データのじかんでは前回、こんな記事を書きました。
なんとかXの記事が想像以上に好評だったので、今回はその中の一つである「SX」について深掘りしていきたいと思います。
SXとは、サステナビリティ・トランスフォーメーションのことであり、経済産業省において不確実性が高まる環境下で企業が『持続可能性』を重視し、企業の稼ぐ力とESG(環境・社会・ガバナンス)の両立を図り、経営の在り方や投資家との対話の在り方を変革するための戦略指針、と定められています。
ここでいうサステナビリティとは「環境・社会・経済など多岐にわたる持続可能性」のことであり、サステナビリティ経営とは、その3つの観点すべてにおいて持続可能な状態を実現する経営のことです。 今話題のSDGsを略さずに言うと「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」であり、サステナブルとはSDGsの頭文字の「S」であることがわかります。
一方、ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の3つの単語の頭文字を取った言葉です。ESGの一例を挙げると、Environmentは地球温暖化対策、Socialは女性活躍、Governanceは経営の透明性、などがあります。これまで投資家はキャッシュフローなどの財務情報を判断材料にしてきました。しかし近年、企業がESGに配慮しているか否かを判断材料の一つとする投資家たちが増えて来ています。ちなみに、ESGに配慮して行う投資をESG投資です。
ゆえに、SXとはこれまでの経営からドラスティックに変革する戦略であることがわかります。
DXとは、「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略です。この概念は、ビジネスや日常生活に革新をもたらし、新たな価値を創造するために、IoTやビッグデータなどのテクノロジーを活用することを指します。一方、SXは企業と社会のサステナビリティを同時に追求する概念です。これらは現代社会で注目を集めていますが、目的や意義は大きく異なります。
GXは、「Green Transformation(グリーントランスフォーメーション)」という言葉の略称で、経済成長と環境保護の両立を目指しています。具体的には、従来の化石燃料に依存していたエネルギーを再生可能エネルギーに切り替えることや、社会システムや産業構造を根本から変えることで、CO2の排出量を減らし、経済成長を促進します。GXは特に、温室効果ガスの削減に重点を置いており、カーボンニュートラルを実現するために重要な施策となっています。一方、SXは貧困や人権問題などの社会的な課題の解決も目指しています。この点がGXとの違いです。
SDGsは、2015年の国際サミットで採択された国際目標で、持続可能な世界を目指すための取り組みです。17のゴールと169のターゲットから成り立っており、先進国と発展途上国が協力して達成を目指しています。一方、SXは企業が実施すべき具体的な行動や将来像を示し、持続可能な社会を目指すものです。そのため、SXはSDGsの実現に不可欠な変革の一部と言えます。
前章では、SXと関連語句との違いについて紹介しましたが、本章ではサステナビリティについて触れます。
サステナビリティには上記の2種類があると言われているので、紹介します。
「企業の持続可能性(サステナビリティ)」というのは、経済産業省の資料によれば、「企業の稼ぐ力の持続性」と言い換えられています。ビジネスにおいて、企業が収益を上げることはもちろん重要ですが、SX時代では、その収益を長期的に維持・向上させることが求められます。
単に現在の事業の成功だけでなく、将来の市場でも競争力を維持する必要があります。そのためには、以下のような取り組みが重要です。
また、SXに取り組み、自社の持続可能性を明示することは、「信用を得る」という点でも重要です。自社のステークホルダー(利害関係者)に良い印象を与えることで、「資金調達や利益確保がしやすくなる」というメリットが生まれるのです。
2つ目の視点は「社会の持続可能性」です。経済産業省の資料によれば、これは「将来の社会の姿や持続可能性」とも言い換えられます。最近では、コロナ禍やロシア・ウクライナ戦争など、予測不可能な出来事が次々と起こっています。これらの不確実な社会において、企業が持続的な成長を遂げるためには、具体的な将来像を描き、それに基づいてビジネスを展開することが重要です。また、SDGs(持続的な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)にも注目することが重要ですが、それについては後ほど詳しく説明します。
