関西でも「東京のホテルが高くてつらい」という嘆きの声をよく聞かれる。宿泊費に関して、用いられる指標が客室平均単価(ADR)だ。ADRとは客室一室あたりの平均販売単価を指し、単価は1日あたりとなる。ADRは宿泊による売り上げ合計額を稼働している客室数を割ることでもとめられる。
都内約250ホテルが加盟する東京ホテル会によると、2024年2月のADRは15,498円となった。前年同月は11,887円であり、15ヶ月連続で過去最高値を更新している。ちなみにコロナ禍前の2019年度2月は1万円前後であった。
東京に限らず、全国的に円安を背景とする訪日観光客が増える一方であり、ホテルは人手不足に悩んでいる。コロナ禍でホテルから他業種に移った労働力が戻らず、供給が需要に追い付いていない。また、電気料金等の上昇も挙げられる。そのため、ホテルでは宿泊料金を値上げすることにより、現在の状況に対応している。つまり、東京の客室平均単価が劇的に落ち着く可能性は少ないといえるだろう。
そこで、筆者が考えたのは寝台特急「サンライズエクスプレス」の利用である。上り(東京方面)は三ノ宮駅0時11分、大阪駅0時33分に発車し、東京駅着は7時08分だ。
下り(岡山方面)は東京駅を21時50分に発車する。この発車時刻は東海道新幹線新大阪行き最終列車より26分遅い。大阪駅、三ノ宮駅には停車せず、姫路駅に5時25分に着く。姫路駅からは新快速で三ノ宮駅、大阪駅に行ける。なお、多客時には臨時列車「サンライズエクスプレス91号」が運行され、東京駅発は22時21分、大阪駅着は6時04分となる(2024年3月号時刻表参照)。
料金は東京駅から姫路駅までの乗車券・特急券が計13,310円、1人用B寝台個室ソロの寝台券は乗車距離にかかわらず6,600円、シングルは7,700円。合算すると、東京駅から姫路駅までソロの利用なら19,910円、シングルなら21,010円だ。
その他にも、「サンライズエクスプレス」には1人でも2人でも利用できるB寝台個室「シングルツイン」、2人用B寝台個室「サンライズツイン」、B寝台よりも豪華な1人用A寝台個室「シングルデラックス」がある。また、カーペット式の「ノビノビ座席」は普通車指定席料金で利用できる。
シングルの寝台券を比較すると、東京都内ホテルのADRより、7,798円も安いことに気づく。東京で22時前まで滞在可能。高速バスとは異なり、ビジネスホテル並みの環境で寝ながら移動できる。しかも、翌日は早朝から働ける。宿泊費が高い中で、「サンライズエクスプレス」は試してみる価値はあると判断した。
筆者は都内で展示会に参加したこともあり、荷物が多くなることを予想し、「シングル」の予約を試みた。乗車日は春休みシーズンの3月の週末である。
問題は切符の入手だ。駅員によると、オンシーズンのサンライズエクスプレスは人気が高く、切符はあっという間に売り切れる可能性があるとのこと。JR西日本のネット予約サイト「e5489」からも購入はできるが、操作に手間取り、その間に席が埋まる可能性も否定できない。
X(旧Twitter)を見ると、サンライズエクスプレスの予約が取れなかったことに関する嘆きの声が聞かれた。
また、「e5489」で購入すると、きっぷはJR西日本・東海・四国・九州の指定席券売機等から受け取る。JR東日本管区内は東京都区内など、一部の駅に限られる。東京駅ではJR東日本・東海の指定席券売機から入手できる。筆者はJR西日本管区内に住んでいるため、JR西日本の券売機から受け取れるから問題はない。受け取りは乗車日の7日前からになる。
このように考えると、「e5489」での予約はリスクに感じられ、駅の「みどりの窓口」から購入することに決めた。
