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育成診断テスト X テクノロジーで 子どもたちに正しいトレーニングと未来を 〜ドーム社の取り組みを通して〜

         

2018年8月18日、福島県いわき市のいわきグリーンスタジアムで、小学生の硬式野球日本一を決める「第9回全国小学生硬式野球交流大会アンダーアーマーカップ」が開催されました。全国小学生硬式野球交流大会アンダーアーマーカップ2010年から発足した小学生硬式野球の公式戦です。

主催は一般財団法人 日本スポーツ振興会、そして特別協賛するアンダーアーマーを取り扱う株式会社ドームは企業理念を「社会価値の創造」とし、「スポーツを通じて社会を豊かにする」というミッションを掲げ、以下4つの事業を展開しています。

 
 

・スポーツプロダクト事業「アンダーアーマー」

・ニュートリション事業「DNS」

・スポーツメディカル事業「ドームスポーツメディカル」

・パフォーマンスディレクション事業「ドームアスリートハウス」

そんな中、「ドームアスリートハウス」ジェネラルマネージャーであり、メジャーなどで世界のトップアスリートを支援してきた友岡氏は、現在、日本、それも少年野球の子供たちにも目を向けているとのこと。

今回、この大会の裏側では、ドーム社が参加している少年野球チームの小学生たちの体力運動能力を測定し、それをグラフにするというおもしろい試みを行っています。この取り組みの模様とその背景をレポートします。

試合を終えた選手たちが体力測定にチャレンジ

テストの測定項目は、20m走、立ち幅跳び、反復横跳び、背筋力、伏臥上体反らし、長座位前屈、スラローム走。このほか、身長と体重も計測します。

当日は、アンダーアーマーカップに参加している少年野球チームのうち、希望するチームが測定に参加しました。小学生たちは試合後、いわきグリーンスタジアムにほど近いいわきグリーンフィールドに移動しテストを行いました。

テストの結果は、スタッフがその場でパソコンに入力。これをBIツール(ビジネスインテリジェンスツール)で、集計・グラフ化・ビジュアライゼーションして保護者に渡します。

「育成診断テスト」の結果表
※このプログラムはいわきスポーツクラブアカデミーアドバイザー小俣よしのぶ氏とドームアスリートハウスが共同開発し、ウイングアーク1st株式会社の協力により、株式会社ドームがチームや連盟向けに提供しているITソリューションであるスポーツマネージメントプラットフォーム(SMP)で実現したもの

今回は実証実験のため、大会参加チームを対象にしましたが、この活動の意義を広めるために、ドーム社がチーム・連盟向けに提供しているクラウドサービスSMP(スポーツマネジメントプラットフォーム)と連携して測定後に可視化し改善策を提示するサービスを検討しているとのことです。

テストを行っている間、野球チームの監督やコーチ、保護者の方たちは、今回のテストについて、友岡氏より説明を受けました。

けがが少ないスポーツ選手になるために

株式会社ドーム 執行役員 PO(Performance Officer) 友岡 和彦氏
メジャーリーグ「ワシントンナショナルズ」でヘッドストレングスコーチとして活躍するなど、アメリカで11年のトレーニングコーチ経験を積んだ後、2008年帰国。2009年、(株)ドームが運営するアスリート専用トレーニング施設「ドームアスリートハウス」のジェネラルマネージャーとして、プロ野球選手、プロゴルファー、オリンピック選手などのトップアスリートのトレーニング指導を行っている。

まずはドーム社の友岡和彦さんから、今回のテストの目的について解説がありました。トップアスリートのうち、けがが少ない選手はさまざまなスポーツを経験してきた人が多いとのこと。つまり、幼少期から野球だけ、サッカーだけをやっていると、大人になってからけがが多くなる傾向にあるそうです。

さまざまなスポーツや運動を体験することで、バランスよく体や感覚が鍛えられるため、結果的にけがが少なく頑健な体になるのです。

また、現代っ子に蔓延する深刻な障害として「ロコモティブシンドローム」や低年齢競技特化による弊害が紹介されました。近年、スマホ・ゲームの普及や外遊びの減少による運動機会不足等により、かつてないほどに体力運動能力低下しています。その影響として例えば、腕が真っ直ぐあがらない、前屈やしゃがむことができない、姿勢を維持したり長時間立っていられないなど子どもの身体や運動機能に異変が生じています。

一般的な生活を送るにあたって支障をきたすほど運動器機能が低下した状態を「運動器機能不全」または「ロコモティブシンドローム」と呼ばれています。驚きなのは、加齢や運動不足に伴って起こる機能障害もあれば、スポーツのやりすぎが原因による機能障害もあるということです。

そこで今回、育成システムの研究家である、小俣よしのぶさんにアドバイザーとして協力していただき、今回の子供たちの育成診断テストを実施。その結果から、最適な育成やトレーニングを行っていくのが今回の主な目的です。

