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updataDX22初日のLocal DX Lab出張トークショーをお伝えする記事では、京都・宮崎・東京で活躍するDXトップランナーの取り組みを紹介した。同じくupdataDX22の3日目(10月14日)には宮城・徳島・福岡のトップランナーをお招きし、データのじかん編集長の野島をモデレーターにしたディスカッション形式で「DXの多様性と法則性」を探った。ゲストは、一般社団法人DX NEXT TOHOKU 理事・事務局長の淡路義和氏、有限会社小田商店 代表取締役社長の小田大輔氏、一般社団法人ノンプログラマー協会 代表理事の高橋宣成氏の3名だ。
今回も前半パート「パネリストに聞く DX・変革のスタートダッシュのススメ」では、各者がプレゼン形式でDXへの取り組みを紹介した。セッションの登場順に紹介していこう。
一般社団法人DX NEXT TOHOKU 理事・事務局長の淡路義和氏は、株式会社コー・ワークス、株式会社アイオーティドットラン(IoT.Run)の代表取締役を務め、企業のDX推進やIoT支援などを行っている。「秋田生まれ、仙台育ち」である淡路氏は、東北でデジタル化が進まない状況を憂い、2021年2月に有志とともに一般社団法人DX NEXT TOHOKUを設立、理事・事務局長に就任した。
「東北という場所は、実はQOLが非常に高い土地です。しかし少子高齢化が進む中での経済活動を考えると、若者にとっては極めて選択肢が少ない状況があります。例えば、中学3年生になる息子や就活などで出会う学生さんと話していても、未来を不安がっています。彼らは『東北が好き』だとも言ってくれています。しかし、好きだけれど選択肢が少ないことを理由に、(東北から)出て行くという決断をしています。このようなことがないようにしていくことが、私たち世代の責務だと考えています」(淡路氏)
DX NEXT TOHOKUは「東北においてDXを本質的に推進することを目的とした、DXのプロフェッショナル企業で構成する非営利団体」として「人口が減っても豊かで幸せな社会を創造し、より良い未来を次世代へ繋げること」をミッションに掲げる。淡路氏は「創立5年で解散しなければいけない」と話す。
「5年後には、DXはトレンドではなくなっていると思います。5年で東北にDXのライフサイクルを起こし、普及させたいと考えています」(淡路氏)
経済産業省「地域新成長産業創出促進事業費補助金(地域デジタルイノベーション促進事業)」の採択を受ける形で、すでにDX NEXT TOHOKUを母体とした「仙台・東北DXエコシステム」が始動している。地元地銀や経済連合会などの地域企業・ITベンダーなどがそこに参画しており、活動の主役として「20〜30代のデジタルネイティブ」を掲げた。
「基本的にこうした税金(補助金)は、運営のために使っていたら駄目です。チャレンジするための資金として使わしていただき、うまくいったものとうまくいかないものをきちんと精査した上で、最終的には他の地域に展開していく活動につなげていきたいと考えています」(淡路氏)
徳島県徳島市にある有限会社小田商店は、小田大輔氏の祖父が1946年に開業した水道設備機器販売会社(1953年法人化)で、小田氏は24歳のときに入社している。
今から20年ほど前には「先代である父親の突然の引退」に伴い、3代目代表取締役社長に就任。以降の小田氏はデジタルツールを用いながら、フロントからバックオフィスまで抜本的な業務改革に乗り出した。その過程と現状は、データのじかんでも取材している。
「当社は、特にバックオフィスの業務効率化・デジタル化が進んでおらず、紙の伝票処理で夜遅くまで残業する社員なんてざらにいました。社長として彼らを活気づけるため『もっと売り上げを伸ばしたいね』なんて調子よく言えば、『社長、売り上げが倍になったら残業時間も倍になる』と返ってくるような状況でした。今でこそ18時退社が常となっていますが、当時はそれが実態でした」(小田氏)
小田氏は社長就任後、直ちに業務改革の一貫して同社で取り扱うアイテムの全てにバーコードを付与・登録させた。社員から「8000点以上もある在庫全てにバーコードを付けるなんて不可能」という反発もあったが、パートスタッフを雇って実行。その結果、事務処理の大幅な減少に成功した。そのとき採用したパート社員の1人は、現在正社員として経理業務を担当しているという。
DX実装に成功し、近年は大阪のパイプ会社のM&Aを実行するなど経営改革に注力する小田氏。経営者視点のシステム投資についてこう語る。
「システム投資をしてから結果が出るまでに、早くても3カ月、あるいは1年、2年、3年という時間がかかります。その間たとえ売り上げが改善しなくても、システムの開発と実装に投資し続けなければなりません。こういうときに試されるのは、社長としての腹のくくり方。何に対してどのくらいのお金が必要なのか、そして続けられる算段をきちんと立てておかないとDX実装は難しいと思います」(小田氏)
現在46歳の高橋宣成氏は39歳のとき、福岡県糸島市でITやプログラミング関連の研修・トレーニング・コンサルティングなどを行う株式会社プランノーツを設立した。
同じく糸島市で2021年に設立した一般社団法人ノンプログラマー協会では代表理事を務め、コミュニティ「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会(ノンプロ研)」や越境学習支援プロジェクトなどを主宰している。
越境学習とは「ホームとアウェイを行き来する学習」を指す。普段働く慣れ親しんだ会社をホームとするなら、アウェイはそれとは別の“不慣れな場所”。高橋氏らは、企業で固定化された人材をオンライン学習コミュニティ「ノンプロ研」に迎え入れ、不慣れな場所(=アウェイ)で学び取ったスキルを会社(=ホーム)に持ち帰ってもらっている。