経済産業省発行は、『サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間取りまとめ~サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の実現に向けて~』(2020年8月)という報告書を発表しています。これの6ページ目には、SXの定義が書かれています。
=========================================================
「企業のサステナビリティ」と「社会のサステナビリティ」を同期化させた上で、企業と投資家の対話において双方が前提としている時間軸を長期に引き延ばすことの重要視した経営の在り方や対話の在り方を「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」という。
=========================================================
つまり行政側としては、企業の継続性はもちろんのこと、社会の持続可能性をも考えることがSXである、と考えているわけです。
上の中間とりまとめが出されたのは、新型コロナウイルス第2波の頃。まだこのウイルスについてわからないことが多く、社会不安が続いていた時です。そのような状況下で、政府をはじめ各団体の提言が相次ぎました。未知のウイルスとの共存を想定しながら、ビジネスモデルの変化や産業構造の変容が検討されたのです。
ここで面白い事実があります。首相官邸「未来投資会議(第42回)」の中の「内閣官房日本経済再生総合事務局」作成資料 によれば、企業戦略を見直した・見直す予定が71%、企業戦略を見直す予定はないが29%となっています。そのうち、見直しの内容(上位3項目)については、「持続可能性を重視した経営への転換」が68.7%と最も多くなっています。企業戦略を見直そうと考えて居る企業のほとんどが、サステナビリティを重視しているわけです。
このように、新型コロナウイルス第2波の時点で、SXを検討している企業が多かったことがわかります。もしかすると、DXよりもSXの検討を先に進めていた、という企業も多かったのかもしれません。
では、SXを進めるにあたり、どのような点が必要なのでしょうか? SDGs CONNECTというサイトでは、以下の3つを挙げています。
それぞれ順に紹介します。
サステナビリティとは、どんな社会の変化にもしなやかに対応すること。そのためにも、新事業の種植えは常に行っておく必要があります。そのためには、安定した企業経営が必要ですし、各事業の「収益性」「成長性」「安全性」のバランスを保つ必要があります。企業には、稼ぐ力が求められるのです。
新型コロナウイルス感染症や某国による侵攻、気候変動など、現代はありとあらゆるリスクにさらされています。その環境下で、企業を持続的に成長させるためにも、不確実性に適応していく柔軟性が必要です。それには、短期的な視点ではなく、長期的な視野に基づいた経営が求められてきます。
いくら経営において長期予想をしたとしても、1000年に一度の災害が起こる現代。予め設定したシナリオ通りに進む方が珍しいと考える方が妥当かもしれません。そのため、企業と投資家が対話を繰り返し、企業の価値を高めることができるシナリオづくりを進めていくことが近道なのではないでしょうか。
ダイナミック・ケイパビリティとは、企業の変革力や対応力のことです。この言葉は、カリフォルニア大学バークレー校のデイヴィッド・J・ティース教授によって戦略経営論の中で提唱されました。政府が発表した「製造基盤白書(ものづくり白書)2020年版」では、以下のように定義されています。
ダイナミック・ケイパビリティとは、環境や状況が激しく変化する中で、企業が、その変化に対応して自己を変革する能力のことである。
また、具体的には下記の能力を指しています。
企業が持続的な成長を遂げるためには、上記のような能力を身につけるだけではなく、さらに強化していく必要があることも覚えておきましょう。
本章では、SXを実践している企業を5社紹介します。
順に紹介します。
ユニリーバは、イギリスのロンドンに本社を構える世界的な一般消費財メーカーです。2010年に、同社は「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン(USLP)」を導入しました。このプランは、ビジネスとサステナビリティを両立させることを目指しています。
