まいどどうも、みなさん、こんにちは。
わたくし世界が誇るハイスペックウサギであり、かのメソポ田宮商事の日本支社長、ウサギ社長であります。これまでは毎週お届けしておりましたが、前回お伝えした通り、今月からは隔週でのお届けとなります。実に二週間振りということもあり、前回何を書いたのかさっぱり覚えていなかったのですが、今確認すると前回は「旧石器捏造事件」についてお話ししておりました。
石器も石器でかなり興味深いものであり、石器というテクノロジーを採用したことも人類の進化の中では超ウルトラ級の発明であることに間違いはないのですが、石器なんて考えようによってはラッコだって使ってるじゃないか、と言われればその通りでありますし、チンパンジーだって木の枝を削ってシロアリを釣り出したり、葉を丸めて水を吸い取るスポンジを作ったり、石をハンマーとして使うなどしておるわけですので、そう考えると、石器レベルのテクノロジーでは人類と人類以外の境界線を引くことは難しいのではないか、と、そう思うわけです。
しかしですよ、石器時代の人類は地球の歴史から見ると信じがたい速度で経験を積み、叡智を蓄え、研鑽を続け、オープンイノベーションを合言葉にABテストなどを駆使したトライアンドエラーを繰り返し、切磋琢磨に切磋琢磨を重ねた結果、ついに「土器」というアバンギャルドなことこの上ないテクノロジーを発明するに至ったわけです。日本で石器時代が始まったのが4万年ほど前だと言われており、土器が発明されたのがおよそ1万6000年ほど前とされていますので、たった2万4000年ほどの間に、石器人間から土器人間へと人類は進化を遂げたことになります。初めて土器を目にした人はきっと「こんなの一万年前には想像もできなかった!」と驚きのあまり腰を抜かしたのではないでしょうか。そして、この2万4000年の歳月をかけて開発されたこの土器ほど人類の文明を大幅に進化させたものはもしかしたらないかも知れません。いや、ないでしょう。ないに決まってます。わたくしはかねてから、人類史上最高であり最上の発明は土器である、という説を唱えて生きているのですが、なんせウサギなもので、ウサギが人類について我が物顔で語るな、など多方面からお叱りを受けることもあります。しかし、今回はこの土器というものがいかにイノベーティブでレボリューショナリーだったのかについてお話しさせていただきたいと思います。
まず、現代社会を生きる我々にとっては使い古されまくった、ざっと1万年前にはコモディティー化したであろう当たり前すぎるテクノロジーである土器のいったい何がすごいのか、という点からお話しさせていただきましょう。逆に、土器がない時代を想像してみてください。土器というか器がなければ「ものを入れる」ということができません。水を蓄えておく、などのようなこともできないのです。
しかし、器としての機能自体が土器の革新的なところではありません。器のようなものは貝やココナツなど土器以前にも存在し使われていたはずです。木を削り出したものや葉を編んだようなものもあったでしょう。ですが、土器というものは粘土に水を加えてこね、それを練り固めることによって成形し、さらにそれを焼き固めることで仕上げたものです。イギリスの考古学者ヴィア・ゴードン・チャイルドの言葉を借りるとすれば、これは「人類が物質の化学的変化を応用した最初のできごと」なのです。なんという偉大なる発明なのでしょう!もっと言うと、石器は石を用途に合わせた形に削り出していく引き算式の成形ですが、土器は粘土を足していくことで任意の形を作ることができる足し算式の成形であり、アイデアを形にすることができる画期的なメソッドだったわけです。
長岡市にある馬高縄文館に展示された土器たち
そして、この土器の発明は概念的な部分のみに留まらず、人類の暮らしに多大なる豊かさをもたらします。まず、なんといっても食生活です。土器の登場により、「煮る」「茹でる」といったこれまでになかった調理方法が発明されます。それまでの人類の調理技術といえば、「焼く」「燻製」「天日干し」レベルだったわけですが、土器が発明されたことにより、スープや煮物を調理すること、さらには木の実のアク抜き、解毒や殺菌のような高騰戦術をも実践可能になったわけです。これによりドングリやトチの実など、そのままでは食べられなかったものが食べられるようになったのです。ジャムやソースと言った調理方法も土器の発明があったからこそなのです。土器を作ること自体も化学反応を必要としていますが、土器を使うことでさらなる化学反応を意図的に誘発することが可能となったのです。言って終えば、土器により人類は化学反応を味方にすることに成功したわけです。これぞ真のイノベーション。
