大企業、中小企業を問わず、ビジネスにおける躍進あるいは生き残りでDXの成功が不可欠だという認識は広がってきています。
しかし、「多額のコストを投じて導入した新ツールがほとんど活用されなかった」といった話を聞き、つい消極的になってしまうという方も多いでしょう。なぜ、効果の期待される新ツールが活用されないのか、活用を促進するためにはどうすれば良いのか。
「現場主導」をキーワードにその実情と、成功に近づくポイントを解説いたします!
まずは日本企業のDXと現場主導の関係を、2021年以降のデータをもとにみていきましょう。
コンサルティング大手、PwCコンサルティングの『日本企業のDX推進実態調査2022』によると、DX推進企業(売上高10億円以上)の幹部1,103名のうち、DXに取り組んだ結果「十分な成果が出ている」と回答した日本企業の割合は「10%」でした。
「何らかの成果」を実感している幹部は53%存在するものの、26%は「あまり成果が出ていない」、4%は「全く成果が出ていない」と回答しており、DXの結果に満足している企業幹部はごくわずかだということがわかります。
ここで忘れてはならないのが「DXに取り組んですらいない」企業もまだまだ存在するということ。情報処理推進機構(IPA)が制作した『DX白書 2021』によると、DXに「取り組んでいない」と回答した企業は2021年時点で全体の33.9%。
Copyright: DX白書2021 IPA
DXに着手し、さらに成果を実感するまでのハードルは残念ながらまだまだ高いようです。
その原因として『日本企業のDX推進実態調査2022』では、4つのポイントが提示されており、そのうちのひとつが「現場へのDX浸透」。同資料によると、「DXの戦略や計画への理解」と「DXの成果」にはデータ上で相関が現れており、なかでも一般社員やグループ会社・海外拠点に在籍する社員など現場に近い社員の理解が深いほど成果につながります。
例えば一般社員の理解度が「60%~80%未満」の企業では「十分な成果が出ている」という回答が全体の9%なのに対し、理解度が「80%以上」の企業では同指標は35%に跳ね上がります。
先の『DX白書 2021』では、DXにおける「全社員による危機意識の共有」を「達成している」と回答した企業は日本が3.8%、米国が41.8%、「経営トップと全社員のDXビジョンの共有」では日本が5.0%、米国が37.6%で、日米に大きな乖離があることがデータとして示されています。
Copyright: DX白書2021 IPA
このように、複数のデータから、DXの推進・成功において、知識・意識・ビジョンなどさまざまな面で現場を巻き込むことが重要であることが推察されるのです。
DXの成功において現場の力が不可欠であることはすでにお伝えしました。
──では、なぜ現場を巻き込めない現状が発生しているのでしょうか?
よくある原因として挙げられるのが、以下です。
DXに限らず、それまでの仕事のやり方が変わるとき、必ず現場から抵抗が生まれます。「本当に意味があるのだろうか」「今まで問題なく仕事が回っていたのに……」といった思いが現場で支配的ならば、たとえ表立った反対はなくとも新ツールが定着することはありません。
企業のビジネスモデルや提供価値の変革を目指すDXでは、トップダウンで方針を示すことは重要です。しかし、そこで現場を置き去りにしないためには単に指示するだけでなく、現場とビジョンを共有し能動的な参加を促進することが求められます。
日本のIT人材は質・量ともに不足しています。また、それをカバーする企業の戦略も不足しています。
Copyright DX白書2021 IPA
AI、IoT、データサイエンスといった先端技術領域に関してリスキリング施策を「実施もしていないし検討もしていない」という企業が全体の半数近くを占めており、全社員対象での実施を行っているのはわずか7.9%に過ぎません。米国の37.4%と比べると、その差は歴然です。
必要な機能が欠けていたり、データの移行でかえって手間が発生したり……経営層やDX推進者の現場に対する理解が不足していれば、せっかく導入したツールも‟的外れ”なものになってしまいます。アジャイルに‟まずやってみる”ことの重要性はもっと日本企業に浸透すべきですが、「とりあえず導入すれば何とかなるだろう」と拙速に進めるのは禁物です。
DXが現場に浸透しない原因を踏まえ、現場主導を実現する3ポイントを、事例とともにご紹介します。
DXは企業全体の変革につながる一大プロジェクトですが、だからこそ‟小さく生んで大きく育てる”スモールスタート”を現場主導を実現するために意識しなければなりません。
『中堅・中小企業等向け「デジタルガバナンス・コード」』(経済産業省)掲載のヒバラ・コーポレーション(工業塗装業)の事例では、従来手書きで発行していた作業伝票をスキャナ・プリンターの導入によりデジタル化するところからDXをスタートさせたといいます。それでも当初は反発があったそうですが、社長自ら現場に丁寧に説明し理解を得て小さな成功体験を積み重ねることで、塗装に関わる全作業の見える化、「日本初のコンサルティング型工業塗装」事業化など大きな成果につなげたとのこと。
DXの現場浸透にあたって、トップダウンで大きな業務効率化を目指すよりも、まずは小さくてもデジタル導入の価値を実感してもらいやすい作業を現場主導で挙げてもらってみてはいかがでしょうか。
社員のリスキリングに本気で取り組む企業はやはり、DX成功事例に多く見られます。
たとえばヒバラ・コーポレーションと同じく『デジタルガバナンス・コード』掲載の有限会社ゑびや(飲食業)はそもそも1912年創業の飲食店。IT人材の育成を重視し、自ら希望したホールスタッフに現場の業務から離れて、数カ月勉強に専念させることにも取り組んだといいます。
加えて紹介したいのが『DX白書2021』掲載の旭化成株式会社(総合化学メーカー)の事例。同社はグループ全体を対象にした「デジタル人材4万人化計画」を掲げ、2021年より「オープンバッジ制度」を設置。5段階のレベルが設けられたデジタルスキルの証明書取得を推奨しています。
こうして全社的にITリテラシーを引き上げてこそ、現場主導の環境が整うはずです。
現場の巻き込みに最も重要なのは「現場とのコミュニケーション」です。現状共有と質問の場を定期的に設ける、経営層との橋渡しとなるDX推進リーダーを現場から抜擢するなど、対話を強制的に生み出す仕組みを設けることが求められます。
経済産業省が選定したDX優良事例「DXセレクション2022」で準グランプリを受賞した株式会社日東電機製作所(電気機械器具メーカー)では、社長を中心に「チームIoT」を結成。現場の困りごとの洗い出しとそのIoTによる解決に取り組み、社内のエンジニアだけでプロセスのロボット化や非プログラマ社員によるノーコードを活用した社内申請業務の電子化を達成したといいます。
このように、現場と一体となったDXチームを設けるのも現場主導を実現する上で有効な手段です。
『DXレポート』(経済産業省)がリリースされた2018年ごろから一気にバズワードとなった感のあるDX。コロナ禍を経てその重要性は増々浸透しましたが、一方でなかなか成果が出ないことへの幻滅や疲れの声も聞かれるようになってきました。
「現場主導」という視点からDXを見直すことは、そうした徒労感を払拭し、前向きにプロジェクトを進めるためのカギともなります。
‟導入したけど使ってもらえない”を回避し、デジタルによる業務の変革を社内にとって当たり前のものとしていきましょう!
【参考資料】
(宮田文机)
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