寝台券は始発駅を発車する日の1ヶ月前(前日の同じ日)の午前10時から発売される。筆者は9時50分に「みどりの窓口」に着いた。駅員に午前10時に発券してもらうよう依頼し、無事にサンライズエクスプレスの寝台券、ならびに乗車券・特急券を入手できた。
試しに、上りも尋ねたところ、発売開始1日後はすでに満席とのこと。オンシーズンにおけるサンライズエクスプレスの切符入手難易度が高いことを実感した。
サンライズエクスプレスは東京駅9番線を21時50分に発車する。21時30分にはすでに入線し、3月の週末ということもあり、多くの親子連れがサンライズエクスプレスの前で記念撮影していた。また、高齢者の姿も見かける一方、ビジネスパーソンは皆無に近い。
車掌に尋ねると、この日はキャンセルを除き「ほぼ満席」とのこと。車掌も自然と笑みがこぼれていた。
「シングル」は1人用の個室だ。筆者はスーツケースとリュックサックを持参した。スーツケースは出入口付近に置ける。またベッド横にはリュックサックやドリンク類が置けるスペースがある。標準的な国内旅行であれば、荷物スペースに困ることはないだろう。
デメリットはコンセントの位置である。コンセントは出入口付近に1ヵ所ある。しかし、充電しつつ寝ながらスマホを操作するには延長コードが必要だ。また、車内WiFiはない。このあたりはサンライズエクスプレスに使われる285系は1998年製なので、仕方がない。
サンライズエクスプレスには食堂車はない。また、シャワールームはあるが、シャワー利用に必要なシャワーカードは入手が難しい。出発前にシャワーカードは売り切れていた。
筆者は乗車前に都内の銭湯を利用した。サンライズエクスプレス乗車前に入浴を済ませることをおすすめする。
シャワー室がある3号車・10号車にはミニラウンジがある。ここで、夜食を食べるのもいいだろう。ただし、席数は少ないため、ここも争奪戦になる。
21時50分に発車すると、サンライズエクスプレスは横浜、熱海、沼津の順に停車する。電車ということもあり、加速はスムーズ。揺れはするが、体を横にすると、それほど気にはならない。また、音も睡眠のいいサウンドになる。明日に備えて、22時30分に消灯した。
4時30分頃に大阪駅に停車するが、ドアは開かない。何度か目は覚めたが、高速バスと比べると寝起きは思った以上によい。神戸駅から山陽本線に入り、定刻の5時25分に姫路駅に着いた。
姫路駅では5時43分姫路駅始発の上り新快速(平日のみ運行)に乗り換えられる。この新快速は三ノ宮駅に6時24分、大阪駅に6時48分に着く。朝風呂に入り、朝食をとっても、十分に出社時間の9時に間に合うだろう。
筆者は8時30分から作業に入った。午後に眠気は感じたが、羽田神戸最終便に搭乗した翌日よりも体は楽だった。
体感的にはサンライズエクスプレスは東京のビシネスホテルの代替にはなる。欲をいえば、東京駅22時30分以降の発車であれば、有力な候補にはなる。しかし、切符の入手の煩わしさを加味すると、オンシーズンの利用を考慮しても最終的な答えは「微妙」なのが正直な感想だ。
それでは、サンライズエクスプレスみたいな夜行列車がもっと増えればいいが、それも難しい話だ。サンライズエクスプレス7両1編成の定員は158名しかない。参考までに東海道新幹線の1編成あたりの定員は約1300人だ。
また、サンライズエクスプレスは1日1往復のみ。285系はサンライズエクスプレス専用車両となり、他列車の運用には就かない。また、JR東日本・JR東海・JR西日本・JR四国の4社にまたがる夜行列車ということもあり、運賃収入は1社が独占できるわけではない。
つまり、車両の効率面や経営面からすると、サンライズエクスプレスはコスパが悪いことになる。なかなか、増便や車両更新は簡単ではなさそうだ。
(取材・TEXT:新田浩之 編集:藤冨啓之)
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