About us データのじかんとは?
「日本のデジタル人材はテックジャイアントやスタートアップ企業に寄りがちである」と指摘するのは現在小林製薬株式会社で執行役員CDOユニット長を務める石戸亮氏です。石戸氏は「これまでデジタル領域でキャリアを積んだ方が、日本のメーカー企業で活躍できるチャンスは多くあり、人材が流動することで価値が生まれる瞬間もたくさんある」と語っています。
そもそも、石戸氏はどんなキャリアを歩んできたのでしょうか。
「私は新卒で株式会社サイバーエージェントに入社。最初の数年は広告営業を担当していました。のちにSEOコンサルティングの株式会社CAテクノロジーや、スマホ広告の株式会社CyberZなどの子会社の立ち上げを担当します。その後、当時のインターネット産業はシリコンバレーが震源地で、多様性がありグローバルで勢いのあったGoogleの日本法人に移りました。GoogleではNetflixの日本・韓国のローンチを支援したり、テレビ局、新聞会社などメディア・エンターテイメント業界顧客向けにデジタルマーケティングの仕事を行います。
それから、僕自身のキャリアを考えたときに『事業を立ち上げる方が得意』と思い、DatoramaというイスラエルのAI企業の日本法人の立ち上げをやっていました。ただ、Datoramaは 2年ほどでSalesforceに買収されましたから、今度は外資のSalesforceのなかで『Datoramaをどうやって日本に広げていくか』を考えていましたね。そして、2020年に初めて日本の製造業であるパイオニアに入社しました」
ベンチャー、外資、日本の大手企業と企業規模を問わず、さまざまな業種業態を経験してきた石戸氏。パイオニアに入ったきっかけについて聞きました。
「それまでずっと僕は広告営業やマーケティングなど事業支援する側の仕事を行ってきました。原体験としてきっかけを挙げるならば、あるとき、とある先輩から『デジタルはある程度分かるけれど、大きな会社の事業側をもっと分かったほうがいいのでは?』と言われたことでしょうか。これは強く覚えています。当時の自分は支援側であってもデータやマーケティングによって事業をやっていると思い込んでいましたからね。事業側にはデータやマーケティングなど表面的には語れない事情も多く、大手企業が変革すれば社会的インパクトも大きいと思うようになりました。」
そして、外資企業では洗練された戦略や製品、社内の仕組みやシステム、セールス&マーケティングプランがある程度本社で作られており、日本法人ではローカライズが主務ですから、USP(Unique Selling Proposition)を根本的に考えたり、変えたりするのは外資系ではなかなか難しく、自分が居なくても売る仕組みが成り立っていたのも思い悩んだポイントだったと言います。
「事業を支える立場なのか、事業を作るのか、独立するのかを考えてキャリアは悩みました。そのタイミングで事業支援側に入るのも違和感を覚えましたね。Salesforceから転職活動をしようとして、話を聞いてみると『大手IT企業での営業やマーケティング責任者はどうですか?』や『外資企業でカントリーマネージャーをお願いしたい』といった案件ばかりでしたから。
同時に僕がGoogleやSalesforceにいた2010年代中盤から後半にかけて、それぞれの企業が『1000人以上採用する』とリリースを出すくらいに採用を強化していきます。その頃にはベンチャー企業にもSaaSというトレンドがきます。VCが投資をするなかでも支援側にGAFAやIT企業がどんどん入っていきました。
IT企業が採用を強化した結果、メーカー企業にデジタルに詳しい人材がどんどんいなくなってしまう。その流動性に私は違和感を覚えていました。確かに日本の大企業はIT企業ほどのスピード感が無いことも多く、志向性も手堅いかも知れません。ただ、デジタル化をしたときにインパクトが大きいのはこの領域だと思ったのです」
Salesforceから転職先を考える際に、もう一つこだわったのは老舗企業でファンドが入っていることだったとか。
「会社規模が1000億円以上~3000億円規模くらいでファンドが入っていて、デジタル化がまだ出来ていない企業を探していました。ファンドが入ることで旧経営層は刷新されていきます。また、ファンドが入っているのであれば結果が出るまでのタイムリミットも定まっている。ゆえに危機感も生まれて強いコミットメントも必要です。そのなかでパイオニアに出会い面談で改革への本気度を感じたのでパイオニアに入社しました。
