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「大阪・万博来場客は中高年層が大半」は本当か?スタッフとして働いたリアルな様相–生情報取材班 vol.07

4月13日に大阪・関西万博がスタートし、早3カ月が経過した。筆者はチェコ親善アンバサダーとして、ゴールデンウイークの5月3日と4日に、チェコパビリオンで働いた。その時の経験を基に、万博来場者の年齢層を考察したい。なぜなら、4月下旬に万博来場者の年齢層に言及した新聞記事が、SNSで反響を呼んだからである。

         

先行する「7割強が50代以上」という考察は正しいのか

※筆者撮影

4月27日付の読売新聞によると、万博来場者を年代別に分けたところ、7割強が50歳以上であることが推計されたという。スマートフォンの位置情報を分析する会社「クロスロケーションズ」が調査した。

調査結果をもう少し詳しく見てみよう。調査期間は4月13日から24日まで。対象範囲は会場内に滞在した人であり、これにはスタッフも含まれる。年齢層は70代以上が35%、60代が22%、50代が19%であり、50代以上は計76%にものぼる。続けて40代は10%、30代は6%、20代は5%、10代は3%となっている。

万博協会によると、13日から25日までの13日間での一般来場者数は、計約101万8000人(速報値)となり、100万人を超えた。記事では「来場者を増やすには、子育て世代の呼びかけがカギを握りそうだ」と指摘されている。SNSではこの記事に注目が集まり、中には「現役世代は万博も行けなくなるほど貧しくなったのか」という趣旨の投稿も見られた。
しかし、このデータだけを持って「万博来場者の年齢層は高め」と結論付けられるのだろうか。

まず、まず、4月13日から24日までの12日間に祝日はなく、土日は3日のみである。次に、4月中旬は有給休暇の取得が難しい。労働基準法では、4月入社の人は入社6カ月後の10月1日に有給休暇が付与される。また、年度初めに新しい部署に異動となり、いきなり有給休暇を取得するということも考えづらい。有給休暇の取得は早くてもゴールデンウイーク付近、つまり、4月27日以降になるのではないか。また、子連れの場合「もう少し様子を見てからの来場」というケースも多いように思う。

このように考えると、4月13日から24日までのデータに基づいて、「来場者数が50代以上が多い」と結論付けるのは、少し早すぎるような気がする。せめて、ゴールデンウイークを含んだ4月13日から5月13日までの期間で、調査するのが適当なように思う。

子連れは多いけど…若い人が少ないのは当たり前?実際に働いて感じた年齢層

※筆者撮影

先述したように、私はゴールデンウイーク期間中の5月3日と4日に、チェコ共和国のパビリオンで働いた。勤務内容は、主に屋上に設置されたブースでの観光案内だ。ブースでの観光案内は、10時(3日は11時)から15時。さらに4日は16時50分から17時20分まで、パビリオン内にあるホールでプレゼンを行った。あくまでも、一パビリオンであり、きちんとした統計をとったわけではないが、私の体験から連休中における来場者の年代について考察したい。

なお、万博協会によると、一般来場者数(速報値)は5月3日が約9万8千人、4日が約11万5千人だった。この数字は初日の4月13日には及ばなかったという。

まず、子連れ家族の多さに驚かされた。親の年齢は30代~40代といったところ。子どもの年齢は小学生低学年付近が多く、中学生以降は少ない。また、ベビーカーを利用した家族連れも多数見かけた。

これは、学校からの遠足の影響が考えられる。小学生高学年以上は、学校の遠足で万博に行く可能性が高い。反対に小学生低学年以下は、学校からの距離を勘案すると、遠足での万博来場は考えにくい。

次に、先ほどのデータが証明した通り、50代以上の存在感は強かった。特に旅好きの男性が、多かったように思う。50代以上のボリュームゾーンは、50代~60代といったところか。反対に混雑を回避したせいか、70代以降はあまり見かけなかった。

反対に高校生や大学生と思しき若年層は、少なかった。さすがに、3日・4日に行われた東京外国語大学チェコ語科による劇では、ホール内に学生の姿は散見されたが、本当に学生の姿は少なかった。同じく、20代の社会人も50代以上と比べると、存在感はなかった。

まとめると、多かった年代は30代~40代の子連れ家族、そして50代・60代。少なかった世代は10代半ば~20代ということになる。また、性別は全体的には男性・女性に目立つ差はなかったが、50代以上はやや男性が多いといったところか。

一連の結果から、万博来場者の年齢層と所得格差との関連性は、存在すると言わざるを得ない。ただし、これはあくまでもチェコパビリオンの屋上での雑感であり、他のパビリオンでは、大きく異なる可能性は十分にある。

特に大学生にとって5000円以上の出費はなかなか厳しいといったところだろう。参考までに、ユーキャンパスが2024年5月7日~13日の期間、アプリ「サークルアップ」に登録した大学生を対象に、ゴールデンウイークの過ごし方を尋ねたところ、「アルバイトをした」が50.2%にも及んだ。確かに、万博でアルバイトにいそしんでいる学生もいるだろうが、数としては限定的だろう。物価高から、より高額な万博を回避し、バイトに勤しむという流れが加速しているのではないだろうか。

料金体系がハードルに。学生にこそ万博を

※筆者撮影

私個人の意見として、高校生・大学生にこそ、万博に行ってもらいたい、という強い気持ちがある。私は高校3年生の時に愛・地球博(愛知万博)に行った。私の親はあまり海外に出ないドメスティックな性格もあり、高校生の修学旅行まで海外に行ったことがなかった。そんな中、愛知万博で、海外の方々との交流のおもしろさを体感し、今に至る。大げさに書くと、「万博で人生が変わった」といえるだろう。

だからこそ、ゴールデンウイークの間に、学生の姿が思ったほど見られない現状に歯がゆさを感じたのだ。まだ、高校生は学校単位で万博に行くチャンスはあるが、大学生にはボランティアやアルバイトを除くと、学校単位での万博入場のチャンスは高くない。

大学生が行きづらい要因として考えられるのが、料金と料金区分である。2025年5月6日現在、「1回入場可能なチケット(平日券)」は大人6000円、中人3500円、小人1500円となっている。ここでの「中人」は2025年4月1日時点で、満12歳以上17歳以下を指す。つまり、高校3年生は「中人」だが、大学1年生は「大人」になるのだ。

平日券でも大人は5000円以上であり、学生にとって厳しいのではないか。大学生のみ「学割」という形でチケット5000円以下にできないものか。

一方、15名以上の一般団体が期間中に、1回入場できる団体チケットでも大人6300円だ。大学のゼミであれば、5000円以下になる団体チケットが存在してもいいように思う。
いずれにせよ、大学生が訪れやすい万博にならないものか。それが、大阪・関西万博で働いた一スタッフの願いだ。

著者・写真撮影:新田浩之
2016年より個人事業主としてライター活動に従事。主に関西の鉄道、中東欧・ロシアについて執筆活動を行う。著書に『関西の私鉄格差』(河出書房新社)がある。
 

(取材・TEXT:新田浩之 編集:藤冨啓之)

 

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