長年続く国内のデフレと、昨今の世界的なインフレ、加速度的に進む少子高齢化、そうした中で子育て世帯を悩ませる大きな課題が「子どもの教育」と「お金」の問題です。
実際、ソニー生命保険株式会社が大学生以下の子どもがいる20歳以上の男女に対し行った「子どもの教育資金に関する調査2022」では、「子供の学力や学歴や教育費にいくらかけるかによって決まると感じる」という設問に対して当てはまると回答した人が全体の62.7%、また「老後の蓄えより子どもの教育費にお金を回したい」という設問に対して当てはまると回答した人も全体の59.3%と、 保護者たちから見た教育費用の重要さ、優先度の高さを窺い知ることができます。
切っても切り離せないお金と教育について、さまざまなデータで変化を見ていきましょう。
少子高齢化が進むなか、両親や祖父母など親族の数に対して、子供の数が少なくなっています。
参議院の調査室が定期的に発行している資料「経済のプリズム」によると子供の数が減少しているのに反し子供一人当たりの年間教育費は年々上がっているということです。
ここでは0歳から18歳の子どもの総数と、 世帯当たりの年間教育費用を世帯数でかけた国内の総教育費(年間)を子どもの総数で割ることで算出した「子供一人当たりの年間教育費」を算出しています。
1980年代以降子どもの数が右肩下がりなのに反し、子ども一人当たりの年間教育費は年々増加。 1990年代前半には30万円未満だった年間教育費が、2017年には37.1万円と10万円以上も増加しています。さらにこれは年間の数値なので、子ども一人当たりの通算の教育費の増加は、この30年で100万円以上上がっていると考えられます。
ここで大学の学費の推移も見てみましょう。文部科学省が発表している「国立私立大学の授業料等の推移」という資料によると、国立大学の授業料は日本経済が停滞する中、2005年から15年以上値段が変わっていません。一方で私立大学では2005年以降もじわじわと授業料が上がっています。
年度 | 国立大学 | 私立大学 | 私立大学/国立大学 | |||
授業料(円) | 入学料(円) | 授業料(円) | 入学料(円) | 授業料(倍) | 入学料(倍) | |
1975 | 36,000 | 50,000 | 182,677 | 95,584 | 5.1 | 1.9 |
1976 | 96,000 | 50,000 | 221,844 | 121,888 | 2.3 | 2.4 |
1977 | 96,000 | 60,000 | 248,066 | 135,205 | 2.6 | 2.3 |
1978 |
144,000 |
60,000 |
286,568 |
157,019 |
2 |
2.6 |
1979 |
144,000 |
80,000 |
325,198 |
175,999 |
2.3 |
2.2 |
1980 |
180,000 |
80,000 |
355,156 |
190,113 |
2 |
2.4 |
1981 |
180,000 |
100,000 |
380,253 |
201,611 |
2.1 |
2.0 |
1982 |
216,000 |
100,000 |
406,261 |
212,650 |
1.9 |
2.1 |
1983 |
216,000 |
120,000 |
433,200 |
219,428 |
2 |
1.8 |
1984 |
252,000 |
120,000 |
451,722 |
225,820 |
1.8 |
1.9 |
1985 |
252,000 |
120,000 |
475,325 |
235,769 |
1.9 |
2.0 |
1986 |
252,000 |
150,000 |
497,826 |
241,275 |
2 |
1.6 |
1987 |
300,000 |
150,000 |
517,395 |
245,263 |
1.7 |
1.6 |
1988 |
300,000 |
180,000 |
539,591 |
251,124 |
1.8 |
1.4 |
1989 |
339,600 |
185,400 |
570,584 |
256,600 |
1.7 |
1.4 |
1990 |
339,600 |
206,000 |
615,486 |
266,603 |
1.8 |
1.3 |
1991 |
375,600 |
206,000 |
641,608 |
271,151 |
1.7 |
1.3 |
1992 |
375,600 |
230,000 |
668,460 |
271,948 |
1.8 |
1.2 |
1993 |
411,600 |
230,000 |
688,046 |
275,824 |
1.7 |
1.2 |
1994 |
411,600 |
260,000 |
708,847 |
280,892 |
1.7 |
1.1 |
1995 |
447,600 |
260,000 |
728,365 |
282,574 |
1.6 |
1.1 |
1996 |
447,600 |
270,000 |
744,733 |
287,581 |
1.7 |
1.1 |
1997 |
469,200 |
270,000 |
757,158 |
288,471 |
1.6 |
1.1 |
1998 |
469,200 |
