TDBC FORUM 2018が、2018年4月25日にベルサール秋葉原にて開催された。当日はあいにくの雨となったが、400名を超える参加者が集まり、関心の高さが伺われた。
イベントでは、主に運輸事業者の課題解決のための、運輸事業会員とICT業界などのサポート会員による実証実験についての報告が各ワーキンググループによって行われた。
TDBC(運輸デジタルビジネス協議会)とは、バス・タクシー・トラック・ダンプ業界などが共通で抱える課題の解決を目指し、従来の企業や業界の枠組みを超え、運輸業界とICTなど多様な業種のサポート企業が連携し、デジタルテクノロジーを利用することで運輸業界を安心・安全・エコロジーな社会基盤に変革し、業界・社会に貢献することを目的としている。いわゆる「オープンイノベーション2.0」の実践版として広範な業界・企業の参加による知識集約によって社会貢献に取り組んでいる団体である。
TDBCの参加会員は7つあるワーキンググループ(WG)に所属し、活動しており、今回のフォーラムではそれぞれのWGが行なっている実証実験に関する中間報告が行われた。
その中でも、「交通事故の撲滅」は運輸業界とは切っても切れない関係性にある問題の1つだ。最初に発表を行なったWG01は「事故撲滅」をテーマに活動しているワーキンググループだ。同ワーキンググループが行なっている「交通事故の撲滅」への具体的な取り組みについてご紹介しよう。
「事故撲滅」(WG01)のワーキンググループには11の企業が参加している。同ワーキンググループは、どんな時に事故が起きやすいのか、また、事故を未然に防ぐにはどうすればいいのか、という観点からデータの集約および分析を行っている。 今回の実証実験を行ったのは、名古屋市に本社を置き、従業員数約1100名、669台のタクシーを保有する株式会社フジタクシーグループだ。同社が保有するタクシーとドライバーから多面的な基本データを収集した。
集まったデータは各ドライバー、営業所、車両走行情報などに分類・集積され、事故の撲滅に対する課題が抽出されていった。これらのデータから導き出されたのは、「ドライバーに対する安全教育」「高齢化が進むドライバーの健康・労務問題」の重要性だった。
事故の撲滅に対する最初の課題は、事故情報データの解析と情報共有の仕組みを作ることだ。実証実験では、サンプル車両に通信機能つきのドライブレコーダーを組み込み、走行データの収集を行うとともに、事故発生時や事故には至らないヒヤリハット事例を集積。また、運転中のスマートフォンの使用をAIで検知するなど、事故につながる原因の特定や場所、時間をデータ化して集積した。
事故発生地点や発生時間をデータ化することで、どんな状況や場所、気象条件の時に事故やヒヤリハット事例が多く発生するかを情報化し、運転者教育に役立てることが可能となった。また、車両につけられたドライブレコーダの画像情報は、安全教育用の素材として利用。危険な場所や時間帯を、安全教育時に繰り返し周知徹底、運転者全体で共有化することによって安全運転への意識を高めていったのだ。ICT技術を利用したデータによる分析だけでなく、その結果を安全教育に適用し、ドライバーの意識に深く浸透させることで効果を一層高めることが可能になる。その結果、フジタクシーグループは5年連続で発生事故を20%減少させることに成功している。
「乗務員の健康増進」(WG02)のワーキンググループは、トラックやタクシードライバーへのアンケート調査によって浮かび上がったもうひとつの課題である「運転者の健康状態」をテーマとしている。
20項目のアンケート調査のデータを統計学的な手法によって解析したところ、ドライバーたちの健康状態が安全運転に大きな影響を与えることが明らかとなった。これは、タクシー乗務員の多くが訴える「腰痛」と「睡眠の質」の問題として従来からいわれてきたことでもある。これらの問題は、ドライバーの健康管理の問題だけではなく、直接的に事故との相関関係があり、「睡眠と事故」「倦怠感と事故」「睡眠の質と売り上げ」にも大きく関連していることが解かってきたのだ。
この調査により、睡眠の質が良好なドライバーの方が、睡眠の質に満足していないドライバーよりも売り上げが高いという興味深い事実も明らかとなった。
乗務時間が不規則な運輸業界で働くドライバーは、適切な休憩を取れないケースも多く、運転中に倦怠感を感じるケースは少なくないという。睡眠の途中で目覚めてしまうドライバー(倦怠感がある)と、良好な睡眠を取れているドライバー(倦怠感がない)を比較すると、倦怠感がないドライバーの事故件数が1.41件なのに対し、倦怠感があるドライバーの事故件数は3.10件となっており、倦怠感のあるドライバーの方が、2年間での事故件数が1.69件高いことが明らかとなった。
これは、倦怠感により事故率が2.2倍に増加したことを示している。
また、「乗務員の健康増進」(WG02)のワーキンググループは、腰痛を防止するためのベルトの着用が安全運転にどのような影響をもたらすかを検証した。その結果、腰痛を改善する健康ベルトを着用したドライバーは、Gセンサーを装着したドライブレコーダーの記録から、運転中のヒヤリハット事例が半減したケースが報告されている。
タクシー乗務員アンケートの結果で、「睡眠の満足度が高い」と回答したグループは、「睡眠の満足度が低い」グループに比べて売上額が22%高いという結果が得られたため、今後満足度の低い乗務員に睡眠の質を高めるためのサプリメントを服用してもらうことで、睡眠状況の変化が安全運転と売上額へもたらす影響を調査する継続的な実証実験を予定しているという。
今回、TDBCで行われた実証実験の報告は、まだ中間報告、ということもあり、今後のさらなる進展が期待されるが、これまで収集できていなかった類のデータが集まり始めたことは1つの大きな進歩であると言えるだろう。と同時に、データが紙のみでしか存在しない、データの形式が統一されておらずうまく活用ができない、など、データの収集に関する問題も浮き彫りになってきた。
これらのハードルをクリアし、データを有効活用できる環境を整えることが、今後の課題だと言えるだろう。だが、企業の垣根を超えたところで、業界が結託し、より多くの参加者が問題を共有することで、よりよい現実社会を作り出すという「オープンイノベーション2.0」の理念に沿ったTDBCの試みは大いに評価されるべきだろう。
TDBCの今後の取り組みに、データのじかんは引き続き注目していく予定だ。
(テキスト:大屋敏文・写真:佐藤雄治)
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