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特集「CIOの履歴書」 CIOは意思決定を躊躇う人の背中を押す仕事(後編) 株式会社digil 田口慶二氏

特集「CIOの履歴書」では、CIOとして活躍されている方々の「CIOに至るまでのキャリア」、「CIOの後のキャリア」について迫りCIOのキャリアについて考察するとともに、読者の皆様に「CIOの魅力」をお伝えします。第六弾となる今回は、株式会社オープンハウスでCIOを務めた後独立され、株式会社digilで代表取締役社長を務める田口慶二氏にお話を伺いました。CIOとしてオープンハウスの急成長に大きく貢献された田口氏のこれまでのキャリアやCIOに至った経緯、また、CIOというポジションの魅力について前編、後編に分けてご紹介いたします。

         

CIO後のキャリアについて

── オープンハウスから独立された経緯や、当時どのようなお考えで独立されたのか教えてください。

田口氏:ありがたいことにオープンハウスに所属していた際、ヘッドハントも含めて様々なCIOポジションのオファーを頂きました。オープンハウスでは自分なりに描いた7年前のIT戦略を実行、定着化させることができたため、もう一度IT戦略を練るか、転職するか、どちらの選択をするか悩んでいました。

様々なオファーを頂く中で複数の大手企業の社長様と会話しましたが、ぜひ来てほしいとなっても、「CIOというポジションがないので1年くらいITの部長として従事し結果を残した後CIOや執行役員にならないか」というものばかりでした。日本ではCIO=情報システム部長というケースばかりだと再認識させられました。

報酬面で折り合わないのではなく、「会社の中で社長がやりたいと言っているが周囲に対して根回しをする必要があるため、隠れ蓑的にグレードを下げて入社してくれ」というオファーがすごく多かったのです。

それを聞いたときに「言われていることはわかる。でも入社しても1年間は権限がなく、時間が後ろに倒れるので、転職の意味がない」と思いましたが、多くの社長様から「なんとか前向きに考えてもらえないもの?」という話になったので、「仮に私が独立して業務委託という形になった場合は有りですか?」と提案したところ、「業務委託ならどうにでもできるから、ぜひお願いしたい」とのお返事を複数の企業様から頂きました。結果的に今の会社の営業活動に繋がってしまった感じです。

ITの部長として参画する場合も業務委託として参画する場合も、権限がないのは同じです。ただ業務委託の場合、私自身は1社に注力して1社と心中する必要もありませんし、必要としてくれている多くの企業に対して貢献できるので、独立して複数の会社に対して貢献できる形が良いと思い、独立を決断しました。

現職について

── 現在のお仕事について教えてください。

田口氏:非常勤CIOという形ではありませんが、CIOシェアリングに近い形で働いています。

新しくDXの組織を作ろうとしている企業やDXに取り組もうとしているけどうまくいかないから助けてほしいという企業に対して、アドバイザーという形で週1日程度ずつ、複数企業のお手伝いをしています。

独立して複数の会社様に関わることで、1つの会社に転職をしてCIOを担うよりも、複数の会社の人たちが未来に進めそうな感覚があり、自分事として未来に進むためにITをどう使おうかと考え始めているところに参画できるので、非常に充実しています。技術進化が目まぐるしいので、学生時代に感じた刺激を常に感じながら業務に携われていることは大変恵まれていると思います。出来るだけ多くの会社様が本来のビジネスで戦うために、賢くインターネット技術を活用し続ける経営環境を構築して欲しいと思っています。

── CIOという肩書でご自身が表現されているかどうかで違うと感じることはありますか?

田口氏:全くないです。

オープンハウスの際は採用のためにCIOという肩書が必要でした。CIOという肩書を頂いた結果としてオフショア開拓ができて内製化を実現したことで結果を残すことができましたが、本当に自分がプロとして腕っぷしが強ければCIOとして名乗る必要はないと思います。

なぜかというと、本当に妥協せず取り組んでいればお客様先で自分以外の方がCIOポジションの人がいたとしても自分自身に情報が集まってきます。

CIOの仕事とは、朝早くから夜遅くまで席に座って指示をすることではなく、技術を正しく理解した上で決められない人たちの背中を押すことだと思っています。

簡単に判断をしているように見えて、決められないことを決めるためには日ごろからきちんと最新技術や経営状態を理解している必要があります。

日本企業には判断したがらない人が多いですが、私自身はそこにいる限り必ず逃げも隠れもせずに必ず判断します。判断をすると、判断をしてほしい担当者から情報が集まりますから。

