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データサイエンティストの育成と活用を目指し、大学と企業の共同教育を志向する。滋賀大学教授、河本薫氏が語るAI時代の経営リテラシー。

         

学生と企業とのギャップを埋める“シームレス”教育

データサイエンス学部が設置された滋賀大学、彦根キャンパス

企業と大学が一緒に行う研究を“共同研究”と呼びますが、私が取り組んでいるのは、“共同教育”です。

学部生の教育に企業の力を借り、企業教育の一環として大学の先生が教える、というように相互的なシステムを作ることで大学卒業と就職の間をシームレスに移行できれば、という発想から生まれました。

前者については、大学の授業やゼミの一環として、企業から課題やデータ、そして人材を提供してもらい、グループワークで実践的に思考力や自己決定力を身につけることで、学部生たちが卒業後のキャリアマイルストーンを描きやすい環境を全力で作っています。例えば、学生が「マーケティング」を学びたい、と言ったら、マーケティングリサーチ最大手のインテージに協力してもらって、学生にプロダクトマネージャーとして仮想的な課題解決をしてもらう、という授業を行なっています。豪華でしょ?(笑)

また、滋賀大学では、今年からデータサイエンスの領域で日本初の大学院が設置されました。そこで後者に関しては、企業派遣の社会人を大学院の学生として受け入れることで大学の知見を共有する、という取り組みを行なっています。

実際に学生たちに指導する中で新たな課題も見えてきました。私のゼミに在籍する学生に「何をしたいか?」と聞いたところ全員が「マーケティング」と答えたんです。関西は製造業が強いにもかかわらず、です。

理由を考えてみたところ、データサイエンス学部に来る人の中には、「モノに興味がない」学生が少なからずいることが浮かび上がってきました。

そこで、1、2回生に向けた授業では、実際にモノを動かしながらデータを取る、という実習の授業を開講したんです。先日の授業では、ダイハツに協力してもらいました。行なったのは、単位の細かいデータを集計できる機材を搭載した車を学生に運転してもらって、ブレーキやアクセルを調整しつつ最も燃費が良くなるデータを自分で作って解析して最も省エネになる走り方を見つける、という実習。とにかく早い段階でモノに興味を持ってもらえれば、目指すものも変わってくると考えています。

優秀なデータサイエンティストの育成は、「崖から突き落とすこと」からはじまる

企業側の人材育成として、大阪ガス時代に最も効果的だと感じたのは、「崖から突き落とすこと」です(笑)。

まず、新人には最初のデータ分析の仕事として「データ分析は難しくないけれど、その成果を導入する現場の人々は熟練したプロフェッショナルで、導入が間に合わなければ、会社に大きな損害を与える」という課題を与えるんです。

学生たちがはアカデミックの現場で高い分析能力を培っていますが、問題設計や着眼点が間違っていると企業では相手にされません。なぜなら、企業で求められるのは、専門力ではなく成果だからです。どんなに美しい方法でデータを分析できても、会社に利益をもたらさなければ、評価を得られない。

だからこそ、成果のために他の部署と協働しながら泥臭く手を動かすことを身につけなくてはならないと考えています。

実際、この壁をクリアするとみんな成長しますね。

魚釣りでいうと、「大きい魚を釣る」瞬間だけを求めて釣りに取り組む人も多いですが、その瞬間に立ち会うためには、釣り場を探して、道具の試行錯誤を繰り返し、たくさんの失敗を乗り越えなければいけません。仕事をしていると、時には「大きい魚を釣る」瞬間だけに立ち会う人もいますが、そういう人の成果は真に受けてはいけないんです。その背景にある積み重ねをちゃんと見つめてほしい。

 

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