さまざまな議論をする際にかかせないのが肯定派、否定派の意見を聞きながら結論を模索する、という「両論併記」です。
そして、両論併記が一般的になったことで十分な科学的検証を経て獲得された「事実」についてすら両論併記を行う必要がある、という主張が広がりを見せているのです。
本書の中で一例として挙げられているのが地球温暖化です。例えば、「地球温暖化はない」と考えている人と「地球温暖化がある」と考えている人が議論した、とします。
「地球は温暖化の傾向にある」という根拠については気候、地形、環境などさまざまな要素についてさまざまな長期的な調査・研究という客観的な事実を示すことができますが、「地球は温暖化の傾向にない」という主張の根拠について同様の調査・研究を示すことは難しく、主観的な意見や個人的な経験に基づいて語るしかありません。
このように両論併記の原則に則り、科学的・客観的な事実と個人的・主観的な事実を同等のものとして議論に載せることを「偽の等価性」と呼ぶといいます。
科学的な事実と個人の感情、という全く異なる性質のものを同じ尺度で測ろうとしても、うまく答えは出せないものです。
実際、このような「結論の出しようのない議論」が続くことで世界的な地球温暖化の改善策をなかなか講じることができていない、というのは多くの人が実感しているのではないでしょうか?
では、なぜ「偽の等価性」がここまで市民権を得てしまったのでしょうか?
その背景には企業や政治家による策略だけでなく、人間が持つ認知バイアスが大きく影響しています。
特に影響が大きいのは「バックファイアー効果」と「ダニング=クルーガー効果」です。
特定の思想を持つ人の信念に対し、それを反証するエビデンスが提示された時、その人の信念がより強くなることをバックファイアー効果といいます。
つまり、ある誤った信念を持つ人に対し、その信念を否定する「科学的な証拠」を提示した時、その人は自分の信念を撤回するどころか以前より強く誤った信念を信じるようになるというのです。
ダニング=クルーガー効果は「あまりにも愚かすぎて自分が愚かであることを知らない」効果とも呼ばれ、 能力のない人ほど自分の能力に高い評価を下すという認知バイアスです。
はじめからあらゆる能力が高い、という人はいないため、全ての人においてこの認知バイアスは生じえます。
このように認知バイアスは誰に起こってもおかしくないものです。しかし、これらが「偽の等価性」と結びつくとどうなるかは容易に想像できるかと思います。
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