ノンプロ研へプログラミングを学びに来る参加者は、一般会社員の他、「お医者さんもいれば農家さんもいる」と高橋氏。デジタルスキルの習得のみならず、知らない世界に身を投じたことで得る刺激や葛藤が、その後の変革意識や気づき、内面的成長につながっていくという。
「越境学習はDX人材を育てるのに有効です。しかし一方で、会社で本当のDXを実現していくためには、人材だけでは足りません。マネジャーから先に越境するなどの組織的活動、越境者を孤独にさせない社内コミュニティ、越境で得た経験を腹落ちさせるセンスメイキング、そして越境者が改善しやすくなる組織改革なども必要です。とある大病院のスタッフにもノンプロ研での越境学習に参加いただきましたが、同ケースでは院長も自らノンプロ研に参加し、さらにその後に続く形で病院のマネジャー複数名も参加しました。結果的に、越境から帰還したスタッフたちを受け容れながら伴走する仕組みが構築され、より大きな成果が生まれています。トップのコミットと組織ぐるみの運営が功を奏したケースです」(高橋氏)
後半はモデレーターの野島からゲストに投げかける形で「フリーディスカッション」を実施した。テーマは「失敗のマネジメント」。失敗に対する各者のスタンスが詳らかにされた。
ウイングアーク1st・野島:前半パートではDXの成功へ向けての道筋を伺いました。成功の過程の裏返しとも言える失敗への向き合い方として後半パートでは「失敗のマネジメント」という切り口から、ゲストの皆様のお考えやスタンスをご教示いただけますか。
ノンプロ研・高橋氏:失敗という言葉への“抵抗感”みたいなものは、きっぱりと捨てる必要があると思います。これはコミュニティ運営にも会社経営にも共通しますが、新しいことを始めれば、必ず良いことと悪いことの両面が出てきます。悪いことは、直せばよく、その先の活動のヒントにつながることもあります。立て直せないほどの失敗は例外かもしれませんが、失敗という言葉を駄目なことだと捉えず「失敗したけれどラッキー」というくらいのスタンスでいるのが好ましい。失敗で得た結果をその後の未来の“食いもん”にしてあげることが、すごく大事なマインドセットだと思います。
小田商店・小田氏:会社が倒産したり事業がうまくいかなくなったりするような種類の失敗は例外ですが、社員もしくは自らが何かしらの失敗したときには、「自分たちがやっていたことは何のためにやっていたのだろう?」と振り返ることがとても大事だと思います。(努力の)結果として失敗に至ったのならば、それは目的が間違っている可能性もあります。経営者は失敗体験そのものばかりを振り返りがちですが、「何のためだったのか」という目的に立ち返ることが大事。「やらなければよかった」という結論や話にしてはいけません。
DX NEXT TOHOKU・淡路氏:お二人が今、話されたことに同意します。どんどん失敗すべきだし、そのようにオペレーションしていきたいとも思っています。1点だけ付け加えるなら、自己肯定感・自己受容を持っていない人間が大きな失敗をすると、失敗体験そのものに引きずられ、立ち直れなくなるほどに落ち込んでしまうということがあります。それを避けるためにも経営者は、自己肯定感がしっかり担保される環境づくりをしなければなりません。それができていないと、失敗から人材離脱が頻出する可能性もあります。「心理的安全性」というような言葉にも密接に関連しますが、組織づくりの観点から失敗について考えるべきだと思います。
野島:DX変革に期待されるミドルマネジメントの素養という点では、いかがでしょうか? 来場者の皆様のようなDX変革を担うミドルマネジメントの皆さんに向けて、メッセージをお願いします。
小田氏:経営者であれミドルマネジメントであれ従業員であれ、会社を変革していくならば、今自分がやろうとしていることが「会社の会計科目の何(の数字)を変えるのか」を意識しなければいけないと思います。会計上の数字などで成果が明確で見えないと、会社から結果に対する評価はしてもらえないし価値も見いだしてもらいにくいものです。現実的な会計科目に置き換えることを常に意識していただきたいです。
淡路氏:ミドルマネジメントによる変革は、上も下も見ながら進めることになり、とても大変かと思いますが、本来の目的意識はしっかりと持っていただきたいです。自分あるいは自分のチームの目先の利益も大事ですが、もっと会社全体を俯瞰し全体最適で考えていただきたいと思います。経営者とまったく同じとまでは言いませんが、視座を高くすることでそれは達成されます。その担い手になることが、ミドルマネジメントに期待されているのではないでしょうか。
高橋氏:たとえ皆さんがバックオフィスではない現場スタッフだったとしても、会社という大きな組織に所属する一員であることに変わりはありません。DXはうまくいかないことが多く、そのたびに経営者・経営陣が批判されがちですが、そうではなく、自分も変革の一部なのだと認識して取り組んでいただきたいです。皆さんが今すぐに関われるのは小さな変化かも知れませんが、できることは必ずあります。誰かのせいにするのではなく自分本位で「できること」を考えてほしいと思います。
今回のLocal DX Labトークショーでは、「東北を拠点とするDXを担うエコシステムづくり」「祖父の代から続く老舗企業のDX改革」「企業変革のための越境学習コミュニティ運営」といった取り組みが紹介された。取り組み内容は三者三様であったが、失敗に対する向き合い方やDX実現のための組織づくりという観点では、共通する部分も多かったのではないだろうか。それこそがDXの本懐だろう。今後もLocal DX Labを通じ、DXトップランナーの言葉から、DXのヒントをお伝えしていきたい。
(取材・TEXT・編集:JBPRESS+稲垣 PHOTO:倉本あかり )
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