調理方法だけではなく、保存や貯蔵、という面でも土器は活躍します。これにより食料の安定確保が可能になります。我々に備蓄米の概念が備わっているのも全て土器の発明のおかげなのです。古米も古古米も古古古米も全ては土器の発明に起源します。そして、貯蔵という概念が可能になったことにより、移動型の狩猟生活から人類はかねてからの憧れであったのかどうかは知りませんが、農耕を主たる食糧供給の手段とする定住生活へとOSをアップグレードさせたのです。定住することにより、集落や社会はさらなる発展を遂げ、さまざまな文化が深まることになります。これも全て土器のおかげなのです。もともと肉を中心とした食生活だった人類が植物ベースの食事を摂取するようになり、やがて人類の中にはベジタリアンやビーガンと呼ばれる人たちが登場するのですが、これもまた全て土器のおかげと言って差し支えないでしょう。
そして、土器というものは現代の我々からするとデータの宝庫と言えます。近年では放射性炭素年代測定のやり方も進化しており、微量の放射性同位体や安定同位体を高感度で測定するための分析手法であるAMS法(Accelerator Mass Spectrometry、または加速器質量分析法)を用いることでかなりの精度で土器が作られた時代を調べることができるようになっているそうです。それによると現段階での日本最古の土器は1万6500年から1万5500年ほど前だと言われています。前述した通り、日本で石器が使われていた時代は4万年くらい前(後期旧石器時代)であり、土器が出現するまで2万年以上の時間を必要としたわけですが、人類最初のイノベーションである火の使用について考えると、人類が自然の中にある火を使い始めたのはおよそ100万年前であり、それから意図的に火を起こすようになるまでにざっと60万年ほどかかっています。この時間軸と比較すると人類の進化のスピードはこの段階ですでに恐ろしいほど加速していることが見て取れます。このようにイノベーションは加速していく一方なのであります。しかし、加速していく中でどんどん小粒化していることも否めない事実でありまして、Windowsの右クリックの発明やiPhoneの発明なんかも我々の人生の中ではかなり大きなイノベーションではあったのですが、いやはや人類史と比較すると、イノベーションってどういうことだっけ?と初心に帰るような心持ちになると同時に、土器の向こう側に果てしない人類の歴史とその中に確かにあったはずの日々の営みに想いを馳せるわたくしなのです。そして、イノベーション、イノベーションと軽くイノベーションという言葉が口にされ、起業家の数だけイノベーションが起きる今日この頃ですが、真のイノベーションというのは年に数回も訪れるような類のものではなく、人類の歴史を数万年単位で変えていくものであり、人類史の視点に立って改めてテクノロジーというものの存在やその影響について考えさせてくれるのがこの土器という概念であり、発明であり、時代を超えた確固たる存在なのであります。
そんなわけで、今回は土器の素晴らしさとそのロングセラーの秘訣についてお話ししてみました。いやぁ、開発者たちが新製品の発表まで2万年以上もかけただけあって土器とは本当にディテールまでのこだわりが冴え渡る、開発者たちの魂の息吹が感じられる本当にナイスなイノベーションですね。今年の個人的な「ベスト起業家オブザイヤー2025」を発明者には差し上げたいと思います。それではまた再来週の水曜日にお会いしましょう。
というわけで、再来週の水曜日にお会いしましょう。ちょびっとラビットのまとめ読みはこちらからどうぞ!それでは、アデュー、エブリワン!
(ウサギ社長)
・土器 | Wikipedia
・【原始・古代】石器の移り変わり -世田谷の旧石器から古墳時代まで- | 世田谷デジタルミュージアム
・縄文の食生活 | 鹿児島県上野原縄文の森
・土器の発明はヒトに時間と豊かさを与えた大イノベーションだ | DIAMOND Online
・縄文時代ってどんな時代? | JOMONぐるぐる
・土器はいつから? 人類文化の画期を探る | ChuoOnline
・道具の発明・発見の歴史 | 経済産業省 北海道経済産業局
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