275,000 |
770,024 |
290,799 |
1.6 |
1.1 |
1999 |
478,800 |
275,000 |
783,298 |
290,815 |
1.6 |
1.1 |
2000 |
478,800 |
277,000 |
789,659 |
290,691 |
1.6 |
1.0 |
2001 |
496,800 |
277,000 |
799,973 |
286,528 |
1.6 |
1.0 |
2002 |
496,800 |
282,000 |
804,367 |
284,828 |
1.6 |
1.0 |
2003 |
520,800 |
282,000 |
807,413 |
283,306 |
1.6 |
1.0 |
2004 |
520,800 |
282,000 |
817,952 |
279,794 |
1.6 |
1.0 |
2005 |
535,800 |
282,000 |
830,583 |
280,033 |
1.6 |
1.0 |
2006 |
535,800 |
282,000 |
834,751 |
273,564 |
1.6 |
1.0 |
2007 |
535,800 |
282,000 |
848,178 |
273,602 |
1.6 |
1.0 |
2008 |
535,800 |
282,000 |
851,621 |
272,169 |
1.6 |
1.0 |
2009 |
535,800 |
282,000 |
858,265 |
268,924 |
1.6 |
1.0 |
2010 |
535,800 |
282,000 |
857,763 |
269,481 |
1.6 |
1.0 |
2011 |
535,800 |
282,000 |
859,367 |
267,608 |
1.6 |
0.9 |
2012 |
535,800 |
282,000 |
860,266 |
264,417 |
1.6 |
0.9 |
2013 |
535,800 |
282,000 |
864,384 |
261,089 |
1.6 |
0.9 |
2014 |
535,800 |
282,000 |
868,447 |
256,069 |
1.6 |
0.9 |
2015 |
535,800 |
282,000 |
– | – | – | – |
2016 |
535,800 |
282,000 |
– | – | – | – |
2017 |
535,800 |
282,000 |
– | – | – | – |
2018 |
535,800 |
282,000 |
– | – | – | – |
2019 |
535,800 |
282,000 |
– | – | – | – |
2020 |
535,800 |
282,000 |
– | – | – | – |
2005年から2014年までの9年間で40万円弱年間の授業料が上がっています。4年生の大学であれば通算で150万円以上の値上げとなり、大学進学の際に、選択の幅を広げるために私立大学も対象とすると、一気に金銭的な負担が増大します。
一方で先ほども紹介したソニー生命保険株式会社の「子どもの教育資金に関する調査2022」によると「子どもの学生時代のアルバイトについて」という設問では「アルバイトをせず学業に専念して欲しい」という回答が42.2%、また「海外留学や海外研修について」「多少費用がかさんでも経験させたい」という回答が58.4%など、子ども自身の金銭的な負担を最小限にすることや、お金をかけててでも、アドバンストの教育経験をさせたいと考える保護者も少なくないようです。
保護者たちの間で「子どもに教育を受けさせるのは大前提」という価値観が浸透する中で、早期教育にお金をかける人々も増えています。
首都圏模試センターが発表している、「首都圏の私立・国立中学受験者数」のデータを見ると、2022年の受験者数は、過去最多の51,100人となり、首都圏の小学校6年生全体と比較すると全体の17.3%、実に「4.76人に1人」が中学受験に挑戦する傾向があります。
こうした背景には共働き世帯の増加による世帯年収の増大があります。夫婦ともに年収700万円以上を稼ぐパワーカップルというワードも広く知られるようになりました。そして増えた収入をもとに教育にお金をかける世帯も増えていると考えられます。
少子化の進行や共働き世帯の増加とともに、増加し続ける教育費。一方でお金をかける人だけが、良質な教育を受けられる、という状態は、決して理想的な状態ではありません。
より広く良質な教育を行き渡らせるために何ができるか、を社会全体で考えなければ、生まれがその人の人生を決めてしまう階層化が加速し、結果的に大きな社会問題につながる可能性があります。社会全体をよくするために、いかにお金と教育のバランスをとっていくか、が重要になるのではないでしょうか?
【参考資料】 ・《速報》2022年の首都圏の私立・国立中学受験者数は過去最多の51,100名、受験率も過去最高の17.30%に! ・子どもの減少と相反する 一人あたり教育費の増加|経済のプリズム ・子どもの教育資金に関する調査2022 ・国公私立大学の授業料等の推移|文部科学省
(大藤ヨシヲ)
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