ITツールやSaaSは、業務の合理化・効率化の単なる道具にとどまらず、経営戦略に直結する重要なファクターになった。導入そのものに価値があるわけではなく、活用によってもたらされる「成果」が重要だ。ユーザー企業は、自分たちに伴走しながら最終的なゴールである「カスタマーサクセス」に到達するための助言やサポートをしてくれる専門家を求めている。
中堅・中小規模の企業にフォーカスしてカスタマーサクセスの実現に取り組む、株式会社ギミックプロジェクト代表取締役の山口純平氏は、IT導入を成果につなげるためには、組織づくりや人材育成を避けて通れないことを示唆する。
山口氏が代表取締役を務めるギミックプロジェクトは、ITを活用して課題解決や目標達成しようと考える企業を対象に、具体的なツールの活用だけにとどまらず、経営戦略の考え方や組織づくりまでを含めたさまざまな支援を提供している、いわば指南役でありサポーター的な存在だ。
「最近はSaaS、クラウドの広がりで、IT ツールを導入する企業は急増しています。しかし中小規模の会社では専任のIT担当者を置くことが難しく、せっかくの投資を十分に生かせていないことが多い。そこで私の経験をもとにした、小さな工夫・仕かけ(=ギミック)を提供して、それをヒントにサクセスにつなげていってもらおうというのが、会社を設立した背景です」
とはいえ、山口氏はもともとIT業界の出身というわけではない。新卒で大手ハウスメーカーに入社し、家具や建物の企画から開発、設計などを幅広く経験。転職後は、経営コンサル担当やフランチャイズ事業などを手がけてきた。本格的なIT活用を通じたカスタマー支援に関心を抱くようになったのは、前職の京都の設計事務所に勤めていたときだったという。
「その設計事務所では、建築設計の他にも駐輪場の管理事業を請け負っていました。ここで自社利用としてSalesforceを活用していましたが、ある自治体向けに年間7万台に上る放置自転車を撤去・保管・返還などの業務を効率化するアプリケーションを開発したのです。この他にもSalesforceを使ったサービスを複数提案する中で、ITツール活用の実績と経験を積んでいきました」
こうした Salesforceのエバンジェリストぶりは、ほどなく株式会社セールスフォース・ジャパンの目にも留まり、2011年初頭には「ユーザー会」立ち上げの依頼がきた。すでに活動中の東京エリアに続いて、関西エリアでも設立の話が挙がった際に、山口氏の実績を知る役員が、あの京都の設計事務所に頼めばよいと助言したのがきっかけだった。
「さっそくお引き受けして活動に取り組むうちに、せっかくSalesforceを入れたのに使いこなせず悩んでいるユーザーが非常に多いことに気付きました。もちろんセールスフォース・ジャパンにもカスタマーサクセスを支援する部門がありますが、ユーザーの急増でなかなか関西の企業、それも中小企業までは手が回り切らない状況だったのです」
そこで山口氏は、「京都にいる自分が専業でその役目を引き受ければ、京阪神のユーザーに密着したカスタマーサクセス支援が提供できる」と考え、設計事務所から独立。起業したのが現在のギミックプロジェクトだ。
そもそも山口氏が実践している「カスタマーサクセス支援」とは、一体どんなものだろうか。一般にベンダーやSIerが提供しているものは、ある程度の人数がいる企業を対象にした大がかりなプロジェクトを連想する。またそれだけの規模になると、ユーザー側も情報システム部門などが取り組みを主導するケースが多い。
一方、山口氏の支援している企業のほとんどは中小企業だ。5~10人規模だと管理者すらいないのが当たり前。まず同氏が管理者代行を引き受けるところが、カスタマーサクセスへの取り組みの第一歩なのだという。
「そういう企業では、システム導入まではベンダーが初期構築で関わりますが、運用開始後は自分たちでやらなければならないことも珍しくありません。そうしたところに入っていって、どうすれば課題解決や目標達成を図ることができるのか、経営者や社員の皆さんと膝詰めで議論していく。ITツールだけの話ではなくて、会社の組織づくりや人材育成も含めた話になるのです」
山口氏の顧客企業にはSalesforceやMotionBoardのユーザーが多いが、「極端な話、IT ツールを導入していないお客様でも、依頼があれば支援する」と話す。
「実はお客様が困っているのは、ツールの使い方ではありません。それ以前にビジネスをうまく回していくには、どんな組織づくりをすべきか、営業体制をどう変えていくべきか。そういうところまで含めてコンサルティングをした上で、やはりIT ツールが必要だとなったら、具体的なツールの選定や設定、運用や活用の指導もしていきます」
