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東京都庁で根付く有志のDXコミュニティ 組織を超えた「ゆるやかなつながり」が巨像を動かす

データのじかんでは、全国47都道府県の各地域のDXやテクノロジー活用のロールモデルや越境者を取材し発信している。「Local DX Lab」は地域に根ざし、その土地ならではの「身の丈にあったDX」のあり方を探るシリーズだ。今回は、自治体の枠を超えて日本のデジタル化をけん引する東京都だ。デジタルガバメントやスマート東京の実現を推進する東京都デジタルサービス局の清水直哉さんと内田康雄さんに話をうかがった。

         

デジタル局の配置、デジタルツイン実現プロジェクトの実施、デジタル人材増強。東京都庁では、知事や議会の後押しもあり、DXやデジタル化による全庁的な業務改革や都民のQOL向上を図る動きが強まっている。

その水面下で芽吹き、ゆっくりと根付きつつあるのが、2021年2月に有志職員が立ち上げた非公認のコミュニティ「都庁DX部(仮)」だ。業務外の情報共有など「ゆるやかなつながり」を目的に設立された同コミュニティだが、自主的なの活動も活発化している。特に有志が作成した「Excelステッカー」はSNSで大きな注目を集め、外部の自治体との連携も始まっている。

都庁職員有志で作成されたステッカー(業務時間外の活動)。Excelの乱れは心の乱れには日頃より、Excelを正しく使うことがデータ整備・利活用の第一歩という信念が込められている。GitHubでは、誰もがDLして印刷できるように「Excelの乱れは心の乱れ」画像が配布されている。

今回は組織の枠組みを越境し、60人以上が集う同コミュニティを立ち上げから関わっている清水直哉氏と初期メンバーの内田康雄氏にお話を伺った。なぜ、「仕事の時間や組織」を超えて、DXの推進活動を行っているのか。そこには都庁という「巨像」を動かすための「ゆるやかな力」と、民間企業を辞めて都庁で働くことを選んだ彼らの「期限」に対する真摯な姿勢があった。

盛り上がるオープンデータの活用
求められる「やり続ける」環境づくり

東京都デジタルサービス局戦略部デジタルシフト推進担当課長 清水直哉氏

2021年、東京都は都政のQOS(Quality of Service)を飛躍的に向上させるため、デジタルサービス局を設置した。また、それ以前から民間のデジタル人材を採用し、プロパーの都庁職員とともにデジタル化やDXに取り組み続けており、さまざまなプロジェクトがカタチになっている。

例えば、オープンデータの公開と活用の促進や、BIツールなどローコードツールを利用した庁内でのデータ活用、庁内外でのデータ連携を進めるデジタルツイン実現プロジェクトなど、分野やアプローチはさまざまだがその数は盛りだくさんだ。

清水 「オープンデータによって都民の皆さまのニーズを伺う機会も増えました。例えば『PDFで公開されている都営地下鉄のエレベーター点検日程の情報を、より使いやすい形式で公開して欲しい』という声を反映して、CSVで公開するなど、利用者のニーズに合わせたオープンデータ公開事例も増えつつあります。また、従来は冊子やPDFで公開していた都の財政データを、これまでBIツールを利用したことがなかったプロパー職員が自らBIツールを用いて『見える化』に取り組むなど、庁内でも積極的にデジタルを活用していこうとする動きは確実に増えつつあります。そのようなデジタルに取り組もうとする職員は各組織に増えていますが、孤軍奮闘されている方も多いため、横のつながりを作りたい、頑張っている方を一人にはしたくない、という理由もコミュニティを作成した大きな理由の一つです」

東京都デジタルサービス局戦略部デジタルシフト推進担当課長 内田康雄氏

内田 「これまで、東京都公式ホームページのアクセス状況の公開といったデータの見せる化に取り組んできました。その結果、誰かが今までの活動でデータに触れて何かに気付き、『あぁ!』という膝を打つリアクションがもらえる機会は増えていると実感していますね。一方、オープンデータの活用ニーズが高まるほど『使い勝手の悪いデータ』や『データ加工の手間』の課題が大きくなってきていると感じています。コミュニティはこのようなDXの次のステップには欠かせない要素だと考えています」

