家庭用ゲームやネットワークゲーム、玩具、映像・音楽、アミューズメント施設、その他関連事業など、多彩な事業を展開しているバンダイナムコグループ。バンダイナムコネクサスは、その中のエンターテイメントユニットと呼ばれるグループに属している。事業の柱は大きく2本あり、1本はIPエンハンス部による「バンダイナムコグループが、世界中のIPファンとつながるための取り組み」。もう1本は、データ戦略部による「バンダイナムコグループ各社の事業データを集約・分析して、意思決定やデータ分析を支援する取り組み」だ。
同社では、マネジメントを組織運営と業務のディレクションの2つの領域に分けている。前者の組織運営は個別のゼネラルマネジャーが担当、後者を一手に引き受けているのが、今回の1人目の登場人物であるCDAO(Chief Data Analytics Officer) データ戦略部 IPストラテジーオフィス オフィス長の西田 幸平氏だ。同氏はいわば、社内の全プロジェクトを組織横断的に統括・管理する役割を担うプロジェクト全体の責任者だ。
2人目は、データマネジャーの吉村武氏。各社のデータ基盤の開発やデータマネジメント推進を支援している。3人目の柑本麻衣子氏は、各グループ企業の経営戦略や課題解決をデータ活用の側面から支援しているという。
「当社の特色の1つに、多彩なキャリアやスキルを持つ人材がそろっており、世代のバランスもとれていることが挙げられます。まず、私が2017年の会社設立時からいる最初の世代ですが、設立当初はメンバーが10人くらいしかいなかったため、何でも自分たちでやらなければいけなかった。私も自らデータ基盤の開発から分析まで、全てを手がけていました」(西田氏)
この第1世代が築いた基礎を引き継いだのが、吉村氏ら第2世代だ。同氏らが入社した2021年頃には、社内の組織構成がグループ各社の特性を発揮できるよう、発展的に細分化し、そのデータの管理の在り方が課題になっていたと、吉村氏は振り返る。
「すでにデータ基盤は確立されていましたが、データマネジャーの視点から見ると課題がありました。そこでデータ管理の高度化や、蓄積されていた技術的負債の解消なども含めて、どう効果的な統制を実現するかに注力していきました」(吉村氏)
ここまで積み上げてきたデータ基盤や管理ルールを活用して、ビジネス面での活用を加速する役割を担っているのが、柑本氏らの第3世代だ。
「これまで蓄積されてきたデジタルゲームのログなどは、今後も加速度的に増えてきています。この膨大なデータ資産を分析して得られたものを、第2世代までの方々が築いた基盤を活用して、グループ会社のさまざまな課題とマッチングして提案しています」(柑本氏)
バンダイナムコネクサスは、会社設立から7年と、バンダイナムコグループの中ではかなり若い企業だが、データ基盤の構築から統制ルールの確立を経て、さらなるビジネスへの貢献へ、データ活用の王道を着実に歩んでいるようだ。
一口にデータ人材といっても、そのタイプはさまざまだ。ひたすらデータを分析する研究者タイプから、マーケティング業務の一環として現場で活躍するビジネスパーソンタイプもいる。バンダイナムコネクサスのようなエンターテインメントに大きなフィールドを持つ企業では、どのようなデータ人材が適任なのだろうか。吉村氏は、例として「最近のデータ分析の急速な進化を楽しめる人」を挙げる。
「今のデータエンジニアの技術領域は、『ドッグイヤー』といわれるように1年前には不可能だったことが、今年は当たり前になっているようなスピード感で進化していく世界です。そういう技術の発展に面白さを覚えるような、知的好奇心の旺盛な人は向いています」(吉村氏)
一方、柑本氏はグループ企業の業務支援を手がける立場から、データ分析をビジネスに結びつけるストラテジスト的な動きができる人材も望ましいと語る。
「ストラテジストという職種は、データエンジニアとは少し視点が異なり、データ分析の結果を実際の事業に生かす仕事です。このためデータに関する技術的知識だけにとどまらない、その会社の業務や業界に関する幅広い知識。そしてもう1つは、根底にある課題を見抜く洞察力と認識力が求められます」(柑本氏)
一方で西田氏は、多くのプロジェクトを通じてデータ人材と接してきた経験をもとに、「本当に優れたデータ分析者は、分析能力以外の部分が優れている」と語る。しかもそういう人は、むしろ分析以外の能力が非常に優れているために、トータルの結果として、高い分析力を持っているように見えるのだという。
もう1つ西田氏は、データ分析能力以外の重要なポイントを挙げた。それは「将来も長く活躍していくために必要なこと」だ。若いうちは腕を磨いて意欲的に仕事をしていけば評価されるが、組織の中にいる以上、いつまでもそれだけで済むわけではない。この示唆に対して吉村氏は自分を振り返り、「エンジニアとしての闘い方が変わってきたかもしれないと考えているところです」と明かす。
若い頃はデータ分析などの専門領域をいかに深く究めるかに集中していたのが、ある程度ベテランになってくると、技術以外のさまざまな領域も担当するようになる。この結果、いわゆるスペシャリストからゼネラリスト的な「闘い方」に変わってきたというのだ。
加えて吉村氏は、会社と個人の関係性も変わってきていることを指摘。「これはSNSが広がってから顕著になってきていることであり、いわゆるインフルエンサーのような個人の存在が影響している」と見解を述べる。
「例えば、以前は顧客に何かを説明する場合も、話者が誰かはあまり重要ではありませんでした。今は『誰が話すのか』に注目が集まってきています。エンジニアとしての将来を考える場合、会社員とはまた少し異なった軸で自分なりのキャリアをつくれるかが、これからは重要になってくるのではと考えています」(吉村氏)
バンダイナムコグループの最大の共通項でありアドバンテージである、エンターテインメントやクリエーティブ領域におけるデータ分析については、どのように考えているのか。柑本氏は、もともと金融業界でデータ分析を手がけてきた経歴を持つ。転職に当たっては、人を「楽しい」や「安心」というポジティブな気持ちにできる事業に行きたいと考えていたという。
「エンタメ系の分析では、人の感情など数字に表しにくい部分をどう捉えるかという難しさがあります。それでも行動は分析結果、ログデータとして記録できるもの。まずはその分析を高度化していく辺りから手がかりを探っていきたいと思っています」(柑本氏)
吉村氏も、「同じエンタメ系でも、事業領域の分野は分析しやすいのですが、クリエーティブ領域は本当に難しいです。面白くて心を打たれるアニメをつくるために欠かせない要素を尋ねられ、『これです』と自信を持って分析結果を提示することは、今はできません」と、この領域の難しさを語る。
西田氏も、「クリエーティブ分野のデータ分析については、改善する余地がたくさんあります」と語り、すでにスポーツの試合の分析などを手がかりに、具体的な取り組みを始めていることを明かした。
その成果が姿を現すのは、来年か、はたまたその次の年なのかは分からないが、バンダイナムコネクサスのデータ分析が、エンターテインメントやクリエーティブに新しい世界をもたらす日を楽しみに待ちたい。
以上、ここまでバンダイナムコグループのデータ活用を支援するエンジニア3世代の「内輪トーク」を振り返った。バンダイナムコネクサスがデータ分析を通じてエンターテインメントやクリエーティブ領域に新たな価値を生み出そうとする挑戦や熱意が伝わってきただろうか。西田氏、吉村氏、柑本氏の対話をさらに詳しく知りたい方は、以下の動画をぜひご覧いただきたい。
【ボクらのデータの時代 #1】バンダイナムコネクサス(前編)
【ボクらのデータの時代 #2】バンダイナムコネクサス(後編)
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