ツールの使い方だけに絞ってしまうと、かえって本来の目的(カスタマーサクセス)から離れてしまうから注意が必要だという。大切なのは、顧客企業のビジネスそのものをよく検証して課題を抽出し、解決のためのアドバイスを行いながらトライ&エラーで一緒に走っていくことだと山口氏は強調する。
では、企業側が山口氏のようなコンサルタントに支援を依頼する場合、具体的にどのようなアプローチをしていけばよいのだろうか。まず必要なのは、自分たちの課題をできるだけ具体的に整理して、「何が問題で、それを解決することでどんな成果を達成したいのか」を、コンサルタントに伝えることが、最初にして最重要のポイントとなる。
「これまでコンサルタントに依頼した経験のない企業だと、具体的なイメージを描くのが難しいと思います。そこで私は、とにかく最初は経営者と世間話から始めて、会話の端々から課題を拾い上げて相手に示した上で、優先順位を付けて解決していきましょうという流れをつくるようにしています」
また、規模の小さな会社でも、必ず何らかの管理指標をまとめた資料がある。それらには具体的な数字や事実が記されている。それと経営者の話を突き合わせていくと、経営者の考え方(理想)と数字(実態)のズレが明白になってくる。それをたたき台に、より実効性のある議論に持ち込んでいくのだという。
「現場の声も重要です。営業に同行して客先に行き、会話や提案を横で見せてもらうといったことも行っています。そこで出てきた課題をもとに、各拠点を回ってSalesforce を使った改善の研修に展開するケースも少なくありません」
最後に、これまでの山口氏のカスタマーサクセス支援の実績から、ある企業のIT ツール活用支援の事例を一つ紹介する。
ある専門商社では、早くから企業理念の見直しや経営ビジョンの策定とともに、ITツールを使った業務改善・改革を進めている。だがSalesforceを導入した当初は、せっかく導入したものの活用がなかなか進まない状況だったという。
「私が最初にコンサルタントとして話を伺った時点では、まったく異なる商材が複数存在しているのを、一つの商談単位で管理しようとするなど、業務の実態とツールの使い方がうまくマッチしていませんでした。それを無理に各事業部ごとで利用しようと入力を頑張られていましたが、ほどなく断念。SFA/CRMと様々な機能がありながら、名刺管理や掲示板ツールとしての利用が中心になっていました。」
山口氏は、さっそく経営者及び現場担当者へのヒアリングを開始。幸い売り上げの数字はERPからMotionBoardへのデータ連携で可視化されていた。そこで、その売り上げ管理に加えて、受注が発生する前の営業管理をSalesforce の活用で実現していく提案を行って、経営者の同意を得ていったという。
「2020年12月くらいから本格的な改革に着手して、事業部ごとの商品や商材に合わせてSalesforceを改良し、そこから出てきたデータを最適な形で見られるようにMotionBoardも改良していくというステップを踏んでいます。1事業部ずつ進めてきて、現在5事業部目が進行中です」
今後は Salesforce側の受注管理データと、ERPから抽出した実績データをMotionBoard上で合体させて予実を把握できる仕組みを実現。さらにウイングアーク1stの営業ダッシュボードMAPPAのようなツールを応用した、今後の売り上げ予測までの時間軸を一気通貫で実現していきたいと考えている。
今回の話を通して、これからカスタマーサクセスに取り組む企業、近年スタートした企業にとって、カスタマーサクセスという言葉が浸透する前からその活動をしてきた山口氏の考え方、取り組み事例多いに参考になるに違いない。
1991年、同志社大学工学部機械工学科卒業後、大手プレハブハウスメーカーに勤務。2001年より独立系経営コンサルタント会社で全国のクライアントの経営支援、営業支援を実施。並行して建築系FC本部、管理会社系FC本部の立ち上げやそれらFC加盟店開発、さらにFC加盟店に対してのスーパーバイジングを行う。 2006年よりこれまでの経験を生かし、京都の設計事務所にて営業マネジメントと新規事業開発を担当。その際にSalesforceと出会い、社内の業務改善、売り上げ向上に貢献するツールとして活用するだけでなく、それをもとにした社外への販売展開、サービス提供を行う。また関西エリアでSalesforceのユーザー会立ち上げを行い、関西エリアユーザーのスキルの底上げやベンダー、パートナー、ユーザーの関係強化を図る。クラウドの導入支援・定着化をさらに推進するため、2013年7月独立開業し、現在に至る。
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