一人当たりの摂取カロリーは約2600kcalということです。

平成29年の時点で必要とされる一日・一人当たりの摂取カロリーは2,445kcal。つまり、日本の農耕地をカロリー効率のみを考慮し、フル活用すれば、ギリギリ食料自給率100%が達成できます。逆に言えば、日本が食料自給率を高めるには、それくらいの努力をする必要があるということです。

また、農業に必要な機械の稼働や、輸送には、燃料が不可欠です。資源に乏しい日本は、燃料などをほぼ輸入に頼っているため、日本で今のような生活や食事を続けよう、と考えると、諸外国との友好的な貿易関係が必要不可欠である、ということが改めて感じられます。

食料自給率に関するデータから見える日本の農業の未来

今回調べた食料自給率に関する情報をまとめると

  • 食料自給率は、品目ごとに重量を用いて測る「品目別食料自給率」と 食料全体の自給率を測る「総合食料自給率」の二種類がある
    総合食料自給率は、「カロリーベース」と、「生産額ベース」の2通りの方法で算出される
  • 日本の総合食料自給率は、現在、カロリーベースで、38%、生産額ベースで65%
  • 生産額ベースの食料自給率と比べ、カロリーベースの食料自給率の値が小さいのは、カロリー効率の良い肉や魚類を輸入に頼っているから
  • 日本が食料自給率100%を目指すには、農耕地をカロリー効率のみを考慮し、フル活用する必要がある

ということです。

食料自給率をカロリーベースで見るか、生産額ベースで見るかのように、同じデータを見ていても、単位を変えるだけで印象がグッと変わりました。当たり前のことでも、今見ているデータの単位は正しいのか?ということをきちんと突き詰めて考える重要性を改めて実感できました。

また、データを調べる中で、人口に対し農耕できる土地が少ない日本において、今後、農業・畜産業の分野で技術を高めていく場合、アメリカや中国などのように、より多い量を効率よく作り、管理する、という方法ではなく、少ない土地でいかに一つ一つの質を高めていけるか、が重要になるのではないか、と感じました。

これから日本の農業や食料自給率がどう変化していくのか?楽しみです。

【参考URL】
主要産業別就業人口の推移
食料自給率とは:農林水産省
【アメリカ】ウォルマート、青物野菜納品企業にブロックチェーン活用
中国の「ドローンで農薬散布」事業から農業のデータ革命が始まる理由

(大藤ヨシヲ)

 

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