製造業の時価総額は今それほど高く評価はされていません。他方で、SaaSの事業は売上が10億円程度あれば、それ以上の時価総額がついていたりします。ですから、製造業のなかにSaaSの事業があればより時価総額がつく。変革の過渡期ですが、それをリードする存在でありたいと思ったのです。メーカー側が元気になればこの構造は変わっていくと思ったのです」
パイオニア、小林製薬と業種が違いながらも日本の大企業を経験して今、石戸氏は何を感じているのでしょうか。
「前提として、双方ともに歴史あるメーカー企業で良い企業文化を持っています。やはり、長年続いてきた企業にはノウハウも蓄積もあります。その良い部分は活かしていきたい。多方面で、組織はデジタルやSaaSという形態に慣れていないと思います。パイオニアは長年、自動車会社にOEM提供やカー用品店にカーオーディオを小売経由で販売するビジネスを、小林製薬はドラッグストアをはじめとする店舗に商品を置いてもらい販売するビジネスを行っています。IT企業では一般的になっている『The Model』のように、マーケティングから営業、カスタマーサクセスを置いて顧客と繋がりながら、フィードバックループを行い、長くタッチポイントを持つという組織構造や仕組み、文化にはなっていないところがあります。一方それがノビシロでもあると考えます。
ですから、SaaSを売るための組織の在り方や考え方をインストールしなければいけない。それが2社を見て思った共通の課題なのではないかと思います」
もう一つ、石戸氏が指摘するのは「日本の大企業にはCDOが居ない」ということ。
「多くの大企業ではCEOに関してはサクセッションプランが機能している会社もあるので、次世代のCEO候補は会社として検討しているという認識が個人的にはあります。なかなか見つけづらいと言われる財務の専門家であるCFOも、取引先の金融機関など社外にも目を向ければ適任な人が居ますから、実はそこまで困っていないケースが多いという印象です。
他方で、会社のデジタル化やDXを担って戦略まで描けるCDOは数少ない存在ではないでしょうか。デジタルの知識も持ちながらも、自社の企業戦略に即した形式で絵図を描ける人材はあまり多くありません。私自身もデータやプログラミング領域の専門性の高い人材に、個別個別で勝るスキルを持ち合わせていないところはもちろんありますが、デジタルを含めた経営や戦略を形にできるからこそ、今小林製薬にいるのだと思っています。ちなみにCDOという役割は、今の時代にデジタル領域での変革が必要だから、一時的に求められているような職種だと思っています。CDOのミッションが推進され結果につながってきたら、事業部門長やCOO、CEOなど他のミッションと変わりありません。5年ほどでデジタルが当たり前の会社になるようにしていきたいと考えています」
ちなみにデジタル人材はどう育成していくのが良いのだろうか。石戸氏に尋ねてみたところ……。
「自分自身も事業をやってみる立場になるのが良いと思いますよ。例えば、マーケターが副業でどこかのお店のプロモーションを手伝ってみるときも、自身でやってみること。依頼されて単にSNS広告を回すだけでなく、自身が運営するとなれば広告費用の使い方も変わってくるはず。マーケティングを発注する側の気持ちを理解できるはずです。そうやって事業者としての目線を養うことで得られるものがきっとあると思っています」
戦略を担うCDOと成るには何よりも事業の経験が必要。石戸氏の話を通じて見えてくるものがあるのではないでしょうか。
10/31(火)~11/2(木)開催のデータでビジネスをアップデートする3日間のビジネスカンファレンス「updataNOW23」に石戸氏も登壇。「updataNOW23」はウイングアーク1st社主催の国内最大級のカンファレンスイベントで、DX・データ活用を軸にした約70セッションと30社以上が出展する展示など、会場とオンラインのハイブリッド形式で開催されます。
小林製薬|DX方針発表とその本質
昨今、事業会社でもDXと言われることが増え、聞かない日はないのではないでしょうか。小林製薬においても、2021年にDX戦略が策定され、経営における重要性が高まってまいりました。2023年にはCDOユニットを新設し、8月の中間決算発表ではDX方針を発表しました。DXと聞くと、手法としてのデジタルを様々に想像しがちです。しかし実は外から見えている戦略や施策だけではなく、社内の中で起きている、考えている、内部的なことも同じくらい、あるいはそれ以上に重要です。本セッションでは、8月に発表したDX方針と、一般論としての思考法などについて、皆様と理解を深めたいと思います。
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