最後の登壇者は、ウイングアーク1st株式会社のマーケティング統括部統括部長である久我温紀氏です。 久我氏の話のメインは、セールスイネーブルメントで活用しているダッシュボードに関して。
ウイングアーク1stでは、セールスフォースに入力したデータをMotionBoardのダッシュボードで可視化しているとのこと。特徴的なのは、商談別に進捗状況を可視化しているだけではなく、期末の数ヶ月前にはその期の受注の着地が予想できるという点。すでに6年ほど運用してデータを積み上げてきたため、その精度は非常に高く、ほぼ外れることないそう。期が始まる前には、期末の営業の売り上げ着地を大まかに予想出来るため、対策を早めに実施することができるそうです。
「期末の決算が終わったときに、目標達成したときでも、翌期のパイプラインがスカスカということがあります。営業はこのような自転車操業に陥りがちです。勝ち続けているセールスの方とお話ししていると共通している点は、見込客や見込商談を沢山もっている点です。この部分だけは必ず一致します。平均的な営業マンは、期末に売り上げが上がっていく傾向にありますが、できる営業マンは逆算思考で計画的に受注をつくっていくため、期末に追い込むことはしません。期末に行くに従い受注量が減っていく傾向にあります。期末は既に翌期のパイプラインの仕込みに入っているということです。」(久我氏)
「美しいパイプライン」を継続するために重要なことは、タイムリーに正確な情報を入力すること。これに関してはとにかく徹底しているといいます。ウイングアーク1stの営業はおよそ100名。年齢も22歳から63歳までと幅広い年代となっています。
このような組織でデータドリブンなやり方を浸透させるには、かなり苦労があったものと思われます。久我氏が最初にやりはじめたことは「ミニマムスタートさせる」ということです。
「2006年頃にSFAを導入しましたが、2014年の状態でも定着はしていませんでした。最初に行ったのは、予算、受注、見込商談が把握できるだけのシンプルなダッシュボードでした。また同時に予算報告のExcelを廃止もしました。これにより予算報告するためにはSFA入力が必須になります。ただ当然、定着前の時期は、営業の活動の一部案件しか登録されませんでした。そのため、意識的に会議の中でダッシュボードを見ながら会話すると、当然予算に対して見込商談が不足している状態を多々ありました。
しかし、予算ギャップをどう埋めるか尋ね、会話することを通して『実はこういった案件がある』となり、追加の案件や情報が出てきます。それを、その場で案件を入力してもらいました。こうしたコミュニケーションを繰り返していく中で、案件登録を習慣化し、定着化を図りました。案件登録が進むと、案件の進捗状況や課題などの会話が行いやすくなるし、蓄積されたデータから様々な分析ができるようになります。」(久我氏)
日常の会議でもダッシュボードの情報を活用しコミュニケーションを行い、入力の働きかけを行うことで、データを入力する習慣づけをさせたというわけです。
さらに、最初から大量のデータを入力させようとすると、面倒くさがってやらない人も出てきます。そのための工夫も。
「また、SFA導入時に使わない入力項目が多かったため、入力項目を必要な最小限の内容に削減しました。入力が習慣化したところで、定着の状況を鑑みながら、必要性が出れば新たに入力項目を追加する。 この運用が組織的に定着し「普通の状態」になれば、新しく加わったメンバーも抵抗感なく定着していきます。」(久我氏)
ウイングアーク1stでは、「WAF(WingArc Forum)」という1万人規模を集客するイベントを開催しているのですが、その集客管理もダッシュボードで行っています。このようなプロジェクトでは、メンバーのモチベーションアップも重要になります。その辺りはどのようにしているのでしょうか。
「イベント集客数のダッシュボードは集客目標値と日々の推移というシンプルな棒グラフのものです。毎日一度最新の集客状況をbotを使い、Slackに配信しています。毎日の変化が直観的に分かります。組織の人数が増えると、自分一人ががんばっても意味がないと思ってしまいがちなのですが、昨日より少しでも全体に変化があると自分の活動やメンバーの活動が集積することで大きな目標に対して確実に歩みがあることを実感できます」(久我氏)
自分がやったことの成果が組織成果に繋がっていることが見えるようなものを作ること。それがモチベーションアップにつながります、営業予算も同様に朝8時には最新の営業進捗が社長や社員全域に配信されます。
データを収集して可視化するにあたり、久我氏が一番大事にしていることは「組織や個人の目的」です。久我氏は、仮説のダッシュボードをよく作るそう。その仮説ダッシュボードでは、予想と違った結果が出ることもままあります。しっかり出来ていると思っているメンバーがデータでみると実は結構課題がある。ということもしばしばありました。
しかし、そのズレでメンバーを叱責することはしないようにしているとのこと。
「まずはズレるという感覚を持ってもらうことが重要です。このズレに関しては明確に伝えます。データは事実のため、とても強力な影響力をもっています。データで人を殴りつけるのは攻撃力が強すぎるので、絶対にしてはいけません。これ、ズレてるよね、なんでだろうね、どうしたらいいかな、という会話をしていくことが重要です」(久我氏)
また、見え方にも気を遣っているそうです。
「ぱっと見た時に直観的に入ってくるようなビジュアライズでないと人間はストレスを感じます。可視化は目的ではなく、手段です。可視化した結果、行動に移していくことが重要です。どうやったら一目でダッシュボードの内容が伝わるかということをずっと考えて画面を作っています。データの単純な可視化であれば大抵は1~2時間で完了しますが、画面設計には多いときで半日ほど議論していたことがあります。それでも結局気に入らず後でまた手直しするということを繰り返しています。また、ダッシュボードが多くなると見に行くのが面倒になるので、botに必要なデータをリクエストしたらダッシュボードのデータやグラフとコメントが返ってくる仕組みを構築しました。予算の進捗状況をきけば返ってきますし、着地予想を聞けば現在のパイプラインを過去の推移データを元に予測して返すことや、顧客名で検索をすると、その顧客の企業情報や商談履歴など関連するすべての情報を引っ張って来てくれます。」(久我氏)
かなりデータを使いこなして、セールスイネーブルメントに取り組んでいる印象ですが、久我氏にとってセールスイネーブルメントとは何なのでしょうか?
「再現可能な成功のスケールです。再現性のある成功をいかに組織全体に浸透させていくか。それによって組織力が上がっていきます。トップセールスが見ている視点や行動特性、それをガイドしてくれる仕組みがダッシュボードだと思います。」(久我氏)
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