具体的には、「すこやかな暮らし」、「環境負荷の削減」、「経済発展」という3つの分野で50以上の数値目標を設定しました。例えば、工場のCO2排出量を65%削減するなど、USLPの実践によってさまざまな成果を上げています。
さらに、2021年には「ユニリーバ・コンパス」という成長戦略を策定しました。この戦略では、「地球の健康を改善する」、「人々の健康、自信、ウェルビーイングを向上させる」、「より公正で、より社会的にインクルーシブな世界に貢献する」という3つの分野で具体的な数値目標を掲げ、持続的な成長を目指しています。
富士通は、日本を代表する大手の電子機器メーカーであり、ITベンダーでもあります。現在、グループ全体でSXに取り組んでおり、2020年には企業の目的を「イノベーションを通じて社会に信頼を築き、世界をより持続可能なものにすること」と刷新しました。さらに、この目的を達成するために、2021年には「Fujitsu Uvance」という新しい事業ブランドを立ち上げました。私たちは、以下の7つの分野に力を注ぎながら、持続可能な社会を実現するための様々な取り組みを始めています。
また、富士通はSXを社内に広めるために「サステナビリティ貢献賞」という社内評価制度を設けています。2022年度には、富士通グループ各社から166件の応募があり、その中から大賞2件と優秀賞7件が選ばれました。
みずほフィナンシャルグループは、みずほ銀行やみずほ信託銀行、みずほ証券などを含む、日本の大手金融グループです。富士通と同様に、グループ全体でサステナビリティ(持続可能性)の促進に取り組んでいます。具体的には、脱炭素化、資源循環、生物多様性の保護、人的資本など、さまざまな視点からアプローチしています。
さらに、約1,000人の「サステナビリティ経営エキスパート(みずほ所属のCSR検定2級合格者が対外的に名乗ることができる名称)」が在籍しており、自社だけでなく、お客様企業のサステナビリティ推進もサポートしています。
住友商事は総合商社として、サステナビリティの推進に力を入れています。そのために、「サステナビリティ推進部」という組織を設けており、ステークホルダーからの要望に応えながら、グループ全体の持続可能な活動を進めています。
具体的には、自社事業において重要な6つの課題を設定し、それに基づいて事業活動や社会活動を行っています。再生可能エネルギー事業や蓄電池のリユースプロジェクト、エネルギー供給の安定化など、各課題ごとに事業を展開しています。
また、特筆すべき取り組みとして、「100SEED」という教育制度があります。これは、世界中のグループ社員が参加し、対話を通じて学ぶ場です。全社員に均等に良質な教育の機会を提供し、サステナビリティへの理解を深めることを目的としています。
出典:ネスレ日本株式会社
ネスレは、自社のグローバルなビジネスリソースや専門知識を活かして、人々と地球の健康な未来を創造するために、食の力を活用することを信条としています。具体的な取り組みとして、森林破壊ゼロやプラスチック使用率削減など、一次サプライチェーンにおける取り組みを行っています。
特に注目されているのは、『キットカット』の紙パッケージ化です。大袋タイプ製品の外袋を紙に変える取り組みが進められ、その成果が「第44回木下賞 包装技術賞」を受賞しました。これらのプロジェクトにより、2018年以降のCO2排出量を400万トン削減することに成功しました。
なぜ今、SXが求められているのでしょうか?
それは、DXが持つ特色が原因としてあります。DXは、現時点の事業の効率化と価値向上を目的とした取り組みになりがちです。そのため、変革に限度があるのです。
対してSXは、事業環境が変化しても持続的に強みを発揮できる事業体制を想定していますので、DXよりもさらに広い視野で事業を見ていることがわかります。DXとSXのシナジーによりもしかしたら御社のトランスフォーメーションはさらに加速するかもしれません。もしもあなたがDXに行き詰っているように感じているのであれば、SXについて検討してみると良いかもしれません。
(安齋慎平)
サステナビリティ経営とは?取り組む意義とSDGsとの違い | PERSOL(パーソル)グループ
SXとは?注目される理由や実践事例、DXとの違いを解説 | busines leaders square wisdom
メルマガ登録をしていただくと、記事やイベントなどの最新情報をお届けいたします。
30秒で理解!インフォグラフィックや動画で解説!フォローして『1日1記事』インプットしよう!