スイスのローザンヌに拠点を置くビジネススクール、国際経営開発研究所(IMD)は毎年、『世界デジタル競争力ランキング』を発表しています。2022年、日本は同ランキングにおいて、過去最低順位である29位(63カ国中)を記録しました。
その要因は何で、デジタル競争力に関する日本の弱み、あるいは強みはどこにあるのでしょうか?過去データなども参考にしつつ、同ランキングを深掘りしていきましょう!
IMD『世界デジタル競争力ランキング』における、日本の順位の推移をみると、2013年の20位から、2022年の29位まで9つ順位を落としています。
データ出典:World Digital Competitiveness Ranking 2022┃IMD,World Digital Competitiveness Ranking 2017┃IMD
2017年→2018年には順位が回復するタイミングもあったものの、その後コロナ禍を経て順位はだんだんと下がり続けていきました。
同ランキングの評価軸となる要素には「知識(Knowledge)」「技術(Technology)」「未来への備え(Future Readiness)」の3つが存在し、それぞれの推移は以下の通りです。
データ出典:World Digital Competitiveness Ranking 2022┃IMD,World Digital Competitiveness Ranking 2017┃IMD
ご覧の通り、時折順位が回復する年もあるものの、2013年→2022年にかけて知識は23位→28位、技術は19位→30位、未来への備えは20位→28位と、いずれも競争力も低下している点には変わりありません。
「知識」「技術」「未来への備え」のそれぞれも、実はそれぞれ3つの要素によって構成されています。それぞれについてもさらに深掘りしてみてみましょう。
「知識」の構成要素は、「人材(Talent)」「トレーニング・教育(Training and Education)」「科学に対する重点的な取り組み(Scientific Concentration)」の3つです。
データ出典:World Digital Competitiveness Ranking 2022┃IMD,World Digital Competitiveness Ranking 2017┃IMD
ご覧の通り「トレーニング・教育」は2017→2018で順位を高め、「科学に対する重点的な取り組み」も20位以上で推移しているものの、右肩下がりに順位を落としているのが「人材」です。
「人材」の構成要素では「国際経験」「デジタル/テクノロジースキル」が、それぞれ63カ国中63位、62位と低迷しており、5位の「PISA教育テスト(数学)」など高順位の要素も存在する一方で足かせとなっている状況です。
「技術」の構成要素は、「規制枠組み(Regulatory framework)」「Capital(資本)」「技術枠組み(Technological framework)」の3つです。
データ出典:World Digital Competitiveness Ranking 2022┃IMD,World Digital Competitiveness Ranking 2017┃IMD
「技術的枠組み」の順位は高位に位置し、2013年よりは低下したものの2022年も8位と10位以内にとどまり続けています。一方、「規制枠組み」は27位→47位へ大きく順位を落とし、「資本」はやや低下という結果となっています。「規制枠組み」の構成要素では「移民法」の順位が61位となっており、それに次いで低位に位置するのは「科学調査に関する法」の49位です。
「未来への備え」の構成要素は、「適応度(Adaptive attitudes)」「Business agility(ビジネスアジリティ)」「IT統合(IT integration)」の3つです。
データ出典:World Digital Competitiveness Ranking 2022┃IMD,World Digital Competitiveness Ranking 2017┃IMD
3要素の中で突出して低位に位置するのが「ビジネスアジリティ」で62位。2013年の30位から大幅に順位を落とした項目でもあります。「IT統合」は2013年よりも順位を高めた唯一のサブファクターであり、「適応度」も「ビジネスアジリティ」に比べればかなり高位(20位)に位置しています。
「ビジネスアジリティ」の構成要素の中でも「世界ロボット分布」では2位なのに対し、「機会と脅威」「企業のアジリティ」「ビッグデータの利用と分析」の3要素が最下位(63カ国中63位)であり、俊敏性を発揮できている分野が極端に偏っていることが見て取れます。
このように、要素を分解すれば得意分野・不得意分野に大きな差異があるのが日本のデジタル競争力です。国際的にオープンな社会であること、最新技術に対しアジリティを発揮できることが、今後の順位を高めるにあたってカギになるといえるでしょう。