東京都Webサイトアクセスサマリー
データドリブンの第一歩は自分のホームページの数字を見ることからという信念のもとWebアナリティクスを都全体の50サイト以上に入れて集めてきた集計済みアクセス解析データをダッシュボードで公表。東京都オープンデータカタログサイトでオープンデータとしても公開中。月間800万UUという数字からも東京都のWEBサイトは大変大きな情報発信・ポータルとしての役割を担っていることがわかる。

つながりから生まれるアイデア
実現のカギは「ノリ」で楽しむこと

コミュニティの設立当初は、SlackでDXやデータ活用に関わるニュースを共有するといった活動が主だった。ただ、日々のやりとりで生まれたのが「Excelの乱れは心の乱れ」というフレーズとステッカーだ。BIツールやデータベース形式における入力と蓄積の土台となるExcelの使い方のポイントを4つ上げており、TwitterなどのSNSで大きな話題を呼んだ。

清水 「反響の大きさは、正直なところ想像していませんでしたね(笑)。元々は、都庁の各局がDXやデータ活用について『なにかやらねば』という意識が芽生えつつある一方、『何をしていいのか分からない』といった声も根強い現状に対して、色々な人が集まるコミュニティだからこそ、アプローチできることはないかと考えたことがきっかけでした」

非公認の活動なので、いきなり大きなことはできない。ただ、現場に立っている人たちが集まるからこそ、アプローチすべきポイントとして「Excel」に焦点が当たったのだという。

清水 「データ活用と言っても何をしていいのか分からないという現状をもう少し掘り下げると、そもそも『日々の業務で扱っている情報が、データとして活用しやすい状態ではない』ということに気がついていないことが課題だと考えたのです。その最たるものが、どの組織でも利用しているExcelでした。そもそもExcelそのものを表計算ツールではなく資料作成ツールとして利用している人は少なくありません。ただそれは、これまで仕事で求められることや会議などに提出する資料づくりといった目的に対して、利用できるツールが限られた環境で最適化を図った結果なので『正しい使い方に気付いてくれ』という方が難しいと思います」

内田氏作成のループ図
ループ図はシステム思考の中の代表的なツールで要素の変化が他の要素にどのように影響を与えていくか、複数の要素の関係がバランスをもたらすのか、あるいは拡大や衰退をもたらすのかを可視化する。上記図の中で使い勝手の悪いデータが、その後のデータの利活用の足枷になっている。

内田 「データ活用において現場が『何のためにやっているんだろう』と思ってしまう状況は、絶対に避けなければなりません。Excelの利用についても同じだと思います。ただ、幸いなことにオープンデータやBIツールの活用推進によって、都庁の仕事の環境は変わりつつあります。それこそ、私はデジタル広報の推進という役割も期待されて入都したのですが、その時点では自前のデバイスで確認などを行っていたので(笑)。もちろん今は、ハードもソフトもデジタル環境が整ってきていますよ。業務のデジタル環境が整ってきたからこそ、『ツールの使用者』として業務に携わる人たちもその環境に合わせて少しずつ『データベースの原則』や『デジタル上でのコミュニケーション』を取り入れて変化しなければならない段階になったと考えています。」

このような背景のもと、誕生したのが「Excelの乱れは心の乱れ」というステッカーだ。ただ、実際は大きな目的や責務があったわけではなく「ノリ」が大きかったと両氏は語る。

清水 「きっかけとなったのは、都で行ったデータ利活用事業に関して、宮坂副知事が発信した『Excelの乱れは心の乱れ』というツイートです。このツイートに対する反応を見て、今までExcelの使い方なんて気にしていない人にも興味を持ってもらえそうだなと思い、『じゃあこれを広めていこうよ』というノリで生まれたのが正直なところです。宮坂さんとのコミュニケーションの中で、『広めるためにシールも作ろう!』という流れになり、勢いで本当に作っちゃいました(笑)通常の業務のなかでは、なかなか生まれなかったアイデアですし、業務ではカタチにするのも難しかったと思います」

