今回の交流会も会場は大入り満員だった
関西Kaggler会交流会を主催する関西Kaggler会は、関西を拠点とするKaggler(カグラ―)のコミュニティである。そもそも、Kaggle(カグル)とは、機械学習やデータ分析の競技会を目的としたプラットフォームを指し、その競技会に参加する人をKagglerという。その規模は国内にとどまらず、全世界に渡る。
関西Kaggler会事務局 太古無限さん
交流会は継続的に行われ、今回の交流会は2025年に入って2回目となる。開催時間は12時50分から17時35分だった。内容は普段と同じく、参加者によるプレゼンが中心となる。第一部は初心者向けのやさしいテーマ、第二部はKagglerガチ勢による本格的な内容、第三部はスポンサーからの最新情報である。
今回の交流会の参加者数は183名にものぼった。このうち、関西からの参加者数は92人であり、平日開催にもかかわらず、関西以外からの参加者が多いのが当会の特徴だ。一方、初参加者は64人と、敷居が低い交流会ともいえる。
文学部出身者のfumiさん
ここからは、いくつかのプレゼンを取り上げたい。第一部トップバッターはfumiさんだった。fumiさんは「爆進捗を生みながら旅行も楽しめる合宿の方法」と題し、Kagglerに限らず、どの業界にも役立ちそうな合宿のコツを伝授した。
前提として、fumiさんは月1回、都内某所で集まる「もくもく勉強会」に参加している。作業時間は合計6時間。25分作業・5分休憩サイクルの「ポモドーロ法」を取り入れ、メリハリをつけて作業を進める。もくもく勉強会の特徴は進捗実績を重視する点にある。最初に参加者の間で、各自の作業目標を共有。最後に各自が進捗実績を報告する仕組みだ。なお、作業内容は自由である。
「もくもく合宿」はKaggle以外でも当てはまる内容だった
この「もくもく勉強会」の延長線上に合宿が存在する。合宿は合宿地を探すことからスタートする。合宿地の選定にあたり、必須条件は「温泉・WiFi・椅子」がある宿とのこと。この3項目で、かなり絞られるとのこと。反対に書くと、この3項目があれば、ビジネスパーソンの合宿やテレワークに選ばれやすい、というわけだ。
合宿をする宿に着くと、全体のタイムラインを打ち合わせる。あくまでも合宿ということで、もくもく時間の確保を最優先にする。そして、普段の勉強会と同じく目標設定と進捗報告を全体で共有することが大切だ。もちろん、遊ぶことも忘れてはいない。このような工夫により、作業も遊びも達成できる合宿になるというわけだ。
マラソンとKaggleが両立すると説いたKobaさんのプレゼン
「運転にも応用できるのでは」といった声が聞かれた
次のプレゼンター、Kobaさんは「走りながらKaggleがしたい」という、冗談みたいなタイトルのプレゼンを行った。Kobaさんはマラソンを趣味とするKagglerだ。そもそも、マラソンや筋トレなど、運動やトレーニングを趣味するKagglerが多い。kobaさんによると、ランナーとKagglerには共通点が存在するという。マラソンランナーは、進んで自らを追い込み、自己ベスト更新の楽しさと月間走行距離、少しの変態性で構成されるとのこと。一方、Kagglerは進んで数多のコンペに参加し、LBを駆け上がる楽しさと数多くの実験と少しの変態性で構成されるという。つまり、進んで自らを追い込み、そこで得られる成果に喜ぶ点が似ているといえる。
ところで、マラソンの練習には「Jog」と「ポイント練習(スピード練習・ロング走)」の2種類が存在する。「ポイント練習」は大変厳しい練習で、とても練習中にKaggleはできない。一方、「Jog」は話しながら走れるペースのため、まだKaggleができる余地が残されている。しかも、マラソンの練習のうち、Jogが75%を占める。そこで、KobaさんはJog中に、ChatGPTを活用し、走りながらのKaggleの勉強にチャレンジした。
具体的には、ランニング中にChatGPT(Mobile)を起動する。そして、「○○コンペの1位解放のポイントを教えて」とか、「○○のアイディアをメモして」と命じる。教えて系はAPI経由で該当するディスカッションを抽出、要約して返答する仕組みだ。メモして系はアイディア専用のmarkdownファイルに話した内容をメモする。なお、GPTへの指示のコツは小出しにすることだ。
このようにして、Kobaさんはランニングしながら、Kaggleをする日々を過ごしている。一方、ランニングしながらKaggle用語を口にするため、周囲の目は気になるらしい。それでも、メダルを獲得することを思えば、自ずと恥ずかしさも消えるだろう。Xのポストを映し出したモニターには、運転中での利用など、さまざまなアイディアが飛び交っていた。
ソロ金を獲得した若松拓夢さん
今回のプレゼンでは、文系出身者のKagglerが目立った。第二部でプレゼンした若松拓夢さんもその1人である。若松さんはKaggle歴は2年ほどだが、今年に入り、ソロ金を獲得した。
そんな若松さんだが、理系出身ではない。出身大学は国立大学の法学部、専攻は政治学だった。学部時代は計量政治学を専攻し、そこでデータ分析のおもしろさに触れた。また、学部時代にデータ分析の基礎をしっかりと学んだことが大きかったという。
さらにデータを活かすために大学院で理系の道に進んだ。大学院では実験で用いる統計学の基礎も学習し、データサイエンティストになった。現在はデータ分析の力を活かしたキャリアを積んでいる。
文系からの理転のキャリアは実に興味深かった
社会人になり、講座などを通じて、コンペやチームで戦うことの楽しさを知った。現在は土日に会社のメンバーと共に、Kaggleのコンペにフルコミット。平日はKaggleに割く時間が確保できないため、土日のKaggleがいいリフレッシュになっているという。
若松さんはKagglerとして2つの方針を立てている。まず、目標を定め、継続的に進めることだ。具体的には、目標を達成した後の自分を想像する。二つ目は、本質の理解を怠らないことだ。Kaggleはデータサイエンスのため、数式の理解は重要だという。
ところで、トップバッターで発表したfumiさんも文系出身だ。しかも、文学部出身である。なぜ、文学部出身者がバリバリ理系のKagglerになったのだろうか。fumiさんは、哲学歴史学科を専攻し、哲学の授業で記号論理学を学んだ。記号論理学とは、論理を数式のようなもので表し、厳密な論理で処理していく学問体系だ。また、fumiさんは大学の授業で学んだ社会学にも興味を持った。社会学の授業では因果関係やデータのおもしろさを学んだという。
事務としてのキャリアを積み、業務効率化を通じてプログラミングを習得し、Kaggleなどのコンペに出るようになった。その過程において、大学で学んだことがジワジワと効いたという。
「文系の勉強は仕事には直接役立たない」というセリフは、社会の中で常識化している。かくいう私も文学部出身者で、痛いほど経験してきた。その中にあって、若松さんとfumiさんの大学での勉強・研究とKagglerとのつながりは実に興味深い。kagglerに限らず、実は大学で学んだことが、もっと社会で活躍できるきっかけになるのでは。そう思いながら、久しぶりに学生生活のたな卸しをしたくなった。
ともかく、文系、理系関係なく、少しでも興味を持ったら、関西Kaggler会交流会に参加されてはいかがだろうか。
なお、次の交流会は11月14日とのことだ。
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(取材・TEXT:新田浩之 編集:藤冨啓之・野島光太郎)
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