名ばかりのCIOが多すぎるとも思っています。天下り的なCIOというポジションにいて、ITにおいても経営においても判断をしないならCIOというポストは要らないと思っています。

ですが、CIOという肩書で表現されることによって、自分自身がプロとして取り組む覚悟が決められる方にとってはすごくよいポジションだと思います。現役で勉強し続けることは簡単なことではありませんが、その覚悟がある人でなければCIOになってはいけないと思います。

── 今後のキャリアや活動について、考えられていることを聞かせてください。

田口氏:エンジニアとして世界一になりたいと思っていましたが、自分自身は今だ成しえていません。今は日本の企業から世界で戦えるエンジニアが出てきてくれたらいいなと思っています。今となっては、ライフワークとして世界で戦えるエンジニアを輩出する環境を作るためにはどうしたらいいだろうかと日々考えています。

本当はエンジニアとして世界一になれたら嬉しいな、と。

自分も負けたくはないのでまだ諦めてはいませんが、今の環境、今のインフラ、今の技術で光り輝く新しい考え方や価値観を持つエンジニアたちに勝てるとは思わないので、その方たちが伸び伸びできる環境を作れればそれでいいかなあと思っています。

私自身が欧米、アジアなど海外を含めた多くの企業でエンジニア、マーケティング、コンサルティング、経営など縦にも横にも仕事をさせて頂いてきましたが、自分が日本に対して貢献できたことがあるようでまだありません。自分が一緒に仕事をする中で、一瞬だけでもいいし、同じ会社からでなくてもいいのですが、世界一のエンジニアが出てくればいいなと思っています。

CIOの醍醐味・やりがい

田口氏:CIOの醍醐味は、事業会社においてITにおける是非をすべて自分で判断できることだと思います。

特定のこの技術が好きだから利用するのではなく、あくまでも経営者として、有用な技術の採用を決断することに意味があります。でも、中には「少し無駄な部分もあるけどこの技術使いたいよね」と感じられる瞬間があれば本物のCIOだと思います。会社の業種、業態によっては、CTOも兼ねられるポテンシャルを持っている人がそのような感覚を持つことができるのかもしれないと思っています。

CIOを目指す方へのメッセージ

田口氏:CIOを目指すのであればビジネスサイドから技術を勉強してCIOになってもらいたいと思います。

ビジネス部門での経験や実績はあっても技術を勉強せずにCIOに就任される方は多くいます。ですが、経営メンバーの一員であるCIOが「ITのことはよくわかりません」という発言をすることは”アウト”です。CIOは技術に精通していなければ絶対に成り立たないと思っていますが、まさにその”アウト”の状況はよくある話です。

そこで自分も”アウト”なCIOになるのではなく「自分は違うぞ」と技術を勉強してもらいたいと思います。深くなくとも良いので、一番薄く広く自分たちのビジネスに関わりそうな技術をわかっていて欲しいと思います。

技術トレンドは約2年のサイクルで変わっていくほど進化が激しく、常に勉強が必要です。

勉強し続けることは口で言うほど簡単なことではありませんが、ビジネス部門のメンバーが技術メンバーに対してちゃんとコミュニケーションを取れるような勉強をした上でCIOになってください。

そうすれば日本企業はもっともっと強くなると思います。

お話を伺ったCIO:田口慶二氏のプロフィール

田口 慶二(たぐち・けいじ)氏
株式会社digil 代表取締役社長

慶應義塾大学環境情報学部卒業後、大手通信会社や外資系情報セキュリティ会社にて、インターネット黎明期における国際標準化活動、EC基盤開発、ITコンサルティングに従事。流通業界や住宅広告業界を経て、2014年に株式会社オープンハウスグループに入社。2017年には同社CIO(最高情報責任者)に就任し、IT戦略の策定・実行を担う。2021年8月に株式会社digilを創業し、代表取締役社長に就任。


聞き手:坂本俊輔
CIOシェアリング協議会 副代表理事、GPTech 代表取締役社長、元政府CIO補佐官

大手SIerでの業務従事ののち、ITコンサルティングファームの役員を経て、2010年にCIOアウトソーシングを提供する株式会社グローバル・パートナーズ・テクノロジーを設立。以降、一貫してユーザ企業のIT体制強化の活動に従事している。2017年からは政府CIO補佐官を兼業で務めた他、IT政策担当大臣補佐官や株式会社カーチスホールディングスのCIOなども務めた。

 
 

本記事は「一般社団法人CIOシェアリング協議会」に掲載された「CIOの履歴書」のコンテンツを許可を得て掲載しています。(インタビュー実施日 2021年5月7日)

 
 

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