当然、有志による非公認の活動なので都税などは使われていない。自分たちの時間と労力、そしてお金を使った試みだった。

任期付きの現場。
より多くの成果を残すために何ができるか考え、実行する。

行政に刺激を与え、盛り上げる協力者である「貢献者(コントリビュータ)」になりたい。その想いが、業務外であってもDXやデジタル化の推進のコミュニティの活動などを精力的に行っている両氏の共通の原動力だという。

清水 「私たちデジタルシフト推進担当課長は民間企業を辞めて都庁にきていますが、任期があります。だからこそ、限られた期間のなかで、一つでも都民の皆様の生活が向上するような成果を挙げ、かつ都庁をどれだけ良くできるかを求めるのは当然だと思います。コミュニティを作ったのも、今、各局で孤軍奮闘していることが多い担当者とのつながりをつくることはもちろん、今後、デジタル化などの使命を追って入都するICT人材の人たちの居場所を残したいという狙いもあります。改善しつつあるとはいえ、必ずしも周囲の理解や協力をスムーズに得られるわけではありません。同じ志のある人が集まったコミュニティがあれば所属していれば、自身の状況に悩んだときにも解決策を見つけられると思います。一緒にコミュニティを盛り上げてくれる方もまだまだ募集しています!」

Excelステッカーもノリと勢いで展開が広がっている。誰でも印刷して使用できるようにGitHubで公開しているほか、他のステッカーや自治体にもそのコミュニティが波及しつつある。

清水 「Excelステッカーを作る前には、経産省が作っていた「METI DX」ロゴの東京版「TOKYO DX」ステッカーを作成し、都庁内や区市町村でDXを推進する方に配布していました。それがきっかけで札幌市や奈良県など他の自治体でもDXステッカーをつくるなど、『ゆるやかなつながり』が広がっています」

内田 「DXは個人で頑張っている方が多く、Excelステッカーはそのような方々に響いていると思います。とくに自治体では頑張っているコア人材が『自治体に一人レベル』にまでなってしまうケースは珍しくありません。実際、SNSのDMでも声をいただくようになりました。今後はそのような共鳴する方々を巻き込んで、組織の枠を超えて一緒に盛り上げていきたいですね。オフィシャルじゃない『有志』だからこそ、できることはたくさんあると思います」

DXやデジタル化というと、一般的には事前計画を練り上げ、レポートを作成して都度PDCAを回すといったカタチを想像しがちだ。ただ、最前線に立つ両氏の取り組みはそれだけが大切ではないことを強く感じた。「今後、残り続けるものを作る」という思いで活動する両氏と都庁DX部(仮)の取り組みに注目だ。

 

清水直哉(しみず・なおや)氏
東京都デジタルサービス局戦略部デジタルシフト推進担当課長
2003年3月慶應義塾大学卒。ISPにてネットワークやWeb・スマホアプリ等のサービス企画・運用等を担当、大手SIerのスマートシティ部門で事業企画に従事。2017年入都、オープンデータやデジタルツインなど、都のデジタルシフトの推進に携わる。

内田康雄(うちだ・やすお)氏
東京都デジタルサービス局戦略部デジタルシフト推進担当課長
2007年3月早稲田大学卒。インターネット広告会社でWEBアナリストとしてキャリアをスタート。2013年に退社後、マーケティングの支援会社で広告宣伝・マーケティング領域のDX推進や、データ基盤活用・ダッシュボードのコンサルティングなどを経て、2019年末にデジタルシフト推進担当課長の公募一期生として東京都に入都。デジタルサービス利用者の満足度に関わるUI/UXの向上やデータ活用に関する助言、システム開発に関わる技術面でのアドバイスまで幅広い支援を行なっている。著書に『デジタル変革マーケティング』など。

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月間60万人以上に読まれるデータ・DXに特化したWEBマガジン「データのじかん」の人気特集「Local DX Lab」。「Local DX Lab」では全国47都道府県の各地域のDXやテクノロジー活用のロールモデルや越境者を取材し、地域に根ざし、その土地ならではのDXの在り方を探っています。本セッションでは地域毎のDXのトップランナー御三方を招き、「DXの多様性と法則性」をテーマにディスカッションして参ります。

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(取材・TEXT:藤冨啓之 PHOTO:Inoue Syuhei  企画・編集:野島光太郎)

 

 
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