ここまで身近な実用例を紹介しましたが、触覚データの活用は単に体験の質を上げたり動作性が分かりやすくなったりするだけのものではなく、私たちの命を救ったり、様々な人の生きづらさを解消できる可能性を持っています 。
そんな可能性を秘めた技術の一つが、イスラエルのIT企業、タクタイルモビリティが開発している、触覚データを車両の動作と紐付けた技術です。
この技術では、触覚データを活用して、路面の状態(質感)からタイヤが滑りやすさやエンジンやブレーキのかかりやすさ、さらには燃費まで車両の状態を各種データとして算出することができるといいます。
さらに車両の部品の消耗状態についても管理することができるそうで、この技術を使えば、専門家を介さずとも恒常的に車両の状態をチェックすることができ、結果的に事故の削減などにつながるそうです。
また、ハプティクスを活用したロボットアームの開発も進んでいます。
慶應義塾大学の野崎貴裕氏が手掛ける「リアルハプティクス技術」は、ロボットアームで触れたものの硬さを、人間が装着したグローブにフィードバックし、それに応じて人間が手を動かすとその動きや握力に応じてロボットも全く同じ動作をするというもの。
この技術によって、従来の「触れる/触れない」といった二元的な操作に止まらずより柔軟な操作が可能になるといいます。
こうした技術は義手などにも応用可能だそうで、従来なら義手の動作性を高めるために機械と神経をつなぐ手術を必要とし、さらに様々なトレーニングが必要とされていましたが、この技術を使えば、装着するだけで誰でもすぐにロボットアームを動かすことができるということもあり、大きな期待を込めて注目されています。
その他にも、工場の機械を遠隔で操作したり、手術を遠隔で行うと言った様々な応用方法がすでに考案されているそうです。
海外でも同様の技術は開発されており、 MITでは、ごく普通の手袋に500個を超えるセンサーを取り付けることで、人間の手のように様々な刺激を検出できる「AI手袋システム」がその一例です。
この手袋をロボットがつけることで、様々な質感を感知することができるようになるため、様々なものを持ったり、動かしたり、運んだりといった動作がよりスムーズに行えるようになることが期待されています。
触覚データや触覚技術について今回紹介したことをまとめると以下のようになります。
・超高速、大容量、多接続という特徴を持つ5Gの登場により、触覚データを用いた様々な技術に注目が集まっている
・触覚データを用いた技術はハプティクスと呼ばれ、すでにスマートフォンやゲーム機など様々なツールで搭載されている
・近年では技術開発が進み、ハプティクスを活用した機械の遠隔操作性や、 動作性の向上に大きな期待が寄せられている
今回紹介したように、触覚データを活用した技術は、様々なサービスや製品における体験の質を上げるだけではなく、人々を様々な危険から守ったり、様々な障害を補ったりする役割も期待されています。
その一方で、触覚データについてはまだまだ認知度も低く、その応用方法については多くの可能性が秘められている分野でもあります。5G以後の新たな時代の旗手の一つとして、今後どんなサービスが生まれるのか、ぜひ追っていきたいですね。
(大藤ヨシヲ)
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