世界デジタル競争力ランキング1位の国は、「デンマーク」です。
同国は「未来への備え」1位、「知識」6位、「技術」7位を記録しており、日本が最下位のビジネスアジリティで1位とVUCAなビジネス環境に対し、俊敏な対応を行えるという評価を得ている国家でもあります。デンマークでは、2020年時点で公共ITプロジェクトの62%近くがアジャイル開発で進められているというデータもあり、早稲田大学電子政府・自治体研究所が発表した「第17回早稲田大学世界デジタル政府ランキング2022」1位の国でもあります(同ランキングで日本は10位)。
2位のアメリカは長年守ってきたトップの座から陥落しており、すべてのファクターで高い水準を保ってはいるものの、その「科学分野の修了者」や「移民法」などの要素に弱点があることが指摘されています。
3位はデンマークと同じく北欧に位置する「スウェーデン」です。同国は「知識」において2位に位置しており、特にその一要素である「科学・技術分野の雇用」において強みを持ちます。また、「技術」分野の「国の信用格付け」「ベンチャーキャピタル」でも1位を記録しており、デジタル技術分野に関する資本的豊かさが見て取れます。
全63カ国のデジタル競争力ランキングは、以下の表にてご確認ください。
1位 | デンマーク |
2位 | アメリカ |
3位 | スウェーデン |
4位 | シンガポール |
5位 | スイス |
6位 | オランダ |
7位 | フィンランド |
8位 | 韓国 |
9位 | 香港 |
10位 | カナダ |
11位 | 台湾 |
12位 | ノルウェー |
13位 | アラブ首長国連合 |
14位 | オーストラリア |
15位 | イスラエル |
16位 | イギリス |
17位 | 中国 |
18位 | オーストリア |
19位 | ドイツ |
20位 | エストニア |
21位 | アイスランド |
22位 | フランス |
23位 | ベルギー |
24位 | アイルランド |
25位 | リトアニア |
26位 | カタール |
27位 | ニュージーランド |
28位 | スペイン |
29位 | 日本 |
30位 | ルクセンブルク |
31位 | マレーシア |
32位 | バーレーン |
33位 | チェコ |
34位 | ラトビア |
35位 | サウジアラビア |
36位 | カザフスタン |
37位 | スロベニア |
38位 | ポルトガル |
39位 | イタリア |
40位 | タイ |
41位 | チリ |
42位 | ハンガリー |
43位 | クロアチア |
44位 | インド |
45位 | キプロス |
46位 | ポーランド |
47位 | スロバキア |
48位 | ブルガリア |
49位 | ルーマニア |
50位 | ギリシャ |
51位 | インドネシア |
52位 | ブラジル |
53位 | ジョーダン |
54位 | トルコ |
55位 | メキシコ |
56位 | フィリピン |
57位 | ペルー |
58位 | 南アフリカ |
59位 | アルゼンチン |
60位 | コロンビア |
61位 | ボツワナ |
62位 | モンゴル |
63位 | ベネズエラ |
データ出典:World Digital Competitiveness Ranking 2022┃IMD
IMDは「経済状況」「政府の効率性」「ビジネスの効率性」「インフラ」の4要素をもとに、デジタルにとどまらない国別の「世界競争力ランキング」も毎年発表しています。同ランキングにおいて、2022年の日本は34位。1992年まで1位だったところから、現在まで順位は右肩下がりです。物価や政府の財政なども大きく影響しているものの、企業のアジリティ不足もマイナスの影響を与える要因の一つです。
ランキングを使って、マクロな視点から弱点と強みを把握し、高順位の国、その国の企業のあり方を参考にしていきましょう。
【参考資料】 ・World Digital Competitiveness Ranking 2022┃IMD ・World Digital Competitiveness Ranking 2017┃IMD ・令和3年 情報通信白書『第1部 特集 デジタルで支える暮らしと経済』┃総務省 ・令和2年度 0049-0337ポストコロナの経済再生に向けたデジタル活用に関する調査研究の請負 報告書┃総務省、株式会社三菱総合研究所 ・2020年12月号連載企画 海外公共分野ICT化の潮流 No.21 デンマーク政府におけるアジャイル開発手法の活用┃一般社団法人行政情報システム研究所 ・世界デジタル政府ランキング2022┃早稲田大学 ・IMD「世界競争力年鑑2022」からみる日本の競争力 第1回:データ解説編┃三菱総合研究所 ・World Competitiveness Ranking┃IMD
(宮田文机)
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