「ゴミ拾いSNS」と聞いて、どんな感情を抱くでしょうか? きらびやかなSNSと、ゴミ拾いというのはある意味相反するような気がしますが、そんな正反対のモノ同士が共存するSNSが存在します。それが、今回紹介する『ピリカ』です。
ピリカでは、拾ったゴミの写真を専用プラットフォームにアップできます。アップすると、地図上に拾ったゴミ写真が投稿されます。しかもただ写真が上がるだけではなく、ほかのユーザーの投稿に対して「握手」もしくは「ありがとう」を贈ることができるのです。もちろんコメントも書き残すことが可能です。
この独特なSNSは、どのように生まれたのでしょうか? ピリカが目指す最終目標について、株式会社ピリカCEOの小嶌不二夫氏のインタビューを引用します。
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そもそも「ポイ捨てゴミ」がなぜ存在するかというと、「回収されるゴミ」よりも「ポイ捨てされるゴミ」のほうが多いからなんです。いつかこの数字を逆転してやろう、と思っています。
4万ダウンロードでも事業は黒字に。ゴミ拾いアプリ「ピリカ」が語る1,700万のポイ捨てデータを集めてわかったこと。 | アプリマーケティング研究所
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「ゴミを捨てるな」といった看板や、ゴミ拾いボランティアをする人はよく見かけます。しかし、明確に数字で示している例は、実は少ないのではないかと思います。
ピリカの場合、
「ポイ捨てゴミが存在する理由=ポイ捨てされるゴミ>回収されるゴミ」
と明確に数式化し、拾われたゴミをSNS内で数値化しているところがロジカルであると言えます。
筆者は以前、ユーザーによるデータ収集によって調査研究を行っている事例を記事にしました(カメムシの生息地の変化がスマホでわかる!?データ収集と調査研究の新しいカタチ!)。
この記事では、東南アジアにしか生息しないような虫が、なんと関東北部に生息していることが明らかになっています。ユーザーは専用のアプリで生き物を撮影するだけで調査に参加することができます。
遊びながらできるこのような「参加型企画」により、新たなデータが集積されていくというのが、昨今のデータ収集のトレンドになってきているのです。ピリカも、この例に近いものがあります。ユーザーはゴミを拾って写真をアップする。ほかのユーザーは、その写真に対して「ありがとう」を贈る。写真の投稿主はモチベーションが上がり、さらにゴミ拾いに邁進する。こういった良い循環が生まれているのです。
ところで、ゴミ拾いSNSと聞くと、ニッチな印象を受けます。ピリカのダウンロード数は約4万(2015年06月17日時点)。例えばFacebookの2022年9月時点での国内月間アクティブユーザー数が2600万人ですから、ピリカの少なさは一目瞭然です(ピリカがダウンロード数であるのに対し、Facebookがアクティブユーザー数であることに注意)。しかし、それでもピリカは黒字化に成功していると言います。どのようにして収益を得ているのでしょうか。
こちらの記事によれば、収益は協賛などが主で、協賛企業からの収益が50%、自治体からの収益(調査費やサイト開発費など)が50%だそう。企業協賛にはいくつかメニューがあるようですが、年単位の額を支払うことでピリカ上にバナーを掲載したり、「地域貢献」をPRするウィジェットを使ったりすることができるようになるとのことです。協賛企業の半分は廃棄物などゴミ業界の会社らしいです(2015年現在)。
一般的に社会課題を解決しようとする場合、まず壁にぶち当たるのが収益源の確保です。利益を生みにくい事業の場合、なかなか企業は投資してくれません。そのため、スタッフのほとんどがボランティアとして無給で協力してもらっているところもあるくらいです。しかし、事業側と企業のニーズが一致すれば、協賛を得ることができるということがわかります。また、ピリカでGoogle検索をすると、地方自治体のページが何個も出てきます。中を読むと、ピリカの使い方を丁寧に解説しているページもあり、いかに行政とも良好な関係を築けているかがわかります。
2015年当時のデータにはなりますが、ピリカが役員2人プラスアルバイト3人を雇っても黒字化に成功しているというのは、本当に凄いことだと思います。同じく社会問題解決のために事業を始めたのは良いが、なかなか黒字化できていないという会社・組織にとっては良い手本になるのではないでしょうか。
SNSというと、一般的には自分のことを外部に言うツールです。時に、いかに自分が満たされているのか、幸せ自慢をしてしまうこともあります。それに対して反発する人たちによる”口撃”によって忌避され、最悪の場合は炎上してしまうことさえありえます。
しかし、ピリカはそんな殺伐とした世界ではありません。どこかインターネット黎明期の牧歌的な雰囲気があります。そして、環境問題という社会課題の解決にもつながっている。これは今までにない新しいSNSの形であり、今後のトレンドになるかもしれません。優しい世界のほうが、みんなにとって幸せですからね。
【参考記事】 ・4万ダウンロードでも事業は黒字に。ゴミ拾いアプリ「ピリカ」が語る1,700万のポイ捨てデータを集めてわかったこと。 | アプリマーケティング研究所
(安齋慎平)
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