ロコモティブシンドロームは老人だけの問題だけではない

いわきスポーツクラブ アカデミーアドバイザー 小俣 よしのぶ氏
筑波大学大学院体育研究科修了。筑波大学大学院非常勤研究員 /筑波大学産学リエゾン研究員。育成システムの研究家。主に東独、ソ連、キューバなどの東欧社会主義国のトレーニングシステムを専門とする。プロスポーツ球団や競技団体などへの育成システムのアドバイスや指導者養成、さらに成長期競技者や一般生徒児童の運動学習やフィジカルトレーニング指導を行っている。

続いて小俣さんのお話に。小俣さんは、現代の子どもたちは単に体力運動能力が低下しているだけでなく、老人のような症状になる「ロコモティブシンドローム」に似た状態ついて改めて解説。片足立ちが5秒以上できない、腕を180度あげることができないといった症状は、単に運動不足だということではないということです。

また、ロコモティブシンドロームは、スポーツをやっている子どもにも起こるとのこと。例えば、サッカーを専門的にやっている子どもは足の筋肉や持久力は鍛えられるものの、ふくらはぎやふともものなどの筋肉が過度についてしまい、柔軟性や運動機能のバランスが損なわれてることもあるようです。

また、公園などで遊ぶということも少なくなったのもひとつの要因です。遊びなどを通して自然とバランスの取れた運動ができるのです。

結果、野球やサッカーをやっているのに体力運動能力が健全な状態になっていないという現象が起きてしまっています

このような状況が進行すると、身体形態がいびつになったり、身長などの生育に影響を及ぼしたり、アライメント(骨格配列)異常、深刻なけがや障害、それらを起因とするパフォーマンスの低下や頭打ちが起こる恐れがあります。これらを防止するためには、まずは現在の子どもたちの体力運動能力を測定し、どのような傾向にあるのかを把握する必要があります。

テスト結果から苦手な項目を克服して「スポーツ万能」に

今回のテストの項目の概要は上記のようになっています。

これらの結果が、グラフ化されます。グラフは、ある特定の要素が高いことが望ましい訳ではなく、年齢平均や基準値に照らしわせ、正7角形に近い、バランスが良い形が理想です。

この結果から、現時点での得意なこと、苦手なことがわかり、正7角形に近づけるためには、弱い部分を改善していくか?を探って行きます。どうしても得意なことを伸ばしてしまいがちですが、それは逆効果なのです。

小俣さんは、若年層で特定の競技に特化するのではなく、さまざまな運動やスポーツを行うことを推奨。そうすることで、強い体力と高度な運動能力が養われるのです。

子どもの頃から特定のスポーツだけをやっていると、子どものレベルでしか通用しない体力運動能力やスキルが形成されてしまします。さまざまな運動やスポーツをすることで、「スポーツ万能」になることを目指していくのが理想ということでした。

以下実際に可視化された、育成診断テスト結果です。適性基準(理想的な状態)の目安となる緑色の線と実測の赤い線に大きな乖離があります。この部分に若年層で特定のスポーツに特化していることの弊害が表れており、このまま放置すると深刻なけがや障害、パフォーマンス低下や頭打ち、ひいてはスポーツを断念せざるを得ない状態を引き起こす可能性もあることを示しています。

測定項目ごとの克服トレーニングを実演

説明会後半は、友岡さんによる各測定項目改善のためのトレーニング講座です。

実演しながら、各トレーニングを解説。ほとんどが自宅で手軽にできるものばかり。今回の測定結果からわかった苦手項目を、これらのトレーニングで改善することで、バランスのよい体力運動能力を身につけることができるようになるでしょう。

体力運動能力をデータで「見える化」することで客観的・定量的な判断を

友岡さんによると、大リーガーでけがが少ない選手というのは、野球以外のスポーツもやってきた経験がある人が多いとのこと。ダルビッシュ有投手も、子どもの頃はアイスホッケーをやってたそうです。

思い返せば、中学生の頃、野球部が冬場になるとサッカーをやっていた記憶があります。「野球部、遊んでるのかな」と思っていましたが、あれもトレーニングだったのですね。

体力運動能力テストをグラフにして「見える化」することで、子どもたちの何が足りないのか、そしてどんなトレーニングをすればいいのかがわかるようになります。

受講した指導者・保護者の方々よりは、

・バランスの良い育成に目がいっていなかった

・長期育成の視点に気づいた

・野球バカにしてはいけない

・けがとの関係が整理できた

・何をしたらよいかよい示唆をもらった

・継続して行うチームプログラムにしたい

との声があがりました。

以前は競技力を向上するための特化したフィジカルトレーニングのみを行っていたが、最近の指導者は障害予防のこと、また子供たちの将来についても考えているコーチも増えてきているため、そこでドームアスリートハウスの友岡氏のような専門家が正しい測定方法を提示し、それを改善していく情報を提供することが大切ということがデータによっても再認識がなされました。

子どもたちが自分自身で考えてトレーニングをするというのは、なかなか難しいこと。やはり、大人がしっかりとデータを把握し、指導していくことが、子どもたちの体力運動能力の改善向上、そして「スポーツ万能」にするためには不可欠だと言えます。


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(取材・TEXT・PHOTO:三浦一紀/企画・編集:野島光太郎)

 

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