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エフェクチュエーションとは? 起業家注目の意思決定の理論、その5つの原則

         

コロナ禍という未曾有のパンデミックにより、人々の生活様式が変化する中、ビジネスも変革の時を迎えようとしています。

そうした中で注目を集めているのが「エフェクチュエーション」という意思決定の理論です。

従来のアントレプレナーシップ(起業家的行動能力)を新たな視座から編み直すこの「エフェクチュエーション」とはいったいどんなものなのか、この記事でご紹介いたします。

「エフェクチュエーション」とは?

​​L市場は「発見される」ものではなく「つむぎ出される(fabricated)」ものである
サラス・サラスバシー、加護野忠男(監訳)、高瀬進・吉田満梨(訳)『エフェクチュエーション: 市場創造の実効理論 』

​​「エフェクチュエーション(effectuation: 実効理論)」はインド出身の経営学者、サラス・サラスバシーが2008年に書籍『エフェクチュエーション: 市場創造の実効理論 』の中で体系化した意思決定の理論です。日本では2015年に訳書が刊行され起業家たちの間で注目を集めつつあります。

サラスバシーはカーネギーメロン大学のノーベル経済学賞受賞者であるハーバート・サイモンの最晩年の弟子であり、熟達した起業家の意思決定についての研究で博士論文を執筆。認知科学、熟達研究の知見を適用したアントレプレナーシップ研究に従事しています。

「エフェクチュエーション」では、市場は発見されるものではなく「つむぎ出される(fabricated)」ものとされています。「エフェクチュエーション」は、未来は予測可能であり、ゆえに目的から逆算する「コーゼーション(因果推測)」という従来の考え方の対比として「cause and effect」から着想を得たものだといいます。

​​「コーゼーション」が、未来が予想可能(predictable)で、明確な目標があり(clear)、わたしたちの活動から環境が独立(independent)している際に有効であるのに対し、未来が予測不可能(unpredictable)で、目標が不明瞭(unclear)で、人間の活動によって環境が駆動(driven)される際に「エフェクチュエーション」は有効になるといいます。

エフェクチュエーションでは、さまざまな形で「彼らが誰であるのか(who they are)」「何を知っているのか(what they know)」「誰を知っているのか(whom they know)」に立ち返り新たな世界を想像するといいます。

0→1のフェーズでは「エフェクチュエーション」が、1→10のフェーズでは「コーゼーション」が有効であると言われており、どちらが上、という対立関係ではなく、状況に応じて二つの手法は使い分けられるものです。

サラスバシーは、未来が予測不能で、目標が不明瞭で、人々の活動が環境を駆動する時、経験豊かな熟達した起業家はどのような意思決定をするのか、その「論理」「プロセス」「5つの原則」を体系化しまとめました。

「エフェクチュエーション」を構成する5つの原則とは?

それでは、熟練の起業家たちが不確定な状況の中で市場をつむぎ出す際に使っている5つの行動原則とはどのようなものなのか、紹介します。

 

(1)「手中の鳥(Bird in Hand)」の原則

ビジネスチャンスを生み出す際に、手法・人脈を新たに発見したり、開拓したりするのは大変なもの。そこで、熟達した起業家は、既存のリソース(能力、専門性、社会的ネットワークなど)を活用し新しいビジネスチャンスを形成するといいます。

そして、すでに手中にある手段を見定めるために「私は誰であるのか(who I am)」「何を知っているのか(what I know)」「誰を知っているのか(whom I know)」を再考する必要があり、このプロセスは「手中の鳥(Bird in Hand)」の原則と呼ばれています。

(2)「許容可能な損失(Affordable Loss)」の原則

「許容可能な損失(Affordable Loss)」の原則とは、予測不能な未来に対し、その程度まで損失を許容できるか、ということを事前にすり合わせておくことをいいます。

投資に対するリターンが見えない中で、事前に決めていた許容可能な損失を上限として行動することで、リスクコントロールをするのです。

いきなり巨額の投資を試すのではなく、小さな一歩として少額の投資でトライ&エラーを繰り返し次のプロセスへと進むことの重要性を示唆しています。

(3)「クレイジーキルト(Crazy-Quilt)」の原則

「クレイジーキルト(Crazy-Quilt)」は、大きさも柄も違う布切れを縫い合わせて作られた布のことをいい、この「クレイジーキルト」のように、ユーザー(顧客)や競合他社、従業員など、起業家をとりまくステークホルダーと関係性を保ち、パートナーシップを作りゴールを目指すことを「クレイジーキルト(Crazy-Quilt)」の原則と呼びます。

一連の関係者として競合他社が含まれているのが大きな特徴で、予測不能な状況下で、対立関係としてつながりを断絶するのではなく、パートナーとして巻き込むことでが新たな事業の拡大につながるといいます。

(4)「レモネード(Lemonade)」の原則

アメリカのことわざに「When life gives you lemons, make lemonade(人生がレモンをくれたら、レモネードを作ればいい)」というものがあります。ここでのlemonには、「よくないもの、うまくいかないこと」のようなニュアンスがあり、レモンに一手間かけてレモネードを作るように、うまくいかないことも工夫やアイディア次第で美味しく生まれ変わらせることができる、という意味があります。

これに準え、失敗作や欠陥品(lemon)も見方を変えたり、使い方を工夫すれば新しい価値を生み出せる、というのが「レモネード(Lemonade)」の原則です。

従って、「エフェクチュエーション」では失敗を恐れるのではなく、失敗した際にいかにそれをチャンスと捉え成功に繋げるか、という点が重視されます。

(5)「飛行機の中のパイロット(Pilot-in-the-plane)」の原則

最後となる5つ目の原則は、「飛行機の中のパイロット(Pilot-in-the-plane)」の原則と呼ばれます。これは操縦桿を握る飛行中のパイロットのように、常に変化する計測器の数値を確認しながら、刻一刻と変わりゆく状況を冷静に観察し、臨機応変に対応する、というもの。ここまでの4つの原則を網羅した上で、その状況に応じた行動をする重要を語る原則です。

「エフェクチュエーション」が有効となる不確実な状況下では、日々状況を観察し、周囲の人々に働きかけて、現在を起業家自身の戦略によってつむぎ出せば良いといいます。

先が見通せない今をビジネスチャンスと捉える「エフェクチュエーション」はコロナ禍以降の世界に向けて鍵となる考え方の一つです。新たなチャレンジをするときには、「エフェクチュエーション」の5つの原則を頭の片隅に置いておくといいかもしれませんね。

サラスバシー本人が行ったエフェクチュエーションに関するTED公演の動画もなかなか面白いのでぜひこちらも合わせてご覧ください。

【参考引用書籍・サイト】

(大藤ヨシヲ)

 

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