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‟生成AI”以降の人間の役割を考える上で欠かせない「ヒューマン・イン・ザ・ループ(HITL)」とは?

         

IMF(世界通貨基金)が2024年7月にリリースしたAIと未来の雇用にまつわるレポートによると、世界の労働者の約40%がAIの影響にさらされ、先進国ではその割合は60%と過半数にまで跳ね上がります。

すでにAIを仕事に活用しはじめているという企業も少なくなく、人間の仕事が代替されてしまうのではないか、そんな中で自分はどのようにキャリアを気づけばよいのかと悩む方は多いでしょう。

本記事では、生成AI革命後の人間の役割を考える上で欠かせない概念「ヒューマン・イン・ザ・ループ(HITL)」についてご紹介し、その活用イメージやHOTL、HOOTL、HCAIなど関連用語との違いについても解説します。

「ヒューマン・イン・ザ・ループ(HITL)」=“人間の判断やフィードバックをAIなどの自動化システムやその活用プロセスに組み込むこと”

ヒューマンインザーループ(Human-in-the-loop、略してHITL)とは、人間の判断やフィードバックをAIなどの自動化システムやその活用プロセスに組み込むことを指します。

このアプローチは、人間と機械の協働に重点を置いており、人間がシステムの意思決定過程において重要な役割を担います。そして、その目的は、人間の介入によりシステムの精度を向上させたり、不確実性を管理したりすることにあります。

たとえば、機械学習のトレーニングフェーズにおいて、データのラベル付け作業に人間が関与することは一般的です。GPT-4やGPT-4oの開発の過程で人間によるフィードバックのプロセスが組み込まれていたことはよく知られており、AIモデルの動作やAIの安全性、セキュリティなどの向上が目的とされていました。

どれだけAIが発達してもそのメリットを享受するのが人間である以上、人間の感性や身体感覚が求められるのは必然です。それらを数値的なインプットやロボットとの組み合わせにより再現しようという研究も進められていますが、その過程においてもHITLが必要なことは間違いありません。

また、マスクド・アナライズ氏著『会社で使えるChatGPT―個人の業務改善も組織への導入&活用も1冊で完全理解!』(東洋経済新報社、2024)の書評でも言及した通り、最終決定をする/責任を取るという仕事は人間に最後まで残されるでしょう。

AIの存在感が高まるということは、HITLにおける人間の役割が増加するということでもあるのです。

医療、採用、ものづくり……5分野におけるHITLのケーススタディを紹介

HITLはさまざまな業界や業務で、AI活用のプロセスに組み込まれています。ここでは、医療、採用、ものづくりなど、5つの分野におけるHITLのケーススタディをご紹介します。

【1】医療分野でのHITL

医療分野においては、診断支援システムの画像解析などにHITLが用いられており、AIによる初期診断後に最終的な評価を医師が行うことで、診断結果の信頼性や責任の所在を担保します。医療のような責任が大きく、人生にかかわる複雑な判断が求められることもあるケースでは、HITLが特に重要と考えられます。

【2】採用分野でのHITL

採用分野では、履歴書のスクリーニングや選考過程にAIを導入しつつ、最終的な人事判断は人間が担うことで、効率と公平性の向上を図っています。AIが履歴書や面接動画といった大量のデータから有意なパターンを抽出して候補者の適性を判定し、人間が個々の文脈や細かいニュアンスを考慮した評価を行うことで、採用プロセスの効率化と質の向上が図られます。

【3】ものづくり分野でのHITL

製造業においても、HITLは重要な役割を果たしています。たとえば、品質管理プロセスにおいて、機械による初期検査を経て、人間が最終的な判別や修正を行うことで、より良い品質管理や歩留まり率の実現につながります。ものづくり分野では、すでに人間と機械の協業が進んでいますが、生成AIの登場はさらにその可能性を広げてくれるでしょう。

【4】小売分野でのHITL

小売業界では、在庫管理やマーケティングでHITLが導入されています。AIは購買履歴や消費者行動のデータを解析して売上予測や在庫の最適化を行います。人間の店員はそのデータをもとに商品の陳列やプロモーション活動を調整し、また人間独自の判断をフィードバックするというわけです。

【5】サービス分野でのHITL

コールセンターなどのサービス業界では、今急速にAIの導入が進んでいます。例えば、顧客からの問い合わせに対してAIチャットボットや音声システムが応答を行い、高度な質問や特敵のキーワードが検出された際には人間のオペレーターが介入するという光景は今では当たり前のものとなっているのでは? AIによるデータ分析から得られたインサイトをもとに人間のオペレーターがカスタマイズされたサービスを提供することで、顧客体験の向上にもつながると期待されています。

HOTL、HOOTL、HCAI……さまざまな関連用語とHITLとの違いを解説!

HITLが、人間の判断やフィードバックが自動化システムの過程に組み込まれている状態であることはすでにご説明しました。ここで、それと区別される、あるいは関連する用語であるHOTL、HOOTL、HCAIなどについて押さえましょう。

HOTL (Human-on-the-Loop):人間がシステムの外部で監視している

HOTLは”自動化されたシステムやプロセスが主に独立して動作しており、人間が監視役として外部から介入可能な状態”を指します。人間は、緊急時やトラブル発生時など特定の状況でのみ介入することとなっており、システムは基本的には自動的に動作します。

HOOTL (Human-out-of-the-Loop):人間がシステムに関与しない

HOOTLは、‟人間の介入が一切不要な自動化システム”を指します。このシステムは全ての決定と操作をAIや自動プロセスが独立して行います。例えば、完全自動運転車がこのカテゴリに入ります。HITLやHOTLとは異なり、システムの設計が人間の監視や介入を前提としていないため、信頼性と安全性の高い設計が求められます。

HCAI (Human-Centered Artificial Intelligence):人間中心のAI活用

HCAIは、‟AIの設計と運用において人間の役割と経験を中心に据えるアプローチ”です。HCAIにおいてAIは人間に入れ替わるのではなく、人間の能力を補完し、より良い人間との協業を実現することを目的とします。HITLはHCAIを実現するための手段の一つともいえるでしょう。

終わりに

生成AIが急速に日常の業務に入り込む中、重要な概念の一つである「ヒューマン・イン・ザ・ループ(HITL)」について解説いたしました。HITLは字義通り、AI活用のループに人間が組み込まれる仕組みを指しますが、HCAI的観点から見れば、人間の生産システムにAIが組み込まれる「AI・イン・ザ・ヒューマン・ループ(AITHL)」の状態であるとも考えられるでしょう。

AIを生かすために人が協力する、人がメリットを享受するためにAIを活用する。

その両方の観点を持つことが、AIとのベストな協業のバランスを探るうえで重要なのです。

(宮田文机)

 

参照元

・Gen-AI: Artificial Intelligence and the Future of Work┃IMF・GPT-4 is OpenAI’s most advanced system, producing safer and more useful responses┃OpenAI・黒須教授『人間中心的な人工知能(HCAI) (1)_黒須教授のユーザ工学講義』┃U-site ・平野 晋『AIの判断に対するヒトの最終決定権の限界 Human-in-the Loopの問題』(総務省_情報通信法学研究会)┃総務省

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